「アラクオ」最終回直前! 矢内達也プロデューサーが明かす裏話とともに、作品を振り返る<インタビュー後編>

EXILE/FANTASTICSの佐藤大樹さんが地上波連続ドラマ単独初主演を務めるドラマ「around1/4(アラウンドクォーター)」。かつてのアルバイト仲間だった新田康祐(佐藤)、平田早苗(美山加恋)、橋本明日美(工藤遥)、横山直己(松岡広大)、宮下一真(曽田陵介)ら5人が、アラサー前の25歳=アラクオを迎える中、それぞれが直面する“25歳の壁”、そして“恋の分岐点”にフォーカスを当て、人生と恋に悩み傷つき過ちを繰り返しながらも、自分なりの乗り越え方を見つけていく物語は、いよいよクライマックスへ。

TVガイドwebでは本作でプロデューサーを務める矢内達也さんを直撃。インタビュー後編では、5人のメインキャラクターのキャスティング秘話に続き、初回の見逃し配信が同局ドラマの中で歴代最高再生数を記録する要因にもつながった、ドラマ制作の舞台裏とこだわりを明かしてくれた。

――前編では佐藤さん、美山さん、工藤さんのキャスティング秘話をお聞きしましたが、後編ではまず松岡さんのキャスティング理由から伺えたらと思います。松岡さんとは、お仕事でご一緒するのは今作が初めてだそうですね。

「5人の中では唯一会ったことがなかったんです。直己って、斜に構えている感じというか、あまり言葉数が多くないので、演技するのは一番難しいと思うんです。5人でいてもあまりしゃべらないからこそ、表情や動き、立ち振る舞いで見せていくことが多いので、演技力のある方を探していたんです。そしたら、ABCテレビの社内で『壁サー同人作家の猫屋敷くんは承認欲求をこじらせている』の松岡さんが本当にすごいというのを聞いて。男女問わず、スタッフみんなが松岡さんのことを好きになる“スタッフキラー”らしいです(笑)。最初は人から聞いたことだったり映像を見ただけで、彼の人となりは分からなかったのですが、クランクインする前の本読みですでに役を考えて作ってきてくれて、ピッタリだと思いました。実は、松岡さんにはドキッとさせられたことがあって」

――どんなことがあったのでしょう?

「本読みがめちゃくちゃ面白くて『良かった』と思っていたんですけど、初めて本読みをした5人でのシーンの時に『本読みの時の方が面白かったな』と正直思ったんです。もちろんそんなことは言わないですが、ドライ、リハーサルを現場で見ていたら松岡くんがやって来て『矢内さん、今あんまり面白くなかったって思いませんでした?』と言われたんです。『おお…!?』となりましたよ(笑)。それから『本読みの時はこうだったけど、今はこうなっていて。1回話し合いましょう』と言って、そこから監督ともお話して、全員でもう1回やり直したんです。松岡さんはうまくかみ合っていないことを感じていたんでしょうね。僕はずっと見ていただけなので、どこで心の中を見透かされたんですかね。誰かの様子とか表情を見て、ピンポイントで雰囲気を察するのがうまい人なんだと思います」

――これまでそういった経験というのは…。

「初めてです。『どうですか?』とか『大丈夫ですか?』みたいなことは聞かれますが、『思っていたのと違うって思ってませんか?』とズバッと言われたことはなかったですし、僕は現場は監督のものだと思っているので。松岡さんは勉強熱心だし、(作品は)みんなで話し合って作るものだと思うから察せられる、だからみんなにも愛される。これからも応援したいですね」

――最後は曽田さん。ちょうど1年前にプロデュースされていた「彼女、お借りします」(同局)にも出演されていましたね。

「曽田くんって、あの世代であんなに色気がある人ってほかにいないんじゃないと思わされるくらい、僕が今までご一緒した方の中でもすごく特別な魅力を持った方だなと思っています。顔立ちはもちろん、一真の髪色や髪形が似合う人もなかなかいないと思います。あとは、100%じゃない、いい感じの脱力感を持っていると思うんです。美容師役でもあったので、手元のお芝居とか、そういう動きの色気を持った人を考えて出てきたのが曽田くんでした。たぶん、役者という仕事に対して天才気質なところがあるんだと思います。今回の役でも、撮影でお世話になった美容室の方に3時間くらい教わってそのまま撮影に入っていたので、ただただすごいなと。横浜流星さんみたいな色気といいますか、そんなものを『かのかり』(『彼女、お借りします』)の時に感じていたので、そういうところで一真にエッセンスを加えていただこうと考えていました」

――「かのかり」と本作、それぞれの曽田さんを見て「変わったな」と感じたことはありましたか?

