JR西日本がバスの自動運転を目指す理由とは? 今年11月から東広島市で実証実験【コラム】

専用テストコースの走行実験では連節バス、大型バス、小型バスの3台が隊列走行しました(画像:ソフトバンク)

JR西日本は2023年11月から広島県東広島市で、「自動運転・隊列走行BRT(バス高速輸送システム)」の公道走行の実証実験に乗り出します。JR西日本とソフトバンクは2023年9月15日、京都府京都市内で共同会見を開催。実験メニューやスケジュールを公表した後、同日午後には滋賀県野洲市の専用テストコースでの走行実験を報道公開しました。

本サイトをご覧の皆さまは、JR西日本の一部地方ローカル線の存廃が取りざたされることはご存じと思います。そうした時期に、バス自動運転のニュースに接すると、「ローカル線を廃止して、自動運転のバスに転換」と考えたくなります。確かにそうした見方は否定しませんが、JR西日本はそこまで短絡するわけではありません。本コラムはこれまでの流れや周辺取材を通じ、「JR西日本がバスの自動運転を目指す理由」を考えました。

前車に続く後続車を完全無人運転

JR西日本とソフトバンクは2020年3月にプロジェクトを立ち上げ、2021年10月から野洲市のテストコースで自動運転・隊列走行の走行実験に取り組んできました。「一定の成果を見極めたことから、次のステップになる公道走行実験に踏み出す」(JR西日本の中村圭二郎副社長)というのが今回の共同発表の趣旨です。

JR西日本が目指すのは、異なる車種(サイズ)のバス、最大3台が連続走行する形の自動運転。先頭のバスは緊急時対応などでドライバーが乗務しますが(レベル3)、後続のバスは完全自動運転します(レベル4)。

3つの通信手段で安全確保

さまざまなモニターが並んだ後続車の運転席(画像:ソフトバンク)

技術的ポイントを解説します。自動運転・隊列走行で最も大切なのは、先頭車の減速時、無人運転の後続車も遅れることなく速度を落とす車両間の協調運転です。

協調運転には、3つの通信手段を使います。一つ目は「V2N2V」、二つ目が「V2V」、最後が光無線通信です。

専門用語の羅列で恐縮ですが、V2N2Vはビークル・トゥ・ネットワーク・トゥ・ビークルの頭文字。バス~ネットワーク~バスの通信網で、バスの現在地などをチェックします。ソフトバンクの宮川潤一社長によると、自動運転には汎用通信網を活用し、次世代の「5G」規格で通信します。

V2Vはビークル・トゥ・ビークルの意味で、いわゆる車車間通信のこと。光無線通信はレーザー光通信で、大容量の情報をスムーズに送受信できます。

通信以外では、停留所の縁石に13センチ以内の幅で停車させるため、道路側のマーカーも活用します。

JR西条駅―広大キャンパス間に専用道

道路側のキーワードが「専用道」です。JR西日本が公道走行を東広島でテストするのも、そこに大きな理由があります。

東広島市はJR山陽線西条駅の南西約5キロに広島大学東広島キャンパスがあり、駅とキャンパスは延長約1.7キロ、4車線の「ブールバール」(フランス語の大通り)がつなぎます。今回は東広島市の協力で数百メートル区間をバス専用道とし、この区間を自動運転します。

2023年11月からの東広島市での実証実験のイメージ。JR西条駅と広大東広島キャンパスの周辺はそれぞれ自動運転。ブールバールの一部区間で自動運転します(資料:ソフトバンク)

東広島市での主な実験メニューは、①電波状態や勾配など走行環境の検証、②連節バス・大型バス2台での自動運転・隊列走行の課題抽出、③新技術に関する社会受容性の確認ーーの3項目。社会受容性は、自動運転のバスが社会的に受け入れられるかどうかの確認です。

信号メーカーやキャンバス発スタートアップも参加

自動運転・隊列走行BRTは、JR西日本とソフトバンクだけで完結しません。両社を含む参加5社の役割をご案内します。

まずは中核2社で、JR西日本は走行系や地上設備を設計。ソフトバンクは、全体のマネジメントと通信系を受け持ちます。

他の参加企業は日本信号、BOLDLY(ボードリー)、先進モビリティ(ASMobi)。日本信号は名門信号メーカーで、道路信号や踏切を考慮した自動運転システムを提案します。ボードリーはソフトバンク系の自動運転専門企業。本サイトでも、小型バスの自動運転などを紹介させていただきました。

ASMobiは東京大学生産技術研究所(生研)から生まれた、大学発のスタートアップ(スタートアップ)企業。東大生研では、2023年7月に開催した東京メトロと共催のワークショップをレポートしました。

参加5社とそれぞれの役割=イメージ=(資料:ソフトバンク)

これら参加企業をみれば、自動運転するのはバスでも、鉄道と深くつながることがご理解いただけるでしょう。

「移動の選択肢増やす」(中村JR西日本副社長)

JR西日本がバスの自動運転を志向する理由を考えます。会見では、記者から「地方ローカル線問題とバス自動運転は関連するのか」の質問が出ましたが、中村副社長は「そうした一面もあるが、一番の目的は移動の選択肢を増やすこと」と答えました。

JR西日本が考える自動運転バスは、こんなイメージです。始発の鉄道駅から中継点までは2~3台のバスが連続して走り(2台目以降は無人運転です)、そこからそれぞれドライバーが乗務して最終目的地に向かいます。

もう一つの着眼点は、社会問題化しているドライバー不足への対応です。関西エリアでは、ドライバー不足や経営悪化を理由に路線バス事業廃止を打ち出すバス会社が現れ、議論を呼んでいます。

樹木に例えれば、鉄道は幹で、バスは枝です。バス自動運転は鉄道とバスが地域公共交通の維持・再生で、WIMWINの関係を築くための重要なツールといえるでしょう。

2020年代半ばに「社会実装」

ラストは、これからのスケジュール。東広島市の実証実験は2023年11月~2024年2月(予定)で、前半を「準備走行期間」、後半を「実走行期間」に分けます。

自動運転の時間帯は朝夕ラッシュを避けた、おおむね9時45分~16時30分。2023年内の準備期間は、自動運転するものの乗客はなし、平日だけの運転です。続く実走行期間は、一般市民を対象にした試乗会を開催。土日曜日と祝日にも自動運転します。

実用化のめどについて中村副社長は、「2020年代半ばをめどに、自動運転・隊列走行BRT」の社会実装(実用化)に向けた取り組みを進める」と述べました。

会見を終えて握手する中村JR西日本副社長(左)と宮川ソフトバンク社長(右)(画像:ソフトバンク)

記事:上里夏生

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