「アラクオ」最終回直前! 矢内達也プロデューサーが明かす裏話とともに、作品を振り返る<インタビュー前編>

EXILE/FANTASTICSの佐藤大樹さんが地上波連続ドラマ単独初主演を務めるドラマ「around1/4(アラウンドクォーター)」。かつてのアルバイト仲間だった新田康祐(佐藤)、平田早苗(美山加恋)、橋本明日美(工藤遥)、横山直己(松岡広大)、宮下一真(曽田陵介)ら5人が、アラサー前の25歳=アラクオを迎える中、それぞれが直面する“25歳の壁”、そして“恋の分岐点”にフォーカスを当て、人生と恋に悩み傷つき過ちを繰り返しながらも、自分なりの乗り越え方を見つけていく物語は、いよいよクライマックスへ。

正(平岡祐太)と別れた明日美は洋一(吉澤要人)とどう向き合うのか、そしてお互いの気持ちがすれ違ったままの康祐と早苗は向き合うことができるのか。気になる最終話を前に、TVガイドwebでは本作でプロデューサーを務める矢内達也さんを直撃。そのインタビューを前・後編にわたってお届けする。前編では、「アラクオ」(「around1/4(アラウンドクォーター)」)制作のきっかけや、5人のメインキャラクターのキャスティング秘話を語ってくれた。

――ドラマも残すは最終話のみとなりました。ABEMAのドラマランキングは常に上位、初回の見逃し配信は、ABCテレビドラマの中では歴代最高再生数を記録していますが、反響などはいかがですか?

「事務所の方や制作会社の方、仕事で会う方から『アラクオ見てますよ!』と直接聞くことが多いですね。結果がついてきてくれたのはうれしいですし、第1話を放送した時はまだ第2話以降の編集中だったので、『いいものができたんだな』と監督も含めてみんなの士気も上がってより結束力も固まりました。数字というのは魔力があるんだなと思いました」

――今回、短期間で全10話を撮影されたとのことですが、大変なこともありましたか?

「ドラマの設定として、早苗は池尻あたりに住んでいる設定なのですが、最終話では康祐と早苗が渋谷から歩いて早苗の家まで康祐が送るシーンがあって、そのシーンは夜から朝にかけて、実際に渋谷から池尻まで歩いてもらったんです。夜7時に渋谷に集まって、ちょっとずつ歩いて移動しながら撮影するみたいな。その時期は寝れないこともありましたね。ABCテレビのドラマL枠は全体で20日から25日で撮っていくので、時代には合っていないのかもしれないのですが(笑)、5人が集まるバーのシーンは全話を通して多く出てきたので、一気に撮影できたことはとても大きかったと思います。実は、今回全10話を約19日で撮り切ったんです。あっという間に終わって、これも最短記録ですね」

――NONKIの舞台となった渋谷のdiningbar KITSUNEもかなり盛り上がりを見せているようですね。

「ちょうど先日ロケで行ったのですが、ドラマとのコラボ企画をご提案したところ、オーナーの方にご快諾いただきました。演者のサイン入りTシャツを飾ってくれたり、ポスターを置いてくれたり、PRを店内で流してくださったりと、めちゃくちゃ協力していただいて。この間、FANTASTICSのライブ終わりも満員になったり、海外からもサインを見に来るために旅行で来てくれているみたいです。今までもこういったことは“やってはみたけど話題にならなかった”ことは多かったのですが、今回はいろいろやってみたことが結果に出ている感じがします」

――あらためて、この「アラクオ」実写ドラマ化きっかけを教えてください。

「僕が原作を読んでいたというよりは、プロデューサーの箱森菜々花さんから教えてもらって、そこから読んでみた時に『すごい分かる!』と思えたんです。僕は今35歳ですが、作品自体が7年前のものだったので、自分が25歳の時のことが書いてあるようで、純粋に自分自身が共感できたことが大きいですね。もう一つ、これは打算的なのですが、今まで自分がドラマでやってきた要素がすべて入っているといいますか。“不倫”、“浮気”、“カラダで恋をする”と、僕が今まで手掛けてきた作品のいろいろな要素が入っていながら、まだトライしたことのない“BL”の要素もあったので、『これをうまいことやったらすごいものが出来上がるんじゃないか』と思ったんです。自分が経験した要素もありつつ、トライしたい要素もあったから挑戦してみたかったという感じですね」

――確かに、直己は“BL要素”、明日美は“不倫要素”と裏テーマのようなものが織り込まれていますね。ドラマを作る上でこだわったポイントはありますか?

