秋の一日を「小田急三昧」 乗り鉄、撮り鉄、そしてシモキタでのお月見も【コラム】

前回の土日曜日限定から2023年は毎日展示になった「Museum of the Moon」。美しく、時に怪しげに自ら淡く光ります(画像:小田急電鉄 撮影・スタートバーン〈田中雅貴〉)

小田急電鉄の設立は1923年5月。2023年は100周年です。創業前、新宿―日比谷―大塚の地下鉄線を計画して免許も受けたのですが、諸々の事情で断念。旧社名の小田原急行鉄道は、本来は延伸線のはずだった新宿―小田原間(82.5キロ)を1927年4月に開業、その年のうちに全線複線運転を開始するなど、ある意味、実行力のある鉄道でした。

小田急を取り上げるきっかけを探していたところ、見付かったのが秋のイベント「ムーンアートナイト下北沢2023」。下北沢駅周辺にアート作品を展示して来場を促します。2023年9月15日の報道公開が夕方からだったので、その前に新宿―代々木上原―経堂をミニ紀行。鉄道や駅の歴史をたどりながら、乗り鉄、撮り鉄、そしてアートという3つの視点で、秋の小田急を味わい尽くしました。

開業時の新宿は田園風景が広がっていた!?

ミニ紀行の出発点は新宿駅です。(小田急)新宿駅は2階建て。各駅停車は地下ホームから、特急、急行、快速急行は地上ホームから発車します。

次駅の南新宿の開業時の駅名は「千駄ヶ谷新田」。今はビルの谷間ですが、昭和の初めには田園風景が広がっていたのでしょう。戦前のうちに「小田急本社前」を経て「南新宿」に改称。今、近隣にあるのは小田急でなくJR東日本本社です(小田急本社は西新宿)。

そんなことを考えながら、5駅目の代々木上原で下車します。開業時の駅名は「代々幡上原」で、所在地は代々木村。小田急開業前の明治年間、幡ヶ谷村と合併して代々幡(よよはた)の地名が生まれました。

跨線橋からロマンスカーを狙う

代々木上原で下車したのは、撮り鉄スポットとして代々木八幡ー代々木上原間の跨線橋(歩道橋)が紹介されていたから。両駅間には2ヵ所の跨線橋がありますが、私は代々木上原に近い方に上がりました。

代々木上原は東京メトロ千代田線の起終点駅で、跨線橋からは小田急だけでなく地下にもぐる千代田線の列車も撮影できます。代々木上原にはメトロと小田急のほか、JR東日本の車両も顔を出します。

代々木上原から終着・新宿に向かうGSE(70000形)をスローシャッターで撮影。2018年デビューの最新型です。歩道橋の手すりはボードでおおわれ、撮影はボードのすき間から。通路は幅2メートルほど、通行の妨害にならないよう配慮する必要があります(筆者撮影)

千代田線乗り入れ車は、小田急は綾瀬まで、JRは代々木上原まで、3社を直通運転するのは東京メトロの車両という境界線が長く存在しましたが、2016年からは小田急やJRの車両も3社を直通します。

仏典を収めた小堂が駅名(地名)の由来?

代々木上原での撮り鉄に続き、経堂に移動します。

由緒正しく思える駅名の由来は諸説あり、はっきりとはしていないようですが、仏典を収めた小堂があったという伝承を由来とする説があります。江戸時代初期には、すでに小堂はなかったそうですが、17世紀後半の烏山用水の工事中に教典を納めた石棺が発見され、地名の由来になりました。

現在の経堂駅は、世田谷区の中核駅の一つ。2面5線の少々特殊な線路配置です。経堂は代々木上原ー登戸間の複々線区間にあり、小田原方面の下り線が一般的な1面2線なのに対し、新宿方面の上り線は1面3線。中線を通過線として、特急ロマンスカーなどが定時性を確保しやすい構造です。

経堂には、かつて小田急の経堂工場と経堂検車区がありました。駅に隣接した小田急グループの商業施設を再開発したのが、ショッピングモール「経堂コルティ」です。

撮り鉄スポットが、コルティ最上階4階のテラス。小田原方向から経堂駅に入る列車を斜め上から撮影できます。テラスにはイスとテーブルが置かれ、読書やパソコン作業の方(電源はありませんが)を見掛けました。

経堂コルティのテラスでカメラを構えていたら、偶然やってきたのがVSE(50000形)。2005年に登場した人気車両でしたが、2022年3月に定期運行を終了。イベント列車を経て、2023年12月ごろまでに引退の予定です(筆者撮影)

月やウサギの巨大オブジェが来訪者迎える

経堂でUターンします。本命の目的地は下北沢ですが、1駅手前の世田谷代田で下車。2013年の小田急線の地下化で地上に誕生した遊路スペース「下北線路街」を散策します。

線路街では、2023年10月1日まで「ムーンアートナイト下北沢2023」を開催中。初回の2022年は、月やウサギのオブジェ目当てに、約32万人がシモキタを訪れたそうです。

今年も登場したウサギのオブジェ。「Intrude=侵入」の作品名は、オーストラリアに入植した白人が持ち込んだウサギの食害を象徴的に表現したとのことです(筆者撮影)

2年目の今回は、催しを約50件に拡大。オーストラリア拠点のアーチストのアマンダ・パーラーさんが月のウサギをイメージして制作した「Intrude(イントゥルード=侵入)」は、カトリック世田谷教会とボーナストラックの2ヵ所に登場。ボーナストラックは、線路街の商業施設です。

前回、話題を呼んだ月のオブジェ「Museum of the Moon(ミュージアム・オブ・ザ・ムーン)」は、今年も下北沢駅北東側の「下北沢街路・空き地(フリースペースの名称が「空き地」です)」に再登場。イギリス人アーチストのルーク・ジェラムさんが、NASA(アメリカ航空宇宙局)の月面写真から発想をふくらませました。

東北沢駅屋上を開放

小田急からのスペシャルプレゼントは、東北沢駅屋上の開放。非日常空間の屋上では、日本人アーチスト・鬼頭健吾さんが、蛍光塗装した220本ものポールを並べた「Lines(ラインズ)」が来場者を待ちます。9月30日~10月1日には、「天体観測会」と称するお月見イベントが予定されます。

アートイベントはほとんど無料ですが、東北沢駅屋上は例外的に有料(NFTチケットで販売)。小田急は2024年も秋の催しを継続予定で、試行的に有料化する東北沢駅でビジネスモデルの可能性を探ります。

アートポイントに掲出するQRコードをスマートフォンで読み取る、デジタルスタンプラリーも連続開催。ラリーで得られたデータは、次回の案内に活用するなどマーケティングツールとして活用します。

今回はスポット的に3点のアートを紹介しましたが、途中で食事したりショッピングを楽しめば、シモキタの魅力を深く知ることができるでしょう。

下北沢は、小田急線と京王井の頭線の接続駅。そのまま新宿駅に戻ってもよし、井の頭線で渋谷や吉祥寺に出るのも、一興かもしれません。

記事:上里夏生

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