副知事は退職金辞退なのに川勝知事は……自民県議団は5000万円返納を求めよ!|小林一哉 不信任案決議にまでつながったボーナス未返納問題。しかし、まだ川勝知事には残されたカネの疑惑が……。

キーワードは「辞職勧告決議」

9月県議会に給料等の返上のための条例案提出を述べた川勝知事(静岡県議会本会議場、筆者撮影)

9月21日に開会した静岡県議会のキーワードは「辞職勧告決議」である。

今春の統一地方選で、戦後最年少で初当選した中山真珠県議(28)=静岡市清水区、無所属=が県議会全3会派(自民、公明、ふじのくに県民クラブ)から「辞職勧告決議」を突きつけられ、9月6日、県議会議長に潔く、辞職願いを伝え、あっさりと政界からの引退を決めた。議会閉会中のため、議長が同日付で辞職を許可した。

20代という若手の女性で注目された中山県議の辞職で、静岡県議会の平均年齢も一挙に高齢化した。

中山県議は自動車運転免許証の失効に気づかずに車を運転していて、8月4日横断歩道で一時停止を怠ったことを警察官に発見され、反則切符を切られ無免許運転が発覚した。

当初の記者会見では謝罪した上で、議員を続ける意向を示していた。その後、手続きのため運転免許センターへ行った折、帰りは代行運転を頼んでいたとの説明が虚偽であり、帰りも無免許で車を運転していたと一部メディアに明らかにされてしまった。

そうなると、中山県議が所属していたふじのくに県民クラブは除名処分だけでなく、「辞職勧告決議」に加わった。これで中山県議には、県議会全員が敵に回ったような重圧に耐えられなくなったのかもしれない。

21日の開会日に中山県議の辞職が、議長から報告された。

自民党県議団は中山県議を懐柔すべきだった

かたや、いわゆる「コシヒカリ発言」を受けて、2021年11月臨時県議会で、「辞職勧告決議」を受けた川勝平太知事。

辞職勧告決議に法的拘束力はなく、川勝知事はそのまま知事職を続けるに当たって、自らにペナルティを科すとして給料1カ月分と暮れのボーナスの合計約440万円を返上すると記者団に表明した。

しかし、1年半もその約束を頬かむりしたことで厳しい批判を受けたため、6月県議会最終日(6月12日)に、9月県議会に給料等返上の条例案を提出すると表明した。9月21日に条例案が提出、川勝知事の提案説明が行われた。

中山県議と違って、こちらの「辞職勧告決議」はどこ吹く風のたとえ通り、川勝知事に何らの打撃を与えることはなかった。

6月県議会でも、給料等返上を表明した答弁に虚偽があったとして、最大会派の自民党県議団が反発、13日未明に川勝知事の不信任決議案を提出された。

採決の結果、1票差で否決された。議員総数68に対して、賛成50、反対18だった。

当然、中山県議は6月県議会に出席していて、不信任決議案に反対票を投じた。つまり、川勝知事の強力な支持者だったわけである。

今回、中山県議が辞職することで、1議席が失われ、川勝知事にとって不利な情勢をもたらす事態となるのがわかっていれば、川勝知事は「『辞職勧告決議』など政治家にとっては“勲章”のようなものであり、あまり深刻に受け止めるべきではない」などと中山県議に助言したかもしれない。

「無免許運転と言っても、単に失効に気づかなかっただけである。嘘と言っても、それほど悪質なものとは言えない。今後、政治家として成長するために、したたかさを学ぶよい機会だ、その見本は自分である」などと、川勝知事のアドバイスが聞こえてきそうだ。

実際には、川勝知事だけでなく、誰もそのような助言などを積極的にしなかったようだ。中山県議の若さゆえの未熟な決断となってしまった。
中山県議の1議席が失われても、県議会には数の上では何の影響はなかったからだ。

6月県議会の不信任決議案では、賛成50、反対18で、賛成票は4分の3(75%)に達することができなかった。賛成が51あれば、ちょうど75%で可決された。

もし、9月県議会で再び、不信任決議案が審議されたとしても、1議席欠員となり総数67に対して、賛成50では、74・6%で4分の3に届かない。やはり、1票足りない。つまり、中山県議が辞めたとしても、川勝知事には何らの影響を与えないのだ。

