自動潅水システム開発に挑戦 与論島=元半導体技術者の阿多さん、ITで農家の負担軽減

「自分の技術で島に貢献出来たら」―。半導体製造装置技術者の経験を生かし、サトウキビ畑での自動潅水(かんすい)システムの開発に取り組む男性が鹿児島県与論町(与論島)にいる。同町那間の阿多尚志さん(65)が開発中の「みじ恋」は、IT(情報技術)を活用し土壌環境の監視や必要量の散水を自動で行う。名前の由来は「水こそが肥やし」を意味する与論のことわざ「みじどぅこい」。生産量向上と作業効率化、潅水の負担軽減を目指し、今年春から実証実験を重ねている。

試験運用中の自動潅水システム「みじ恋」と、開発に取り組む阿多尚志さん=8月31日、与論町那間

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阿多さんは同町出身。大学進学を機に島を離れ、卒業後は米国の半導体製造会社に就職。装置技術者として開発や改善を担当し、米国テキサス州や日本国内で勤務。2018年にUターンした。

夏の強い日差しの中、重いスプリンクラーを持ち運び潅水する与論島のキビ農家を見て「負担を軽くできないか」と感じたことをきっかけに、島の現状を調査。潅水設備があっても、人手不足や煩雑さから活用されず「雨任せ」となっていることが多い一方、行政の栽培指針や鹿児島大学の収集データから、適切な潅水は生産量の安定や向上につながることを確信したという。

新規事業を支援する同町の「イノべーんちゅAWARD(アワード)2023」や奄美群島広域事務組合の「島ちゅチャレンジ応援事業」に応募して選出され、支援金で五つの試作機を開発した。今年春から町内のキビ畑で試験運用している。

「みじ恋」は太陽光パネルを電源としたマイクロコントローラー、土壌水分センサー、小型の無線通信端末、電磁バルブなどで構成される。地中20センチに埋め込まれた土壌水分センサーが10分ごとに土壌環境を感知し、体積含水率が12時間継続して35%以下になった場合、自動でバルブを開放。地上約3メートルのスプリンクラーや地表にはわせたチューブから、必要量の灌水を行う。土壌データはスマートフォンなど手元の端末からも遠隔監視できる。

地上約3メートルの高さに設置されたスプリンクラーから散水する「みじ恋」=8月31日、与論町那間

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「何歳でも、やろうと思ったらできる。それを示したいと思った」と笑顔で話す阿多さん。

「みじ恋」は他の作物や牧草畑、牛の暑熱低減にも活用にもできるとして期待を高めている。目標は畑10アール当たりの単収4~6割アップと、高齢者が多い同町農業従事者たちの負担軽減。今期の収穫量と導入前の前期分を比較し、改良を経て商品化を目指している。

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