「まず、約7年前の原作だったので、一度2023年の設定に置き換えて、原作の読み切りオムニバス形式からいい具合に分解して、すべての話が並行して進んでいくようにしました。本づくりの段階で監督、脚本家が入った時に、実は一度第8話まで作っていたのですが、そこで一度立ち止まるタイミングがありました。会議室の壁に付箋を貼っていったんです。『7月◯日、この時に早苗と康祐は出会いました』と書いて、『じゃあ明日美はこの頃には正と出会っていないといけないか』と、カレンダーを作り直したんです。時系列をすべて表にして『この日は早苗はこうしている』『康祐はこんなことをしている』と全部書いていったんです。全部作り直して、『この日のことは、この話』と細かく組んでいったので、そこの矛盾はきっとないはずです」

――ドラマの演出でも7月7日から4月23日に戻るような演出がありましたが、その作業があったから、同じ25歳という時期でも変化を生み出せたということでしょうか?

「監督はそこを本当に大事にしていたので、実際にカレンダーにしてみると、例えば康祐と早苗のすれ違いでいえば、実際は3日ぐらいしかたっていないから『次の日に普通にしゃべれますかね?』と、そういう心情みたいなところは台本の部分でかなり大事に拾っていたところかもしれないです。本来なら、早苗と康祐の話ってそこだけ描けば4話分ぐらいだと思うのですが、それを全10話にちょっとずつ散りばめていったので、そこに対する理解は、佐藤くんも美山さんも一生懸命やってくれたと感じています。本読みの後に作ったカレンダーをお渡しして、『あなたの役の時系列はこうなっています』とお伝えして『なるほど!』と言っていただけました。カレンダーを作る作業はとても大切でしたね。このドラマのすべてだったかもしれないです」

――打ち合わせの中でキャスティングも決まっていったと思いますが、メインキャスト5人の起用理由を1人ずつ教えてください。まずは康祐役の佐藤さん。

「佐藤さんは、作品を問わずに一緒にやってみたいとずっと思っていたんです。『恐怖新聞』(フジテレビ系)や『Sister』(日本テレビ系)と、彼が出ている作品が注目を浴びているのはなんでだろうと思いながら、LDHさんがやっているライブを見に行った時に、メンバーの中でもすごくタレント性があるなと思って。MCをやって、踊って、演技もできる、だから一緒にお仕事をやりたいと思っていたところがあります。今回の企画をやるにあたって、康祐という人間が『チャラく見えるけど何か隠している』という、そこに対してのビジュアルの説得力が結構いると思うんですね。なんというか、『チャラそうって思うけど、その裏には実はこういう理由があって』と、見た目だけでは図りきれない根が真面目な人じゃないと演じ切れないと思っていて。それでマネジャーさんに『どんな方ですか?』と聞いた時に、『めちゃくちゃストイックなやつです。これをやると決めたらできるまで絶対にやる。人としては人懐っこいやつで、おっしゃっているキャラクターにピッタリだと思います』と言っていただいて、『康祐やん!』と思って、すぐマネジャーさんに『1回読んでみてください』と原作をお送りしました。そこからご本人も読んでくれて、実は企画が通る前から佐藤さんは『ぜひやりたいです』と言ってくれていました」

――番組SNSで上がっていたオフショットで、佐藤さんが筋トレしているお写真があったことをふと思い出しました。ああいう場面からもストイックさは伝わってきそうですよね。

「体を見せないといけない撮影の日は、前の日から水を抜いてサウナに行って、直前にトレーニングをやると体に張りが出るらしいです(笑)。あれ、初日だけじゃなくてこの撮影期間中は基本的にずっとやっていたみたいで、痩せすぎないぐらいには食べるけど、基本的にはあまり水とかも取りすぎずということをやり続けて、それでライブにも出ているから本当にすごいですよね。生まれ持ったものもあると思いますが、ちゃんと努力されている。彼の努力の結果がドラマにも出ていると思います」

――続いて早苗役の美山さん。美山さんとは「今夜、わたしはカラダで恋をする。」(ABEMA)でご一緒されたこともありますね。

「『子役のイメージから一つ殻を破りたい』というマインドであることはずっとお聞きしていたので、『今でもそうですか?』とまずお問いかけさせていただいたところから始まりました。一度『カラ恋』(「今夜、わたしはカラダで恋をする。」)でお会いした時に、いい意味で変だったんです。いわゆる、インティマシーシーンの直前でもグッと入りすぎず、みんなと笑いながらコミュニケーションをとって、そのまま本番に入っていく。結構気さくにお話されているのに、『よーい、スタート!』という合図とともに役に入り込めるのって、準備はしてくれていても芯がないとできないなと思ったんです。実は僕も当時は子役のイメージがあったのですが、スタッフや共演者の方に『今からインティマシーシーンを撮るよ』という時でも、恥ずかしがらずにやりにくそうな空気感を出さないようにできる、視野の広いしっかりとした方なんだなと思いました。見た目のかわいらしさとのアンバランスさが、自分の性事情をオープンにできない早苗の役柄にもぴったりだと感じたので、ご本人に一度お話を聞いていただきました」

――早苗はサパークラブを通して大きく変化していきましたが、最初の控えめな感じから、第7話のような“弾けた早苗”というのは美山さんにオーダーされていたのでしょうか?

