研究室から社会へ 電子ジャーナル「Journal of Digital Life」が九産大で初カンファレンス

デジタル技術に関する学術論文の電子ジャーナル「Journal of Digital Life(ジャーナル オブ デジタルライフ、JDL)」は16日、福岡市の九州産業大学で「The Conference of Digital Life vol.1」を開催した。基調講演や、研究に基づいたプロジェクトを紹介するショートピッチ大会が行われ、異なる業界の研究者らが活発に意見を交換した。

カンファレンス参加者の質問に答える研究者たち=16日、福岡市の九州産業大学

JDLは2021年に創刊したオープンアクセスジャーナル。会員らによるオンラインカンファレンス「The Conference of Digital Life vol.0」が3月、試験的に開催された。一般参加者を募ってオンライン・オフライン両方で実施するのは今回が初となる。

同大教授でJDL共同編集委員長の磯貝浩久氏は「研究者と産業界のマッチングをテーマに掲げるJDLが(産業と学問を一体として捉えた)『産学一如』を理念とする九産大でカンファレンスを開くことを大変うれしく思います」と開会のあいさつを述べた。同大の津上賢治理事長と福岡市長の高島宗一郎氏も産学官の連携が重要だとするメッセージを送った。

総務省国際戦略局技術政策課の清重典宏氏は、第5世代(5G)移動通信システムに続いて2030年代に登場すると予想される「Beyond 5G(6G)」について基調講演で解説。Beyond 5Gが「社会の神経」として生活や経済に深くかかわる可能性がある一方、通信基地局の機器の世界シェアにおいて日本メーカーはわずか約1.5%だと指摘して、国際競争力の強化だけでなく経済安全保障の観点からも海外メーカーの後塵(こうじん)を拝する現状を変えたいと語った。

当日の最も優れた講演論文発表に贈られる「ザ・カンファレンス・オブ・デジタルライフ・ベストプレゼンテーション・アワード」は、足の裏を突起物や温感で刺激することで歩行の改善を促す研究を発表した岡山県立大学・大下和茂准教授が受賞した。支援を求めて研究を発表するショートピッチ大会「デジタルインスパイア」では、デジタル技術で都市のインフラを最適化するスマートシティや、現実世界と仮想世界が高度に融合したSociety 5.0の基盤として、コンピューター上に実際の地形や都市を構築する「点群データ」という技術を活用したいと訴えた法政大学大学院の山本忍氏(博士後期課程1年)が最優秀賞に選ばれた。

JDLに投稿された論文を対象に、最も優れた論文を表彰する「アウトスタンディングペーパーアワード」の社会科学分野では上海交通大学のシー・モンイャォ氏が受賞した。生命科学など3分野は受賞者なしとした。

投稿時に第一著者が満40歳以下の優れた論文を表彰する「ヤング・リサーチャー・アワード」は、西日本工業大学の古門良亮講師、福岡大学の長嶺健助教、千葉商科大学の伊藤泰生准教授らに贈られた。将来性や新規性が際立った論文に贈られる「スペシャル・アワード」は名古屋大学大学院の佐々木康教授が受賞した。

JDLを運営する産経デジタルの土井達士社長は「JDLはまだ発展途上だが、アカデミックの世界や産業界にインパクトを与える媒体を目指して着実に進んでいる。今後も社会の発展と進歩に貢献していきたい」と話した。来年の同時期にもカンファレンスを開催する予定だという。

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