処理水放出1カ月 茨城県内水産業「価格や市場、安定」 中国観光客は伸びず

中国を含む外国人ツアー客の宿泊動向などについて話すホテル関係者=つくば市吾妻

東京電力福島第1原発の処理水の海洋放出が始まって24日で1カ月となった。周辺の海水や魚の放射性物質トリチウムの濃度に異常は見られない。茨城県の調査では、県内水産業などから目立った影響の報告はない。価格や市場は安定しているという。一方、茨城空港や観光・宿泊業は、放出に反対する中国からの利用者が伸びず、先行きに懸念を示す。

東電は漁業者らが反対する中、8月24日に放出を開始した。初回分の約7800トンの放出はトラブルなく11日に完了した。

茨城県によると、放出後、県内で目立った影響は報告されていない。放出前に水産業者の取引先から取引量の減少や価格引き下げの意向が複数確認されたが、経済産業省や水産庁に報告後、是正された。北茨城市沖で6日に行った海水モニタリング(監視)でも問題はなかった。

地元漁港で魚を買い付ける茨城県北茨城市大津町の水産加工業「まえけん」の前田賢一社長は「(漁業者に)影響は出ていないようだ」と安堵(あんど)する。水産物の価格に目立った影響は見られないという。

同県ひたちなか市湊本町の和食店「久楽」は、客足に大きな変化はない。ただ「放射性物質の検査済みか」といった声が聞かれるようになったという。店主の鯨井幸久さんは「検査済みであることをしっかりと説明していく。(政府や東電も)気を緩めないでほしい」とくぎを刺す。

東北と北関東が地盤の食品スーパー、ヨークベニマル(福島県郡山市)は、トリチウムに詳しい茨城大の鳥養祐二教授と協力。教授独自の迅速測定法によってトリチウム濃度を測り、客が売り場のQRコードから確認できる仕組みを導入するなど、消費者の「安心」につなげている。

一方、中国は放出開始当日に日本産水産物の全面輸入停止を発表。こうした強硬姿勢を背景にしたインバウンド(訪日客)の動向も注目される。

茨城県つくば市吾妻のホテル日航つくばは、中国が海外への団体旅行を全面解禁した8月10日以降、予約の増加を期待したものの、ほぼゼロに近い状態が続く。客室課の花枝洋行課長は「観光熱が高まっている国内客と台湾客でカバーしていく」と話す。

茨城空港ではコロナ禍で運航停止していた上海便が8月4日に再開。搭乗率は「ほぼ満席」(茨城県空港対策課)で推移していたが、処理水放出と時期を合わせ、5割前後まで低下した。空港ターミナルビルの売店関係者は「中国人観光客が少ない。売り上げに響く」と懸念する。

中国人観光客の動向について、県国際観光課の担当者は「処理水放出との因果関係ははっきりしないが、現状を分析しつつ、訪日客拡大へ対応していきたい」と話した。

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