「そこもまずは台本からそうしたことが大きいですね。やっぱり、5人が何か成長するドラマになってほしかったので、早苗は『健太という人間の考えに乗っかって生きてきた7年間を、自分なりに反省して成長した方がいいんじゃないか』と台本を作る段階から悩んだことで、一つのいいシーンが出来上がったと思います。美山さん本人は、(康祐が)目の前でキスしているのを奪って(康祐に)キスして弾けるというのが『できるかな、あまりキャラじゃないな』と一番不安そうでした。でも、『カラ恋』の時に夜中の撮影で50mぐらいの徒歩移動の際に、爆風スランプの『Runner』を歌いながら走っている姿を僕は見ていたので、『いやいや、あなたならできるよ!』と思っていました(笑)」

――いい意味でイメージも崩れそうですね(笑)。

「康祐がチャラそうに見える一方で、早苗は素朴な方なので『2人そろってキラキラするのはやめた方がいいよね』というのは最初から監督ともお話していました。キラキラした2人がイチャイチャラブラブするシーンを『どうぞご覧ください!』という作品ではないので、見ている方が離れないように、自分のこととして考えられる素朴さ、自然さが早苗にないとうそになってしまうと思っていたので、そこはキャスティングの時からかなり大切にしていました」

――序盤は悩む早苗に康祐が関わっていきましたが、後半になっていくにつれてそれが逆転して、康祐の悩みに向き合おうとしている早苗の姿も印象的です。

「そこは直己、一真、明日美の成長したタイミングも実はかなりこだわっています。直己は第7話で、一真は第8話で、明日美は第9話で、一人一人が一つ成長していって、第1話で集まっていた時ではかけられなかった言葉を、終盤に3人から康祐と早苗の2人に言えるシーンは大事にしました。最後まで向き合えていない康祐と早苗を、背中を押すように3人がボソッと放った言葉が康祐や早苗に刺さるシーンは面白くなっていると思います」

――続いて明日美役の工藤さん。先日放送された第9話では、明日美にとっては波乱の展開が起こりました。

「工藤さんは1回だけお会いしたことがあって。『年下彼氏』(ABCテレビほか)という作品で、Aぇ!groupの正門良規さんと秋山ゆずきさんの回で居酒屋の店員役を演じていただいたんです。当時、僕はAPだったのですが、何が印象的だったかというと、工藤さんを出番前に呼びにいった時、この間までアイドルをやられていた方が部屋の端っこでずっと体育座りをして待っていて、その姿を見た時に『この人、だいぶ気合入ってんな』と思ったんです。僕らもあまりお気遣いができていなかったのですが、『私のことは構わないでもらって大丈夫なので』とその時おっしゃっていて、『この人はいろいろな思いを抱えながら覚悟してやっているんやろうな』と感じたんです。その後、昨年放送された『ロマンス暴風域』(MBS)を見て、『あの覚悟は続いているんだな』と思ったので、『工藤さんと一緒に作品をやりたい』と思ったんです。マネジャーさんに話を聞いてみたら『結構サバサバしてます。裏表もなくて男っぽいです』と。『明日美にピッタリや!』と確信しましたね。そしたらマネジャーさんはすぐに本人に話をしてくれて、工藤さん本人も『明日美がやりたいです。すごく共感できます』と言ってくれました」

――表向きはサバサバしていますが、正と会っている時の危うげな明日美の表情からは、工藤さんの新たな一面が見られた気がします。

「撮影中も話していたのですが、『私は不倫とかは絶対にしない。一時の感情でリスクしかなくないですか?』と言っていて。そういうのを否定している人だからこそ、ああいう役は演じ切れるのかもしれないですね。不倫している後ろめたさみたいな感情をキッパリ否定できる人だからこそ、出せる表情なのかもしれないですね。工藤さんと松岡くんは、現場で一番監督としゃべっていた印象があります。あの2人は話しながら役を作っていました」

明日9月23日公開のインタビュー後編では、直己を演じる松岡さん、一真を演じる曽田さんの起用理由が明らかに。さらに、矢内さんから見た5人の姿、そこから感じた彼らの魅力とは。

【プロフィール】

矢内達也(やない たつや)
兵庫県出身。2012年、朝日放送テレビに入社。主なプロデュース作品として「3Bの恋人〜付き合ってはいけない職業男子との恋遊戯〜」「ジモトに帰れないワケあり男子の14の事情」「奇跡のバックホーム」「今夜、わたしはカラダで恋をする。」「彼女、お借りします」「アカイリンゴ」など。

【番組情報】

ドラマL「around1/4(アラウンドクォーター)」
テレビ朝日
土曜 深夜2:30〜3:00
ABCテレビ
日曜 午後11:55〜深夜0:25
※ABCテレビでの放送終了後、TVer、ABEMAで最新話を見逃し配信

取材・文/平川秋胡(ABCテレビ担当)

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