「ちょっと操作すれば顧客満足度1位にできます」企業が欲しい〝称号〟つけ込む市場調査会社 はびこる違法広告、消費者庁が問題視

消費者庁から景品表示法違反で措置命令を受けたサプリメント販売会社の広告 (画像を一部加工しています)

 九州のIT企業役員はある時、こんな営業電話を受けた。「御社のサイトで1位を掲げて、権威性を高めませんか」。マーケティング会社からの提案だった。調査費用として90万円を支払うと、ほどなくして「1位」を示す派手なワッペンの画像ファイルが届いた―。
 街頭やインターネットで見かける数多くの商品に「満足度1位」「人気No.1」といった言葉があふれている。「No.1広告」と呼ばれるこうした宣伝には、実態とかけはなれた違法広告も多く、消費者庁も問題視。掲載した広告主に6千万円超の課徴金納付を命じたケースもある。
 調べていくと、1位の「お墨付き」は、市場調査をうたう一部業者から出ていることが判明したが、一体どうやってランキングを算出しているのか。(共同通信=市川真也、東岳広、落合夏深)

「ナンバー1を取得できる」と勧誘する営業メールのコピー

 ▽あの手この手
 No.1調査を専門に手がける業者の営業マンは取材にこう明かした。
 「尋ねる項目を変えて、質問を繰り返せば1位は取れますよ」
 その具体的な手口はいろいろあるという。例えば、1位にしたい会社を選択肢の一番上にする、製品を使っていない人も回答者に含めて商品サイトの印象で満足度を尋ねる、わざと業界下位の会社と顧客企業を比較して優位に見せかける…
 東京都内の健康関連会社の元には、脅迫まがいの営業が来た。「貴社が調査を依頼しなければ、他の会社が1位を取ることになりますよ」。この営業を受けた社長は結局、契約してしまった。「他社に1位を取られたくない。怪しいと思いながらも契約した」

消費者庁から景品表示法違反で措置命令を受けたサプリメント販売会社の広告

 一方、ある不動産サービス企業の担当者は、ライバル会社のサイトにある表示を見て首をかしげた。サイトには「提携不動産会社数No.1」と記載されている。この会社は、自分の勤務先より規模が小さい。あり得ない。
 サイトでは「A社」や「B社」といった匿名の他社と比較して優位性をアピールしていたが、うそは明らかだった。
 「あの会社が1位をとることは考えられない。ユーザーを欺くような手段を用いる企業が業界内に存在すれば、健全な競争環境が阻害され、業界全体の信頼低下にもつながりかねない」

 ▽行政処分
 消費者庁は今年、東京都内のあるマーケティング業者が実施していた調査結果を元に「No.1広告」を掲載した企業2社(※1月と6月です)に措置命令を出した。このうち、福岡市のペット関連企業は「犬の白内障改善」をうたったサプリメントを販売。「口コミ人気」など7冠達成と掲げていた。この会社の社長に話を聞くと、そもそもサプリ自体に病気改善効果はない。それでも調査会社からNo.1を得られたという。
 調査の実態はずさんだった。犬を飼っていない人にも尋ねたり、選択肢の上位にこのペット関連企業を置いたりする手法だったという。消費者庁の処分後、このマーケティング業者に取材を申し込むと、書面でこんな回答が寄せられた。
 「手法が消費者を誤認させると認識し、サービス提供を停止するに至った」
 「(調査結果は)市場の実態と乖離していた点もあった」

消費者庁から景品表示法違反で課徴金納付命令を受けたオンライン家庭教師事業者の広告

 ただ、このマーケティング業者からお墨付きをもらった一部の広告主は、依然として自社サイトなどで「No.1」を掲げている。
 業者は共同通信の取材に「1位を前提とする、確約するような営業活動は行っていない」と弁明したが、取材を進めていくと、この業者の担当者が顧客に送った営業メールを確認できた。メールには「No.1の表記を使えるようにする」「取得できなかった場合、費用はいらない」と記載されていた。

「業界の健全化のため、「一般社団法人日本マーケティング・リサーチ協会」が消費者庁に提言した内容の一部」=リサーチ協会のウェブサイトより

 ▽地方にはびこる
 市場調査の専門会社でつくる「日本マーケティング・リサーチ協会」は、不適切な調査の横行が業界全体の信頼性を低下させていると危機感を抱く。今年8月には歯止めをかけるべく、ホームページ上に次のような提言を公表している。
 「調査概要を公表し、一般消費者自身に当該No.1調査が公正な調査であるか否かを判断する機会を提供すること」
「『満足度No.1』と広告表示するためには、その基礎となる調査対象者は、当該商品やサービスの購入者・利用経験者であるべきだ」
 さらに、広告主企業に対しても、セミナーなどで表示の適正化を訴えてきた。
 協会の担当者によると、こうした活動の効果もあり、コンプライアンスを重視する都市部の大企業は、適切な調査手法や表示に基づいて広告を出すようになってきた。ただ、その結果、「No.1調査」を請け負う不適切な業者は地方の中小企業を狙って営業するようになっているという。

消費者庁が入る庁舎=9月撮影

 ▽消費者庁の対応と景品表示法
 消費者庁も手をこまねいているわけではない。先に挙げた2社に対し、景品表示法違反で措置命令を出した際、処分内容と社名を公表した。このうち、東京のオンライン家庭教師会社に対しては6千万円超える課徴金納付命令も出した
 ただ、景品表示法には限界もある。違法だとしても課徴金納付を命じることができる対象は広告を出した会社であり、お墨付きを与えた市場調査会社は規制の対象外となっている。
 今のままでは、不適切な調査をする業者が野放しになるのではとの懸念が拭えない。この点について消費者庁の幹部は「いいかげんな調査を使えば処分を受けることになると、個別の事件で訴えていく」と説明している。
 景品表示法は、今年5月に改正法が成立。施行されれば、今後は行政措置などの前提がなくても100万円以下の罰金を科すことが可能となった。
 景品表示法に詳しい染谷隆明弁護士は改正法の意義をこう語る。
 「故意かどうかなど立証のハードルこそあるが、罰金刑であれば刑法の共犯規定を使ってマーケティング業者にも(処分の)手が届き得るようになった」
 一方で当局の規制には限界があるとして、No.1を掲載するのであれば広告主が合理的な根拠をしっかりと示すことが重要だとも指摘している。「そのNo.1が、本当にNo.1であることを対外的に説明できるようにすべきだ」

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