【今週のサンモニ】日本国民に対する卑劣なヘイトと差別|藤原かずえ 『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。今週はやたらと「ヘイト」「差別」といった言葉が飛び交いました。

「ヘイトまでが表現の自由として扱われてい」ませんよ

今週の『サンデーモーニング』では、やたら「ヘイト」「差別」という言葉が飛び交い、スケープゴートに対する人格攻撃が行われました。内容を順に検証して行きます。

関口宏氏:Xのオーナー、イーロン・マスク氏。投稿などの有料化を考えていることを明らかにしました。強調したのは、ボットと呼ばれる自動投稿への対策。ヘイトや偽情報が拡散されることが問題となっていて、これを防ぐために有料化すると言っています。

安田菜津紀氏:有料化したところで根本的なヘイト対策になるのか大いに疑問だ。差別は金になる。煽り立てる過激な投稿をして、それが多くの人たちの目に触れることによって収益になっていく仕組みがネット上にある。むしろX社だけの問題ではない。日本の中では包括的な差別禁止の法律はないし、ヘイトまでが表現の自由として扱われている。

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『サンデーモーニング』は、頻繁にSNSをヘイト・差別の温床であるかのように問題視してきました。確かに莫大な数の発信者が存在するSNSには、少なからずヘイト・差別発言が存在するので、問題が存在することは間違いありません。ただし、ユーザーの大半は、SNSを適正に利用しているのであり、SNSを悪用してヘイト・差別発言をするのは一部のユーザーに過ぎません。

そんな中で安田氏が「日本の中では、ヘイトまでが表現の自由として扱われている」というのは明らかに個人の主観に基づく偏見です。SNSのヘイトスピーカーは動かぬ証拠を掴まれて法によって罰せられます。さらに、通報などのシステムによって、ヘイトスピーチに対する自浄作用も機能しています。

むしろ、ヘイト発言に自浄作用が効かないメディアはテレビであると言えます。

日本国民の人格否定放送

例えば、2023年9月17日放映『サンデーモーニング』で、コメンテーターの高橋純子氏は「(副大臣と政務官の)54人の全員がスーツでネクタイの男性だけが並んでいるというのは非常におぞましい。」などと、外見的な性であるスーツとネクタイという【性表現 gender expression】を根拠として「おぞましい」と感情を吐出しました。これは疑いの余地もない【性差別 sex discrimination】です。

また同日の同番組「風をよむ」では、「人権後進国?日本」として、ジャニー喜多川氏による性加害問題の背景を「人権軽視の日本社会」「世界から後れを取る日本社会の人権意識」にあると断定し、日本社会の主たる構成員である日本国民の人格を攻撃して否定するという放送を展開しました。

これは日本に対する【国差別 national origin discrimination】に他なりません。

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そもそも日本社会は人権重視の社会として世界から客観的に認識されています。権威ある民主主義の測定機関であるV-Dem研究所の2022年人権指標ランキングによれば、日本は世界19位でありG7ではドイツに次ぐ2位です。

つまり、日本を「人権軽視」「世界から後れを取る人権後進国」として不相応に誹謗中傷した『サンデーモーニング』の放送は、表現の自由を振りかざすヘイト行為と呼ぶに相応しいと言えます。

問題は、このような客観的に不適正な人格評価が、公共の電波を通じて日本全国に拡散され、少なからず不当な世論形成に影響していることです。この日に話題になった沖縄基地問題もこのことと密接に関連しています。

軽率な一般化で逆差別を誘導

関口宏氏:国連で沖縄県と日本政府が論争する形となりました。この日、玉城知事、国連の人権理事会で演説。県民投票で反対の意思が示されたにもかかわらず、米軍の基地建設が進む現状を訴えました。これに対して同じ会議に出席した日本政府の関係者は、米軍基地は安全保障の必要性に基づくもので沖縄への差別的な意図はないなどと反論しています。

青木理氏:一部の言論で、玉城氏・尾長氏が親中派だとか、危機感が足りないという批判をする人もいる。しかし、沖縄と日本政府が国連で言い合いをする国家統合の危機に陥れているのは一体どっちの側だ。むしろ日本政府が沖縄を追い詰めているという視点を我々持つべきだ。

この問題の根底には、基地移設反対派が発信した「沖縄県外の国民が沖縄県民を差別している」というバカバカしいデマを多くの沖縄県民が信じさせられてしまったことがあります。

例えば、『サンデーモーニング』は、一部の沖縄県外の人物による差別的発言を根拠に沖縄県外の市民全体が差別意識を持っているかのように報じています。

TBS「サンデーモーニングのホームページがすべて」と回答 番組では張本勲氏の「内紛」発言扱わず、農水相と沖縄の機動隊員の発言を議論(3/3ページ)

これは、少数の個別の事実を根拠にして言説を一般化してしまう【軽率な一般化 hasty generalization】と呼ばれる帰納論証の誤謬であり、不当な逆差別を誘発したものです。論理的に考えれば、沖縄に基地が集中しているのは、沖縄県外の国民が沖縄県民を差別しているのではなく、他国にとって沖縄が戦略上の重要な地域であるからです。

例えば、ウクライナ戦争において、ロシア軍はウクライナに侵攻し、国境付近の町であるブチャで住民を虐殺しました。国境付近を防衛強化することは、国境付近の住民の生命を守るために特に必要な措置です。

