「ヒロユキの映画は全部好きだよ!」スタエルスキ監督が明かす『ジョン・ウィック:コンセクエンス』壮絶アクション撮影

チャド・スタエルスキ監督

『ジョン・ウィック』シリーズ待望の最新作『ジョン・ウィック:コンセクエンス』が、ついに2023年9月22日(金)より全国公開中だ。ということで、公開に先駆けて来日を果たしたチャド・スタエルスキ監督のインタビューをお届け。記者会見で「キアヌのぶんまでお礼を言いたい」と挨拶したスタエルスキ監督が、『コンセクエンス』の壮絶なアクションシーンの撮影秘話、そして現役アクション・レジェンドである真田広之へのリスペクトを語ってくれた。

「観客にも映画の中のキアヌと同じぐらい疲弊して欲しかった」

―『ジョン・ウィック:コンセクエンス』は、これまで私たちが観てきたアクション映画の限界を突破した作品で感動しました!

ありがとう(笑)。

―今回は169分というシリーズ最長の上映時間の中に、常軌を逸したアクションがパンパンに詰まっているので、鑑賞後はイイ意味でグッタリしました(笑)。

映画を観終わった人たちに、そういう状態になって欲しかったんだ! もともと『ジョン・ウィック:コンセクエンス』は観客の好みが分かれるかもしれないけど、ちょっと「長いな」と感じてもらえる映画にしたかったんだよ。

―それは何故ですか?

ちゃんと説明すると長くなるんだけど……(笑)。ギリシャ神話にシーシュポスの物語というのがあるんだ。シーシュポスは死を2回逃れたので、罰として大きな岩を長い坂の上まで押し上げなければならない、という試練を与えられる。そして、ジョン・ウィック(キアヌ・リーブス)は前作までに死を3回逃れているから、今回はシーシュポスの試練なみの疲労感を与えて、観客たちも映画の中のキアヌと同じぐらい疲弊してしまうような感じになって欲しくて、あえて上映時間を長くしたんだ。

「最低限のセリフでいかにたくさんのことを表現できるか、ということに挑戦している」

―本作はシリーズ中で上映時間が最も長いのに、キアヌさんのセリフが最も少ない、と思いました。もともと『ジョン・ウィック』1作目(2014年)の時にもキアヌさんは脚本に書いてあったセリフを極限まで削って、ジョン・ウィックを寡黙なキャラクターにしたそうですね。

キアヌにセリフはいらないからね(笑)。そもそも僕らが『ジョン・ウィック』の脚本を作る時は、伝統的な作り方をしていないんだ。まずは僕とキアヌがお互いにアイデアを出し合う。その後、僕がストーリーを書いて、そこから脚本家に入ってもらって作るんだけど、セリフはシンプルというか、あえて作りこまない感じにしておくんだ。基本的に、「この場所でのジョン・ウィックはこう思っている」ということがわかるように、「いま、俺は怒っている」程度のセリフが書いてあるぐらいなんだよ。これは撮影のためというより、スタジオがチェックした時に「なんでキアヌのセリフがないの?」とツッコまれるのを避けるためと、「そのとき、他のキャラクターがどんな感情なのか」ということを理解するために入れているだけで、実際にはキアヌが演技で表現をするので、1作目の時から脚本にはジョン・ウィックのセリフが多く書いてあるけど、撮影の時に使われない、というやり方をずっとしているよ。『ジョン・ウィック』シリーズはサイレント(無声映画)だと思っているので。

僕らはアメリカ映画の、セリフで全部説明するところが苦手なんだ。「あなたは僕の師を殺したから、僕は今からあなたを殺します!」みたいなセリフがあると、「観てればわかるよ!」と思うことが多くて(笑)。自分の映画がそうなるのが嫌だから、『ジョン・ウィック』シリーズでは「最低限のセリフで、いかにたくさんのことを表現できるか」ということに挑戦している。僕らが思うに、3ページにわたるセリフで説明するよりも、キャラクターの行動と選択をちゃんと描いたほうが色々表現できると思う。しかも観客が隙間を埋めていかなければいけないから、セリフで説明されるよりもキャラクターに寄り添える、と思うよ。

―今回も1作目のようにキアヌさんがセリフを削っていったわけですね?