「1年前と比べて、僕も含めスタッフとよくしゃべっているなと思いました。『かのかり』の時は1話ゲストだったのでそこまで議論が必要ではなかったのかもしれないのですが、コミュニケーションを取る量が非常に増えたと感じていました。それは、彼が途切れることなくいろいろな(作品の)現場にいるから、それだけ役に対する向き合い方も増えているのだと思います。『じゃあこんな感じでこうしてください』というよりは『監督、ここはこうですか? 僕はこうだと思うんですけど』と議論ができている感じがしましたね」

――メインキャスト5人のお話を伺ってきましたが、矢内さんから見て、5人がそろった時の魅力というのはどのように感じていますか?

「メインビジュアルを富ヶ谷の交差点の陸橋で撮ったのですが、5人ともキャラクターがかぶっていないので、めちゃくちゃバランスがいいんですね。ビジュアルを撮った時に『あ、これはいけるな』と内心思っていました(笑)。実は、5人でそろうことってあまりなかったんです。居酒屋のシーンでも、佐藤くんがいない日は康祐以外のところを撮って、工藤さんがいない時は明日美以外のところを撮って進めていたので、5人が集まったのは3日ぐらいかもしれないです。演じる5人も経歴が全然違うんですよ。役者一本でやってきた人もいれば、バリバリグループ活動中の方もいて、グループ活動から1回区切りをつけて『女優で輝きたい』と覚悟を決めている方もいたり、子役からずっとやってきた方もいる。そして、新進気鋭のカリスマ的な存在の方もいて、そのバランスが良かったのかなと思います」

――本作は康祐たち5人の成長物語ですが、裏にはキャスト陣の成長物語も隠れていそうですね。

「そうなっていたらいいですね。彼ら彼女らにとってもかなり悩みながら役を作っていたと思うので、『この芝居、これで合ってるの?』という会話は、ほかの作品と比べてだいぶ話し合えて作ることができたと思います」

――以前、工藤さんを取材させていただいた際に「こんなに笑いながらやった本読みはない」とおっしゃっていたのですが(https://www.tvguide.or.jp/feature/feature-2302693/)、その雰囲気は5人がNONKIで談笑するシーンにもそのまま表れているのかなと思います。

「『NONKI』で集まっているシーンを見ている時だけは、何も気兼ねなく見ていただきたくて、できるだけ“帰る場所”という感じにしたかったんです。漢字の『呑気』からローマ字表記の『NONKI』にしたのも、設定を2023年として考えた時に、赤ちょうちんの“和”な雰囲気のところに集まる5人でもいいけど、この物語のキープレイスだと考えた時に、『この作品が行くべき方向は“和”でできた方向なのか、今どきの格好よくてクールな方向にするか。どっちにしますか?』と質問を受けたタイミングがあって。その時に監督としては『絶対に今っぽい方が画の力は強いし、人間の心の中を描く作品だから、赤ちょうちんよりはクールで明るすぎない空間の方がいい』と言っていて、そこからバー設定の『NONKI』は生まれました」

――第9話まで放送された中で、直己や一真の抱える悩みが解決していく一方で、康祐はある種、“何も解決していない”と感じているのですが、その部分を終盤まで持ち込んだことは何かこだわりがあったのでしょうか?

「実は、そこが今回の脚本で一番難しいところだったんです。原作の緒之先生もよく納得していただけたなと思うのですが、康祐って唯一、描写しやすい悩みがないんですよ。ほかの4人は『性行為にあまり自信がない』『実は不倫している』『男の人を好きになってしまいそう』『彼女がいるけどお客さんのことを好きになって、浮気ってどういうものなのか』という悩みがある中で、康祐だけは『チャラく見られるけど、そうじゃない』という悩みだったので、もう一歩踏み込みたいと思って、ドラマでは“康祐の悩み”を足させてもらったんです。今、康祐だけが誰にも悩みを言えていなくて、元カノのマキ(林田岬優)だけは知っている。誰にも言えていない悩みをどうするのかは、楽しみにしていただきたいです」

――5人の悩みでいうと、一真の「すでにスタイリストで実力も認めてもらえている」という部分は原作にはありませんよね。5人の中で唯一24歳でありながら、悩みを二つ持たせることにも何か意図はあったのでしょうか?

