【コラム 細田悦弘の新スクール】第1回 専門用語に振り回されず、本質射抜く能力を

音を聞いただけで、その音の高さがわかる『絶対音感』。持続可能性を高める経営を担う次世代の人たちにとって、次々と現れるカタカナ・アルファベットの渦に巻き込まれず、腰を据えた舵取りをするために、サステナビリティの『絶対音感』を磨いておくことが大変重要です。これからの経営は、「サステナビリティ」が競争優位を左右します。
新シリーズでは、『これからの経営を担う次世代の人たち』に向けて、時代が求める新しい経営のあり方のセンターラインを浮き立たせます。サステナビリティ時代において、『音をはずした経営』でステークホルダーから思わぬ顰蹙(ひんしゅく)を買い、企業価値を毀損(きそん)することだけは避けたいものです。

『絶対音感』があれば、本質を射抜ける

ESG・SDGs・TCFD・ISSB・マテリアリティ…。テクニカルなカタカナ・アルファベットがこれでもかと飛び交う中、これからの経営を担う次世代の人たちは、少し厄介と思いつつも、この先の自社の発展のためには不可欠なテーマであると認識していることでしょう。地球や社会の持続可能性が中核的価値観となった今日、近い将来に経営の舵取りをする人々にとって、ぜひとも備えておきたいのが、サステナビリティの『絶対音感』です。

絶対音感(absolute/perfect pitch)とは、音を聞いただけで「音名(絶対的な音の高さ)」を判別できる能力のことです。楽器などの助けを借りずに音高(音の高さ)を直接知覚でき、さらに指定された音を他の音と比較せずに発声する能力を含めることもあります。絶対音感を持っている人は、聞いた音を正確に再現でき、楽譜の書き方を知っていれば、譜面に落とし込むことができるようです。この能力は、多分に先天的な素質に依存しますが、幼い頃の訓練によってある程度身に付けられるといわれています。

すなわち、サステナビリティの『絶対音感』とは、サステナビリティの本質を見極める能力を意味します。これが備わっていれば、サステナビリティ関連の専門用語を見聞きした時、すぐさま体系的に位置づけられ、個別要素に翻弄され振り回されることなく、原理原則に基づき、サステナビリティを自然体で経営戦略に取り入れることができるようになります。
とかく、サステナビリティと経営の『接続』や『一体化』といった、二律背反する別物の取り合わせのような表現が散見されますが、絶対音感があれば、当たり前に2つを戦略的に『融合』することができます。

絶対音感は幼少期早めなら身に付けることができても、大人になると難しいといわれています。「サステナビリティの絶対音感」も、明日の経営を担う次の世代が早い段階で磨いておくことが極めて重要です。

企業の社会性は『プラスα』ではなく、軸足

昨今、経営者によるこんなつぶやきを耳にします。
「(今の時代は)企業だけ儲けていてはいけないから、社会や地球にもいいことしなきゃなぁ」
こうしたメッセージは、これまでは一定レベルの見識として評価を受けることができましたが、次世代の経営者に推奨する最新バージョンの文脈は、次のとおりです。
「(これからの時代は)社会や地球に良い影響を与えている企業こそが、儲けられるし儲け続けられる」
『社会や地球にも』ではなく、社会や地球への対応は、『経営の前提条件』になるということです。

ではここで、この先の「良い会社」の3つの要件を挙げてみましょう。
1、儲かっている会社〈収益性〉
2、伸びている会社〈成長性〉
3、社会(地球含む)に対して良い影響を与えている会社〈社会性〉
1と2の「収益性・成長性」は、営利企業の経済的責任として自明で欠くべからざる要素です。ところが、サステナビリティが世界共通の価値観となった現環境下においては、3の「社会性」が一段と重視されています。すなわち、社会や地球に良い影響を与えている企業だからこそ、収益も上がるし伸び続けられるということです。企業の社会性は『プラスα』ではなく、軸足になっています。

とりわけ上場企業に課されているコーポレートガバナンス・コードの副題は、「持続的な成長・中長期的な企業価値の向上」であり、その実現のために「社会性」が強く求められています。非上場であっても、金融機関は、企業評価に際して、このようなモノサシを当て始めています。

地球や社会を大切にすれば、企業もまた持続的に成長させてもらえる

企業は今日に至るまで、経済活動の規模と範囲を大きく拡大させ続けた結果、「成長の限界」にぶち当たり、環境面および社会面のさまざまな課題に直面しています。従来散見されたような、企業の発展ありきで突っ走り、地球に害を与えたり、社会に迷惑をかけることが看過されなくなりました。現代においては、社会的価値を毀損しながら経済的価値を向上させることは御法度です。そこで、「サステナビリティ(Sustainability:持続可能性)」というキーワードに世界の注目が集まり、企業経営やブランド戦略の中核にこの概念をビルトインすることが求められています。

「サステナビリティ」という言葉はこれまで、企業活動を行うにあたって「地球」を大事にするという趣旨で使われてきました。それが現在では、企業活動をすすめるにあたって地球や社会を大切にすれば、企業もまた持続的に成長させてもらえるという脈絡で語られるようになりました。

地球が壊れれば、社会が壊れる。
社会が壊れれば、経済が壊れる。
経済を順調に発展させたいのであれば、地球や社会を大切にする

ということです。企業は、地球環境や社会を前提に存在していることは自明です。したがって、時代が求める『新しい経営のあり方』を目指す次世代経営者には、盤石な地球と健全な社会があってこそ、将来にわたってのビジネスが円滑に展開できるという矜持(きょうじ)のもと、サステナビリティを味方につける経営が期待されています。

細田 悦弘  (ほそだ・えつひろ)

公益社団法人 日本マーケティング協会 「サステナブル・ブランディング講座」 講師
一般社団法人日本能率協会 主任講師

1982年 中央大学法学部卒業後、キヤノン販売(現キヤノンマーケティングジャパン) 入社。営業からマーケティング部門を経て、宣伝部及びブランドマネジメントを担当後、CSR推進部長を経験。現在は、企業や教育・研修機関等での講演・講義と共に、企業ブランディングやサステナビリティ分野のコンサルティングに携わる。ブランドやサステナビリティに関する社内啓発活動や社内外でのセミナー講師の実績豊富。 聴き手の心に響く、楽しく奥深い「細田語録」を持ち味とし、理論や実践手法のわかりやすい解説・指導法に定評がある。

Sustainable Brands Japan(SB-J) コラムニスト、経営品質協議会認定セルフアセッサー、一般社団法人日本能率協会「新しい経営のあり方研究会」メンバー、土木学会「土木広報大賞」 選定委員。社内外のブランディング・CSR・サステナビリティのセミナー講師の実績多数。

◎専門分野:サステナビリティ、ブランディング、コミュニケーション、メディア史

◎著書 等: 「選ばれ続ける会社とは―サステナビリティ時代の企業ブランディング」(産業編集センター刊)、「企業ブランディングを実現するCSR」(産業編集センター刊)共著、公益社団法人日本監査役協会「月刊監査役」(2023年8月号) / 東洋経済・臨時増刊「CSR特集」(2008.2.20号)、一般社団法人日本能率協会「JMAマネジメント」(2013.10月号) / (2021.4月号)、環境会議「CSRコミュニケーション」(2010年秋号)、東洋経済・就職情報誌「GOTO」(2010年度版)、日経ブランディング(2006年12月号) 、 一般社団法人企業研究会「Business Research」(2019年7/8月号)、ウェブサイト「Sustainable Brands Japan」:連載コラム(2016.6~)など。

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