そうだね。ジョン・ウィックのキャラクターに関しては、キアヌが性格的な部分やセリフを考えている。彼はセリフを言わずにキャラクターの感情を表現することが得意な俳優だから、「ジョン・ウィックが何を言うべきか?」というセリフの選択も、ほぼ全部しているよ。たまにセリフを削りすぎて「頼むから、あと1行はセリフを残しておいてくれよ!」とお願いする時もあるけど(笑)。

でも、キアヌは共演者との仕事ぶりも素晴らしくて、シーンのリズムを上手く掴んで表現することができるんだ。心がとても広い俳優なんだよ。例えば、コンチネンタルホテル・ニューヨークの支配人ウィンストンを演じるイアン・マクシェーンはシェイクスピア的な俳優で、ドニー・イェンは独特のエネルギーを持った俳優なんだけど、彼らと共演する時のキアヌは、「自分のセリフが多いほうが良い!」と思っている俳優じゃないので、「じゃあ、2人にはこんな感じでやってもらって、僕は無言でガンを飛ばすから」みたいな感じで進めていくんだ。

「ヒロユキが若い頃に出したアルバムを持ってるよ!」

―日本のアクション映画ファンが『ジョン・ウィック:コンセクエンス』で嬉しかったことは、真田広之さんを大阪・コンチネンタルホテルの支配人、シマヅ・コウジとして『ジョン・ウィック』の世界に迎え入れてくれたことです!

イェーッ(笑) やっぱり、そう思ってくれたんだ!

―しかも、真田広之VSドニー・イェンなんて夢のような対決を生きている間に観ることができるとは思っていませんでした。ありがとうございます!

僕も君のように夢の対決を観たかったんだよ(笑)。

―真田広之さんとドニー・イェンさんとの対決を描こうと思った理由を教えてもらえませんか? お2人を起用した理由は?

(日本語で)ヒロユキはトモダチです! ヒロユキとは旧知の仲だったから、前から「一緒に仕事がしたい!」と言っていたんだけど、なかなかスケジュールが合わなくて……。実は前作『ジョン・ウィック:パラベラム』(2019年)に登場したゼロ(マーク・ダカスコス)の役はヒロユキにやって欲しかったんだけど、スケジュールが合わなくて実現できなかったんだ。

僕は『エクスペンダブルズ』(2010年)、『エクスペンダブルズ2』(2012年)のアクション監督をやっていたから、チャック・ノリス、アーノルド・シュワルツェネッガー、ジェット・リー、ジェイソン・ステイサム、シルヴェスター・スタローン、ウェズリー・スナイプス、ブルース・ウィリスたちと知り合いだ。それで、『ジョン・ウィック』の新作を作る時はいつも、「次は誰を登場させようかな……ウェズリー・スナイプスが良いかな? ジャッキー・チェンが出たら面白くなるかも!」って考えるんだよ。

―個人的にはウェズリー・スナイプスさんのガン・フーが観たいです!

そういう感じに僕も考えているよ(笑)。今回の映画では、どういう考えからヒロユキとドニーに決めたかというと、「かつては親友だった男たちが戦う」シーンを描きたかった。そのシーンを観た観客には「どっちが勝つのか? どっちを応援して良いのかわからない……」という気持ちになって欲しかった。そうなると、観客にとって思い入れがある俳優じゃなければダメだよね? 僕も含め、観客がそう思える俳優はドニーとヒロユキの2人だと思ったんだ!

―たしかに!

まあ、僕が二人のファンだから、「いつか一緒に仕事がしたい」と思い続けていた、という理由もあるんだけど(笑)。それと、ドニーのキャラクターに関しては、キアヌとも映画の中で「かつては親友だったけど戦わざるを得なくなってしまった」という状況になるよね。ここでも「どっちが勝つのか? どっちを応援して良いのか……」と思って欲しかったから、出演してもらいたかったんだ。それでヒロユキとドニーには「今回はどうしても出演して欲しい!」とお願いをしたら、スケジュールがうまくハマったんだよ。ラッキーだったね!

