【MLB】 さながら“アメリカ版大山“ レンジャーズの有望株カーターが“無名の高校生”から救世主になるまで

写真:大爆発中のエバン・カーター

レンジャーズが息を吹き返している。8月末にそれまでずっと守ってきた首位から陥落、9月上旬のアストロズとの3連戦では本拠地で計39失点を許して被スウィープ。一時は地区3位まで転落してしまったものの、直近15試合で11勝4敗。2位アストロズに2.5ゲームのリードを付け、閉幕1週間前にしてついに「マジック4」が点灯した。

過去2週間でメジャートップの83得点を記録するなど、ブルペンに不安を抱えながらも、持ち前の強力打線が機能してレンジャーズは復調してきた。実はその強力打線を今最も強く牽引しているのは、MVPファイナリストになるであろうコリー・シーガーでも、チームリーダーのマーカス・セミエンでもない。

実は今レンジャーズ打線で“最も危険な打者“なのは、先月21歳になり、今月メジャーデビューを果たしたばかりの新人だ。その新人はエバン・カーターという名前で、過去2週間でチームトップの4本塁打、wRC+は脅威の216(100を基準とする総合打撃指標)を記録している。

カーターは現在『MLB.com』のプロスペクトTop100で全体8位にランクインする球界指折りの有望株。高校から2020年ドラフト全体50位でレンジャーズに入団し、21歳でデビューを飾るという経歴は、超エリートのそれだ。

しかし、カーターは高校時代には名の知られた有望株などではなく、全くの無名の存在だった。

アマチュア球界・ドラフトに明るい米専門メディア『ベースボール・アメリカ』のドラフトプロスペクトランキングは、実に500人のドラフト候補のアマチュア選手がランク付けされている。しかし、2020年のランキングの中にエバン・カーターという名前はない。

ところが、カーターはドラフト2巡目全体50位。パンデミックの影響で全体でも5巡・160人の指名に縮小されたドラフトにおいて、かなりの高評価で指名されているのだ。

確かに『BA』のランキング外の選手が全体500位以内で指名されることはあるが、全体50位という高順位ではほぼ見られないことだ。レンジャーズのこのドラフトについてはどのメディアも呆気にとられていた。

『ジ・アスレチック』の記者で球界屈指のドラフト・プロスペクト評論家でもあるキース・ロー氏は、当時のドラフト講評で「レンジャーズは今週のドラフトで最も不可解な指名をした」とこき下ろした。

中でもカーターは「サイズと平均以上のパワーの素質はあるが、既に深刻な空振りの多さの問題を抱える」「最初の5巡で指名される才能の持ち主では恐らくない」と痛烈に批判されていた。

ところが、2021年にマイナーが再開されると、カーターは即座に評価を覆していく。

18歳のシングルAでのシーズンでは懸念された三振を上回る四球を記録。そして2022年に19歳で迎えたシーズンで、カーターは自身が球界屈指の若手有望株だと証明する。ハイAの106試合に出場して12本塁打、打率.295、OPS.885の好成績を残し、そして三振率はわずか17%という少なさだった。

ダブルAで開幕した今季もその好調を維持し、8月の終わりにトリプルAに昇格を果たすと、トリプルAにも即座に適応。トリプルAでの出場はわずか8試合に過ぎなかったが、故障者の穴埋めとして9月にはなんとメジャー昇格まで飾った。その後の活躍は周知の通りである。

日本でも久々の優勝を果たした阪神タイガースの主砲・大山選手が、ドラフト時の低評価をバネに開花したサクセスストーリーが話題となった。カーターはひょっとすれば当時の大山選手よりも無名のドラフト候補だったかもしれないが、同様にチームを牽引し優勝を目前としている。カーターの今後の活躍に注目したい。

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