そんな戦略上の常識を覆い隠すように『サンデーモーニング』は、現在でも沖縄県外の人々が沖縄県民を差別しているかのような情報を流して、沖縄県と沖縄県外を分断しているのです。本当に迷惑な番組です。

著しい飛躍による吊し上げ

さらに問題なのは、『サンデーモーニング』が個人によって人格評価の基準をフリーハンドに変えていることです。

関口宏氏:杉田水脈議員のブログの投稿について札幌法務局が人権侵犯に当たると認定したことがわかりました。杉田議員、7年前、国連の会議の参加者について、「チマチョゴリやアイヌの民族衣装のコスプレおばさんまで登場。完全に品格に問題があります」などと投稿していました。国会でこの問題が取り上げられた際には…

杉田水脈議員(VTR):傷つかれた方々に謝罪し、そうした表現を取り消します。

安田菜津紀氏:杉田氏がマイノリティに向けた言葉が差別であるという指摘は何度となく繰り返されてきた。昨年、岸田首相は杉田氏を総務政務官に起用した。そういう人物を徴用すること自体が「差別問題など考慮するに値しないんだ」という負のメッセージとして伝わっていくし、もっと言えば、差別やヘイトの矛先を向けられた側の命を二の次扱いしていることだ。
岸田首相が国連で「人間の尊厳に光を」と立派な言葉で演説したが、その光を足元で奪われ続けている人達がいて、その光を奪っているのが自民党の国会議員という事態に一刻も早く対処すべきだ。これは命に関わる問題なので。

安田氏は7年前のブログでの失言を根拠に杉田氏の人格をヒステリックに非難しました。

杉田議員は、安田氏の価値観によって、テレビ放送で人格を完全否定され、セカンドチャンスを与えてはならない存在として認定されました。そして、驚くべきことに、最終的には、人の命を奪いかねない殺人者のような扱いまでされてしまいました。

「人権侵犯の事実があった」と認定されたからといって、この吊し上げには著しい飛躍が存在すると考えられます。

杉田水脈議員「アイヌ民族衣装のコスプレおばさん」などの投稿、人権侵犯と認定

人を好き嫌いで差別する

一方、ジャニー喜多川氏の性加害問題に対して、安田氏は次のようにコメントしています。

安田菜津紀氏:これって、大前提として、子どもや未成年に対する未曽有の性加害のわけだ。日本社会では、ただでさえ、性暴力の深刻さが軽視されたり、単なるスキャンダルとして消費されてきた現状があった。こと子供の性加害に対しては「いたずら」という言葉にすり替えられてしまって軽んじられてきた。それが被害を訴える側に対して脅迫だったり、誹謗中傷だったり、何重もの二次加害を生み出してしまう土壌にもなってきた。

安田奈津紀氏

安田氏は、ブログで失言した杉田議員に対しては、その問題行動の要因を本人の人格に求めて、殺人者のように断罪したのに対し、「魂の殺人」とも呼ばれる児童への性加害という重大な人権蹂躙を数十年にわたって繰り返したジャニー喜多川氏に対しては、その問題行動の要因を本人の人格ではなく日本社会の土壌に求めました。

安田氏の主張を素直に聞けば、ジャニー喜多川氏の性加害の責任は日本社会の構成員である日本国民にあると言っているようなものです。これは、日本国民に対して、罪を理不尽に着せることで、性加害を許容したジャニーズ事務所と性加害を隠蔽したテレビの責任を矮小化するものに他なりません。

勿論、この主張は極めて不公平です。なぜなら、同じ論法を用いれば、杉田議員の失言の要因も、日本社会の土壌に求めることが可能であるからです。このように個人の価値観を振りかざして異なる基準でフリーハンドに人間を裁くことを「差別」と言います。

一般的に人を好き嫌いで差別する人は、①悪意を持つ人物に対してはその人物がもつ内的要因(例えば「人格」など)を問題行動の要因と認定する【陰性効果 negativity effect】、および、②好意をもつ人物に対してはその人物とは無関係な外的要因(例えば「社会の土壌」など)を問題行動の要因と認定する【陽性効果 positivity effect】という2つの認知バイアスを持ちあわせています。

平たく言えば、貶めたい人の問題行動の原因はその人自身にあり、貶めたくない人の問題行動の原因は社会にあるとするものです。

メディアの責任の矮小化

安田菜津紀氏:ジャニーズ事務所に対して具体的に何を求めていくのかはもちろん重要だが、私たちメディアを含めて、その土壌を生み出してきた側もどこまで膿を出し切れるのかが切実な課題だ。

ジャニー喜多川氏の性加害がトラウマになって精神的な治療を行っている被害者の方々にとってみれば、この問題は命に関わるものと推察しますが、安田氏はジャニーズ事務所に対して一刻も早く対処するよう求めることはありませんでした。

一方、安田氏は、「私たちメディアも含めて」とアリバイのように最後に付け加えた上で、日本社会という「土壌」の解明を「切実な課題」としています。杉田議員に対するスタンスとはまさに真逆です。

あえて、安田氏の論調に合わせて言えば、こういうメディアの責任の矮小化自体が「メディアの問題など考慮するに値しないんだ」という負のメッセージとして伝わっていくことになりますし、もっと言えば、一部のジャニーズのファンから差別やヘイトの矛先を向けられた被害者側の命を二の次扱いしていることにもなるかと思います。

極めて残酷なことに、テレビは性加害の被害者の存在を知っていて無視してきたのです。

藤原かずえ | Hanadaプラス

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