<レスリング>【2023年世界選手権・特集】「この経験を今後の自分の力にしていきたい」…男子グレコローマン55kg級・尾西大河

 

(文=ジャーナリスト 粟野仁雄)

 世界の晴れ舞台に立つには、四苦八苦して代表権をつかむのが普通だが、男子グレコローマン55kg級の尾西大河(早大)は、プレーオフで闘う選手が不在。国内の最後の関門をパスしての代表だった。

 そのせいではないだろうが、初めての世界の晴れ舞台での結果はほろ苦かった。

 初戦となった2回戦で世界チャンピオンのエルダニズ・アジズリ(アゼルバイジャン)に善戦。この試合だけを見れば及第点と言えようが、敗者復活戦でのマルラン・ムスカシェフ(カザフスタン)との一戦は、開始早々、豪快に投げられてしまい4点を奪われる苦しいスタート。懸命に追いすがったが離され、結局、第1ピリオドの中盤でテクニカルスペリオリティ負けした。

 「最初の投げでびびってしまってうまくいかなかった。相手がついてくるタイプだったけど合わせてしまった」「自分の力を出せなかった。来年(注=次回の世界選手権は再来年)、この場所に戻れるようにして頑張りたい」

 囲まれた記者の前でうつむいた。技術的に進歩した点を問われ。「スタンド戦は昨日の試合で自信がついた」と答えたが、「今日みたいな試合では…」と再び黙ってしまった。1勝はしたかったとの思いがありあり。

▲昨年の世界王者(今年も優勝)を相手にパッシブを取り、グラウンドで攻める尾西大河

 それでも、晴れ舞台で世界チャンピオンと闘うことができたのは貴重な経験。「この経験をどう生かすかだと思う。今後の自分の力にしていきたい」と、最後は前を向いた。

世界の舞台を経験し、これからが勝負

 尾西は、昨年12月の全日本選手権は金澤孝羽(東京・自由ヶ丘学園高)に敗れて2位に甘んじた。今年6月の全日本選抜選手権は金澤が負傷で不出場。プレーオフではエントリー選手がいなかったため、そのまま代表に決まった。

 まだ19歳の早大2年生である。今後、体も大きくなってくるだろうが、階級を上げると、実力者の文田健一郎(ミキハウス)らと争うことになる。将来の階級のことを訊かれると、「世界選手権のことだけを考えてきたので、今後の階級のことは…」と、棚に上げていた。

▲世界王者に善戦した今大会の経験を、今後にどうつなげるか

 福岡県出身。小学校時代は全国少年少女選手権で4度優勝。鳥栖中学時代は2018年にU15アジア選手権と全国中学選抜選手権で優勝。グレコローマンではJOCジュニアオリンピックカップなどで優勝した。

 鳥栖工業高校では両スタイルで全国優勝の実績をつくり、早大へ進んでグレコローマンへ専念。昨年のU20世界選手権3位を経て、今回の世界選手権初出場にたどり着いた。両スタイルで国内外の様々な大会に出て好成績を収めてきた。ひと皮むけるのは、世界の舞台を経験したこれからだろう。

 階級も含めて、オリンピックを見据えた方向へ軌道を変えてゆくか。

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