「バレましたか…(笑)。今回、ドラマを作るにあたってキャラクターの補強を特にしたのは、康祐と一真なんです。2人の悩みをもう一つ補強した方が『こういう人いるよね』とよりリアルな人間になると思ったので。せっかく5人のメインキャラクターがいるということもあったので、その幅が広がった方がいいなと2人は補強しました。僕としては、一番共感できるのも一真でしたね」

――どういった点で共感されていましたか?

「1人だけ年下で先輩の中にいるから、ちょっと背伸びしている部分があるのは僕も分かるんです。例えば、奥さんに仕事の話する時って『大丈夫か?』と思わせたくないので、ちょっとだけ盛って言ってしまって、後からどんどん矛盾が出てきて『あれうそなんだよ』と言えなくなったことも結構あって(笑)。だから、一真にはそれを加えてみた感じがありますね。僕が入社した2010年代って、エンタメ制作の現場では、基本的に最低でも2、3年はADとして下積みをしていたと思うんです。一応それまで22年間頑張ってきたつもりでしたけど、入社した時に先輩から言われたのは『お前にできることは今何一つもない』と。実際その通りで、ロケを仕切ったり、台本を書いたりすることなんてほとんどなかったりするんだけど、周りの友人からは『矢内ってあの番組やってるんやろ!?』と言われて、『うん!』みたいなことを見えを張って言ってしまう。当時は周りから思われていることと実際の自分の立ち位置の乖離(かいり)がすごくあったので、そこに対して自分が背伸びして受け応えしてしまうことはよくありましたね(笑)」

――ちなみに、矢内さんが入社して迎えた25歳はどんな時期でしたか?

「ADからディレクターに上がったのですが、下には人が付かないことが多いので、結局はADの仕事もディレクターの仕事も両方やらないといけない、でも周りからは『ディレクターやってるんでしょ?』みたいに言われていたタイミングでしたね。でも、初めて自分の企画書が通って番組ができたのも25歳なんです。それが今では『あなたの代わりに見てきます! リア突WEST』(テレビ朝日系=ABCテレビ制作)として全国ネットまで行ったのは本当にうれしいことですね。ジャニーズWESTの皆さんにもかわいがっていただいて、自分の考えた企画がスタジオとか含めて形になっていくことの喜びを味わえたのは25歳の時でした。あ、プライベートで言うと、今の奥さんと付き合い始めたのも25歳です(笑)」

――令和の時代に合わせてドラマ版「around1/4(アラウンドクォーター)」が誕生したとのことですが、作品にはどんなメッセージを込められましたか?

「25歳って、大体の方が社会人3年目のタイミングで、キャリアとしてもワンステップ上がるタイミングだと思うんです。僕でいうと、ADからディレクターになったりと、そういうことが世間で起こる年齢じゃないかなと。でもADって実は大きな責任がないけど、お給料はもらえるじゃないですか。しっかりとした責任感を持っていないのに、お給料はいただけてしまっているというか、そういう“大学生気分が抜け切るか抜け切らないか”ぐらいがアラクオだと思っています。それってたぶん“惑う”時期でもあって、仕事でもプライベートでもいろいろと迷い始めて惑うタイミングだと思います。今回、僕が完全なオムニバスにしたくなかったのは、オムニバスにしてしまうと、答えを提示しないと気持ち悪くなってしまうと思ったからです。不倫は絶対にダメですけど、明日美のように不倫することで成長できる人もいるわけじゃないですか。ですから、悩んで惑っているタイミングで見ていただいて『こういう考え方をする人もおるんやな』と思っていただきたいです。『小さい成長が大きく何かを変えることもあるんだよ』というのは一つのメッセージとして伝わっていたらうれしいです。もう一つは、作品全体を通して恋愛の悩みにしたので、アラサー、アラフォーの人には『こういう恋愛もしてたな』と思い出していただけるかなと(笑)。いろいろな恋愛の形を見せられたと思うので、どれか一つでも『こういう恋愛いいな』と伝わっていたらいいなと思います。それから、この作品の中では5人の登場人物が大なり小なり成長したと思うのですが、25歳って必ず成長しないといけないわけではないと思います。成長の押し付けはあまり好きじゃなくて。人の成長って、自分が引っかかっていることの中で、一つだけでも自分の中で飲み込めた、ぐらいでいいんじゃないかと思ったりする時もあるので、そうやって感じ取ってくれる人がいたらありがたいです。25歳って転換期なのでいろいろあると思いますが、それはみんな同じで、あまり重大なことだと思わず『みんな通る道ですよ〜』というのが伝わっていたらいいですね(笑)」