だから、逆に、自民党県議団は、本当に川勝知事の辞職を望むのであれば、中山県議を取り込む算段をすべきだった。

次回の不信任決議案で、賛成に回るよう懐柔すればよかったのである。国民民主党の現在の対応を見れば、それも不可能ではない。自民県議団はふじのくに県民クラブと一緒になって、中山県議を徹底的に糾弾すべきではなかったのだ。

まだ未解決の「給料等の未返上問題」

筆者の周辺の県議に聞いても、今回の無免許運転が辞職に値するなど考えている者はいない。もし、県議全員の過去をちゃんと調べれば、同じような「古傷」が見つかる県議もいるはずである。

中山県議の補欠選挙は知事選挙と同時に行われる2025年夏まで、欠員となるから、それまで川勝知事は数の上では安泰である。

中山県議の「辞職勧告決議」は本人の未熟とも言える決断で簡単に決着してしまった。一方、川勝知事の「辞職勧告決議」にまつわる「給料等の未返上問題」は決着したわけではない。9月県議会が本番である。

9月県議会で給料等返上条例案が審議されるが、自民党県議団内部でも意見は分かれ、こちらもどうしていいのか困っている。

2021年暮れの「辞職勧告決議」の場合、川勝知事の提案した給与、ボーナス返上だけで済まされる問題ではないと、自民党県議団はあくまでも知事辞職を求め、給与等返上に関わる条例案の審議を拒否した。

その結果、川勝知事は静岡県議会側が条例案の審議を拒否したから、自らペナルティに科した「給与等の全額返上」ができないのはやむを得ないともっともらしいストーリーをつくり上げ、この問題を頬かむりした。

2年近くたって、川勝知事から給料等返上の条例案が提出され、この問題は蒸し返されるのだ。

実際には、2021年暮れの状況と事態は全く変わることなく、自民党県議団が求めているのは、川勝知事の辞職であり、給与等の返上ではない。「辞職勧告決議」はおカネで済まされる問題ではない。

だから、川勝知事の給与等返上に関わる条例案を、自民党県議団がすんなりと受け入れる理由は何ひとつない。もし、受け入れたとしたら、何のための「辞職勧告決議」だったのか県民から疑われてしまうだろう。しかし、だからどうすべきかの妙手はないのだ。

県民は大喜びする妙案

中山県議が残っていれば、水面下で中山県議を懐柔した上で、もう一度、不信任決議案に持ち込めたかもしれないが、いまや遅きに失している。

筆者は、おカネのことならば、おカネで解決すべきと何度も言ってきた。給料、ボーナスだけでなく、4期目の退職金も一緒に辞退させろ、と提案した。

2009年初当選した川勝知事は、選挙公約で退職金4090万円を全額返上すると表明、そのための条例案が2012年9月県議会で可決され、1期目の退職金を辞退した。

2期目、3期目は退職金辞退の公約をしなかったとして、川勝知事は退職金4060万円を受け取った。合計約8120万円である。

一方、2016年、2019年、2020年に退職した3人の副知事は、退職金約2000万円を辞退した。この辞退の裏には、川勝知事が退職金を辞退させる、あるいは辞退せざるを得ないよう忖度を誘導した疑いが強い。

県特別職報酬審議会の答申通り、知事だけでなく、副知事は法律、条例に厳格に従って退職金を受け取るべきなのに、3人の副知事は個人の意思で退職金を辞退するという異例の事態となった。

全国的に見ても、知事が退職金を受け取っているのに、副知事が自主的に退職金を辞退している事例はない。

こんな異常事態の中で、川勝知事が不祥事の責任を取って給料、ボーナスだけを返上する条例案を提出しても、県民は誰も納得できない。

自民党県議団は、給料、ボーナスの約440万円に上乗せして、退職手当約4060万円の返上も求めればいい。そうすれば、合計約4500万円で切りもいい。給料、ボーナスをさらに加算して、合計約5000万円にでもすれば、県民は大喜びだろう。おカネの額をどうするかで自民党県議団は知恵を絞るべきだ。

県議会の「辞職勧告決議」は中山県議には重い刑罰のような結果となったが、川勝知事には何らの痛痒も与えなかった。

今回の問題は、おカネの額を大幅に引き上げることで決着させたほうがいい。それで川勝知事に少しくらいの痛みを与えることができるかもしれない。

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小林一哉(こばやし・かずや)

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