―真田広之さんが過去に出演されたアクション映画で好きな映画があったら、ぜひ知りたいんですが……

『ジョン・ウィック:コンセクエンス』かな。って、冗談だよ(笑)。ヒロユキの映画は全部好きだよ! 特に昔の作品、ヒロユキが歌を唄っていた頃の作品かな。

―真田さんが主題歌を唄っていた作品といえば『忍者武芸帖 百地三太夫』(1980年)や『吠えろ鉄拳』(1981年)ですね!

ヒロユキが若い頃に出したアルバムを持ってるよ!

―本当ですか!?

ちょっとディスコっぽい感じの歌も唄っているよね(笑)。その頃からヒロユキのファンだよ!

「日本の歴史、とくにサムライがいた時代に作られたアートについて改めて深く勉強した」

―真田さんが演じるシマヅ・コウジが総支配人を務める大阪・コンチネンタルホテルのシーンは、僕らの知っている日本とは違う『ジョン・ウィック』オリジナルの日本を楽しめました。

ありがとう!

―チャド監督は今回、座頭市からインスパイアされて盲目の殺し屋ケイン(ドニー・イエン)のキャラクターを生み出したり、映画のあるシーンでウォルター・ヒル監督の『ウォリアーズ』(1979年)にインスパイアされた燃えるシーンを描いたりしていますが、大阪・コンチネンタルホテルのシーンや世界観を作るにあたって、影響を受けた映画はありましたか? 個人的にはジョン・フランケンハイマー監督が京都を舞台に撮ったアクション映画『最後のサムライ ザ・チャレンジ』(1982年)をチャド監督流にアップデートしたような感じで楽しめました。

たしかに『最後のサムライ ザ・チャレンジ』の影響もあるけど、それだけじゃないな。視覚的なスタイルというのは、自分が観てきた多くの作品や、自分が関わった映画の現場から吸収されていくものなんだ。だからウォシャウスキー姉妹、ジョン・フランケンハイマー、セルジオ・レオーネ、黒澤明、ウォルター・ヒルなどの自分が観てきた作品は、僕の頭の中に入ってしまっていて、そこから逃れることはできない(笑)。ちなみにジョン・フランケンハイマーといえば、パリのサクレ・クール寺院の階段のシーンの照明の感じは、フランケンハイマーの影響を受けてるな、って自分でも思うし(笑)。

―222段ある階段での死闘シーンですね。

でも、大阪・コンチネンタルホテルに関しては一本の映画や一人の監督の影響だけじゃないかな。どちらかというと、日本のアニメーション作品の影響の方が強いと思う。『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』(1995年)や『AKIRA』(1988年)などの具体的な作品というわけではなくて、色味全体の使い方みたいなものはインスピレーションを受けているかな。僕がアクション監督を務めた『マトリックス』シリーズも日本のアニメの影響を受けた作品だったけど、個人的には、ちょっとトーンがダークかなと思っていた。僕はカラフルな画面がとても好きだから、もっと色味のある、現実とは違う『ジョン・ウィック』オリジナルの大阪を作りたかったんだ。

―たしかに『ジョン・ウィック』シリーズは色の使い方が素敵な映画ですね。

色の話が出たから、さらにカラーグレーディング(画像や映像に色彩の補正を加えること)の話をすると、『ジョン・ウィック』1作目と『ジョン・ウィック:コンセクエンス』の間では色味を出す技術が、もうめちゃめちゃ進歩して、1作目の時にはできなかったことができるようになったんだ。1作目の時には日本のアニメ作品みたいな、ネオンのような紫やピンク色が出せなかった。でも、今の技術ではそれができるようになったことと、ダン・ローストセンという素晴らしいキャメラマンがいてくれることで、色彩をより極めることができるようになったんだ。黒味も、めちゃめちゃ黒を深くすることができるし。

―大阪・コンチネンタルホテルだけでなく『ジョン・ウィック』シリーズは映画オリジナルの世界観も見所のひとつですね。シリーズが作られるたびに、世界観は広がっていきますが、どのように作っているんですか?

