【インドネシア】公共交通機関ハブの開発進む[運輸] 首都圏LRT駅周辺の現状(1)

歩道橋から見えるLRTドゥクアタス駅の駅舎=1日、ジャカルタ特別州(NNA撮影)

8月末に開業したインドネシアの首都ジャカルタと西ジャワ州の都市を結ぶ首都圏の軽量軌道交通(LRT)。LRTの駅によっては周辺地域で、公共交通機関を基盤とする都市開発(TOD)が進んでいる。ジャカルタ側の始発駅で、公共交通機関のハブとなるドゥクアタス駅では、既存の鉄道駅に乗り継ぎができる歩道橋(連絡通路)が完成したほか、複合施設が開発されている。現時点でLRT駅周辺の接続性はどうなっているのか、現場を歩いて検証した。

首都圏LRTの路線は、中央ジャカルタのドゥクアタス駅—西ジャワ州デポック市のハルジャムクティ駅を結ぶチブブールライン(全長24.3キロメートル)と、ドゥクアタス駅—西ジャワ州ブカシ県のジャティムルヤ駅を結ぶブカシライン(同27.3キロ)の2路線で、全18駅ある。2路線とも、渋滞が発生しやすい高速道路に沿う形で高架線路が敷かれている。

2路線の発着駅となるドゥクアタス駅は、政府が公共交通機関のハブに掲げる首都中心エリアに位置し、近くに首都圏通勤電車や都市高速鉄道(MRT)、空港鉄道の各駅と、州営バス「トランスジャカルタ」の停留所がある。

これらの各駅への接続性を高めるため、LRTの開業に合わせて開通した屋根付きの歩道橋は、LRT駅と首都圏通勤電車のスディルマン駅を直接つないでいるほか、MRTのドゥクアタス駅、空港鉄道のBNIシティー駅とも間接的に接続する。

同歩道橋は、MRT運行会社MRTジャカルタなどが出資する交通システムの統合やTOD事業を担うモダ・インテグラシ・トランスポルタシ・ジャボデタベック(MITJ)が主体となって整備した。

■周辺駅との乗り継ぎ時間、歩道橋で短縮

この歩道橋の利便性を検証するため、実際にLRTドゥクアタス駅から周辺を歩いた。まず、LRT駅の改札(出入り口A、B方面)を抜けて突き当たりを右に曲がると、そのまま歩道橋につながる。

この歩道橋は3階建て(地上の出入り口を1階とする)で、LRT駅とつながっているのは3階部分となる。3階の通路脇などには飲食コーナーが設けられ、コーヒーなどの飲料から、揚げ豆腐や春巻き、テンペ・ゴレン(大豆を使った発酵食品テンペの揚げ物)、サテ・アヤム(焼き鳥)、ナシゴレン(焼きめし)などを提供する屋台がある。窓からは、LRTの駅舎やチリウン川が見える。

2階へ降りると、ここにも一部飲食コーナーがあったが、まだ整備中のスペースも多かった。今後、テナントがさらに入居し歩行空間として充実すれば、通勤時の消費を促す場となりそうだ。

歩道橋は3階建てで、デッキからは2階の橋やチリウン川などを見渡すこともできる=19日、ジャカルタ特別州(NNA撮影)
歩道橋内には飲食コーナーもある=19日、ジャカルタ特別州(NNA撮影)

一方、LRTドゥクアタス駅から寄り道をせずに3階から2階、地上へと降りて、専用の通路を通ると、改札口から5分ほどで首都圏通勤電車のスディルマン駅改札前(出入り口C)に到着した。

LRT駅から首都圏通勤電車のスディルマン駅へとつながる通路=19日、ジャカルタ特別州(NNA撮影)

この場所からMRT駅へ向かうには、スディルマン駅の改札内を通過しなければならず、電子マネーカードで1ルピア(約0.01円)を支払って入場し、プラットホームを歩いて再び改札を抜ける。最後に改札外のトンネルを通るとMRTのドゥクアタス駅前(出入り口D)に到着する。LRT駅の改札口から約8分かかった。なお、ここからさらに3分半ほど歩けば、空港鉄道のBNIシティー駅の入り口に着く。

検証の結果、新しい歩道橋を通るとLRT駅から通勤電車駅へは約5分、LRT駅からMRT駅へは約8分だった。一方、この歩道橋を使わず、LRTの駅から地上に出て既存の道路を歩いた場合は、それぞれの駅まで約7分、約14分かかった。歩道橋の開通によって、雨や日差しが避けられるだけでなく、鉄道の乗り継ぎ時間の短縮も可能になったといえる。

また、LRT駅とトランスジャカルタの停留所はつながっていないため、最寄りのドゥクアタス2停留所へ行くには、駅から地上に出て約4分歩く必要がある。

■駅近くに配車サービス乗降スポットも

①LRTドゥクアタス駅の出入り口A前。左側の看板では最寄りの各公共交通機関が確認できる②LRTの開業に合わせて開通した歩道橋。3階建てで、2階や3階には屋台などが入る③首都圏通勤電車スディルマン駅の出入り口B前。同出入り口の手前に開発中のトランスポート・ハブがあり、周辺では歩道の舗装が進む④MRTドゥクアタス駅の出入り口D前

ドゥクアタスエリアの公共交通機関のハブ化を加速させる別の動きとして、通勤電車のスディルマン駅近くに複合施設「トランスポート・ハブ」(11階建て)が建設された。トランスポート・ハブには、オンライン配車サービスの乗降スポットがあり、周辺の各公共交通機関に歩いてアクセスできるトランジット機能を持つ施設として位置付けられている。同施設の看板では、各駅への徒歩所要時間を確認することができる。

トランスポート・ハブは、国営建設PPが建設し、MRTジャカルタが管理・運営を手がけている。

建屋はすでに完成しており、一部ではオフィスが入居済みだが、その他の内装工事は現在も続いているほか、ビル周辺では歩道の舗装工事も進められている。今後小売店などのテナントも入る予定だ。

また、ドゥクアタスエリアでは、三菱地所が参画する大規模複合開発プロジェクト「オアシス・セントラル・スディルマン」の建設も進んでいる。オフィスや商業施設、住居を備えた開発となっており、完成すればドゥクアタスの都市機能がますます充実しそうだ。

ジャカルタ首都圏の交通渋滞や大気汚染が悪化する中、公共交通機関のハブエリアの利便性が高まることで、今後どれほどLRTや鉄道への乗り換えが進み、社会課題に対する改善効果が出るのか注視したい。

スディルマン駅近くのトランスポート・ハブ周辺では歩道の舗装工事が進む=19日、ジャカルタ特別州(NNA撮影)
スディルマン駅近くで整備が進むトランスポート・ハブ。建屋は完成し、内装工事などが進められている=19日、ジャカルタ特別州(NNA撮影)

© 株式会社NNA