有料老人ホーム「入居権」詐欺の極悪手口…「特養“待機高齢者”23万人」がターゲットに?

弁護士を名乗り電話連絡するという悪質なケースも(※写真はイメージです buritora / PIXTA)

有料老人ホームの「入居権」を譲ってほしいと持ちかけ、承諾すると後日「権利の譲渡は違法だ」などと金銭を要求する「偽電話詐欺」が全国で急増している。

社会福祉士の資格を持つ佐々木啓人弁護士=虎ノ門法律経済事務所=は、「『入居権』という言葉は法令上の用語ではなく、福祉の現場でも聞いたことがない」として注意を呼び掛ける。

「有料老人ホームの入居権が当たった」

国民生活センターの発表や報道などから現在わかっている代表的な「入居権」をめぐる偽電話詐欺の手口は以下。

①住宅メーカーの社員などをかたる人物がターゲット(主に高齢者)に対し、電話で「有料老人ホームの入居権が当たった」「あなたが持っている権利を他の人に譲ってもらえないか」などと持ちかける。

②ターゲットが①を了承すると、数日後、今度は弁護士を名乗る別の人物から電話があり「名義を他人に譲ることは違法・犯罪。問題解決のために現金が必要」などと脅して金銭を要求する。

「劇場型詐欺」とも呼ばれるように、複数の人物が関わり、被害者に「特定の状況」を信じ込ませることが特徴で、手口には上記パターンのほか、細部を変えたさまざまなバリエーションがある。

さまざまな手口で金銭を奪う

たとえば今年8月に新潟市で起きた事件では、①までは上記と同様の手口だったが、②で弁護士を名乗る人物が「(住宅)メーカーの社員が詐欺容疑で逮捕され、あなたの家にも家宅捜索が入る。財産を没収される前に弁護士会に預けてください」などと申し出たという。この事件で被害者の80代女性は現金300万円と電子マネーカード5万円分を奪われている。

9月に福岡県で起きた事件でも、①は上記と同様だったが、②で電話をしてきた男は弁護士を名乗らなかった。

その上で、「(名義の譲渡を持ちかけた)男が警察に捕まった」「あなたも留置場に入らなければいけないかもしれない。うちの顧問弁護士を紹介するから大丈夫」「裁判費用名目のお金が必要になる」などと被害者が犯罪行為に加担したかのように伝え、不安を煽り金銭を支払わせた。この事件では80代女性が現金1550万円と電子マネーカード15万円分を奪われた。

国民生活センターによれば、このような入居権をめぐる偽電話詐欺は、2014年に急増。その後被害件数が減少していたが、昨年から再び増加に転じたという。今年に入ってからも、全国で被害が相次いでいる。

国民生活センターHP(https://www.kokusen.go.jp/news/data/n-20221207_1.html)より

有料老人ホームが詐欺に利用される背景

前出の佐々木啓人弁護士は、こうした偽電話詐欺が増加する背景には「高齢者施設が入所困難というイメージ」があるのではと指摘する。

厚生労働省の調査(2022年)によれば、公的施設「特別養護老人ホーム(特養)」に入所希望者が殺到し、入所を希望したのに入れなかった待機人数は39都道府県で約23万3000人 に上った。

しかし市町村ごとの特養の稼働状況をめぐっては「基本的に全ての施設で満員」と答えた市町村が半数近くを占めた一方で、「施設・時期によって空きがある」と回答した市町村もあった。また、民間の事業者が運営する「有料老人ホーム」に待機者がいるのかについては正式な調査はされていない。

佐々木弁護士は「民間の有料老人ホームであっても、受け入れられる人数に限りがあるため、誰を入居させるかを選択することはある」としつつ、「だからといって『入居権』の有無や、その譲渡を受けたことで入居が決まるわけではない」と断言する。

「そもそも申し込みもしていないのに、高齢者施設に入居する話が“降って沸いてくる”ことはありえません。そのため、突然『入居権』の話が出てきたら、詐欺と判断していいでしょう」(佐々木弁護士)

「入居権」を他人に譲ってしまったら?

ちなみに1件目の“偽電話”で「入居権」を他人に譲ってしまったとしても、慌てる必要はないようだ。

「ありもしない『入居権』を電話口で知らない人物に譲渡したとしても、“名義貸し”の責任を問われることはありませんし、それが犯罪になることも、およそ考えられません。

詐欺組織は、『困っている人のためなら』といったあなたやあなたのご家族の優しさ、義理人情も利用してだまそうとしてきます。

高齢のご家族がいる場合、そもそも知らない番号の電話には極力出ないことや、電話口で金銭を要求された際はひとりで判断せず家族に相談するよう、日ごろから話をしておくと良いでしょう」(同前)

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