――ドラマもいよいよ最終話です。気になる展開が多くありますが、注目ポイントを教えてください。

「一つは、先ほどもお話した渋谷から池尻まで実際に歩いて撮ったシーンは大きな見どころですね。渋谷スクランブル交差点で実際に撮ったので、最小人数のスタッフで撮影して、僕は撮影時はYouTubeの定点カメラに映るみんなの様子を遠くから見ていました(笑)。2023年夏、本当の渋谷の街で撮影した感じを出せるようにだいぶこだわったので、文化祭のような、みんなで一つになった感じがあって。その撮影の最後にはみんなで乾杯しました。そういう思い入れもあるので、楽しんでいただきたいポイントです。あともう一つ、かなり重大な編集をしています。エンドロールが流れてきても『あぁ終わりか』と思わず、最後まで注目していただきたいです。主人公とヒロインの2人の関係の帰着を“想像してもらう”ための大きな編集を、隈本(遼平)監督からご提案いただいて、正直びっくりもしましたが、完成した映像を見て本当にすごいなと思いました。『こういう手法で表現できるんだ』と僕自身も教わったので、注目していただきたいです。力強い終わり方になっていますし、初回から張り続けてきたいろいろな伏線が回収できている、素晴らしい最終話だと自負しているので、最終話の感想はぜひ聞きたいですね!」

インタビュー後も、原作の緒之先生が現場を訪れた際に「佐藤くんがお礼をしたいと、ほかの4人とオリエンタルラジオの藤森慎吾さん、吉澤要人くんに声をかけて、サインを入れたNONKIのTシャツを帰るタイミングにみんなで渡していました」というエピソードや、ここでは書き切れなかった裏話をたくさん明かしてくれた矢内さん。続編についてもチラッと聞いてみると「やりたいですね! 洋一(吉澤)は20歳になっているのでお酒が飲めるし、明日美とその後、何もないのか、一真はお店を持てたのか、直己はタバコをやめたのか、康祐と早苗はどうなったのか…いろいろできそうですね」とニンマリした表情を見せていた。

10月クールのドラマL枠「18歳、新妻、不倫します。」に向けたコメントも!

「around1/4(アラウンドクォーター)」に続き、10月14日からスタートする新ドラマ「18歳、新妻、不倫します。」も手掛ける矢内さん。取材時は絶賛撮影中とのことで「『新妻不倫』(「18歳、新妻、不倫します。」)は、自分の集大成くらいの気持ちでやっています。自分がアラクオ世代の時に出会ったジャニーズWESTといつかドラマをやることが目標だったので、こんなうれしいことはありません。楽しみにしていてください」と意気込んでいる。

【プロフィール】

矢内達也(やない たつや)
兵庫県出身。2012年、朝日放送テレビに入社。主なプロデュース作品として「3Bの恋人〜付き合ってはいけない職業男子との恋遊戯〜」「ジモトに帰れないワケあり男子の14の事情」「奇跡のバックホーム」「今夜、わたしはカラダで恋をする。」「彼女、お借りします」「アカイリンゴ」など。

【番組情報】

ドラマL「around1/4(アラウンドクォーター)」
テレビ朝日
土曜 深夜2:30〜3:00
ABCテレビ
日曜 午後11:55〜深夜0:25
※ABCテレビでの放送終了後、TVer、ABEMAで最新話を見逃し配信

取材・文/平川秋胡(ABCテレビ担当)

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