個人的にも『ジョン・ウィック』オリジナルの世界を作っていくことが、このシリーズを監督する楽しみなんだよ(笑)。1作目からスタートして今回4作目になるから、アクションだけでなく世界観も進化させないといけないと思っている。そのために僕は、3作目『ジョン・ウィック:パラベラム』が完成して今回の『ジョン・ウィック:コンセクエンス』を撮影する間に1000本ぐらいの映画、テレビドラマ、本から吸収していったんだ。

―具体的にどんなものを吸収されたんですか?

特に勉強したのは日本の歴史。サムライのことや、彼らがいた時代に作られたアートについて改めて深く勉強したよ。で、大事なのは吸収した知識をどうやって自分のものにして『ジョン・ウィック』の世界に活かすか? ということ。 僕は「いろいろなものから少しずつ影響を受ける」ことを大事にしている。色彩はあの作品から少し、構図はあの映画から少し、という感じで新しい世界観や画面を作っていく。例えば大阪・コンチネンタルホテルの中に甲冑や刀などの工芸品が展示された部屋があったよね。あの中で使われている、日本の工芸品は本物なんだよ。

―ゴージャスですね!

それぞれ違う時代のものなんだけど、工芸品をガラスの展示室ケースに入れて、照明を作ることによって新しいビジュアルができる。そうやって『ジョン・ウィック』オリジナルの世界ができるんだ。これはとても幸運なことだと思うし、それを可能にしてくれてるスタジオのライオンズゲートにも感謝しているよ。ちょっと「イカれた監督だ」って思われてるみたいだけど……(笑)。まあ、やらせてくれるから。

「最高のスタントチームが集まり、キアヌと犬もしっかり練習してくれた」

―今回はすべてのアクション・シーンがクライマックス級のものばかりでした! しかも、すべてのアクション・シーンが今まで以上に長いですよね。

そこはこだわったよ(笑)。

―ジョン・ウィックが凱旋門前の道路で、走ってくる車を避けながら殺し屋軍団と戦うシーンは凄まじかったです。あのシーンは、通常の銃撃戦と格闘戦だけでなく、ビュンビュン走ってくる自動車を避けなければいけない、という危険なシーンなので撮影は大変だったんじゃないですか?

一番気をつけたことは、走ってくるバスがうっかりキアヌを轢かないことかな(笑)。あの凱旋門のアクション・シーンの撮影は、今回のすべてのアクション・シーンのなかで最も時間がかかったし、一番大変だった。

僕らにとって、普通の人間VS人間のファイトなら、このホテルの部屋でリハーサルが済んでしまうぐらい簡単なことなんだ。でも、たくさんの車が走る道路で戦うとなると、やっぱり大掛かりになってくるんだよ。あのシーンのためにスタント・ドライバーが世界中から50人参加したし、ワイヤーなどの仕掛けを使ったアクションのデザインをするだけでも4か月かかったんだ。

―そんなに!?

さらに撮影では、50人のスタント・ドライバーだけでなく、200人のドライバーが運転する自動車が走る中でキアヌがマルコ・サロールたちと戦う、という状況だから、ちょっとでもミスしたら危なかったんだよ。だから、リハーサルには4か月ぐらいかけた。まずは人間だけのファイトのリハーサルをやって、それが完璧になったら自動車も走らせるリハーサルをやる、という感じで。

しかも、撮影現場には語学の問題もクリアしなければいけなかったんだ。今回の撮影に参加したスタントチームは英語圏、日本、ドイツ、ブルガリア、フランス、さらに中国からも2人来ていて、それぞれ違う言語が無線で飛び交うなかで撮影しなければいけなかったから……。

―その問題を、どうやってクリアしたんですか?

リハーサルの時、現場に赤、青、緑など色の違うコーンを各色1000本、合計5000本用意したんだ。それでキアヌの場合は、青のコーンを1000本並べて、それを目印にたどりながらアクションするようにした。それに、このシーンでは賞金稼ぎのミスター・ノーバディ(シャミア・アンダーソン)が飼っている猟犬も戦うから、犬のリハーサルも念入りにしなければいけなかった。その甲斐あって、いざ撮影がはじまったら最高のスタントチームが集まってくれたし、キアヌと犬もしっかり練習してくれたから、スピーディに進めることができたよ! ぜひスクリーンで観てほしいね!!

取材・文:ギンティ小林

『ジョン・ウィック:コンセクエンス』は2023年9月22日(金)より全国公開

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