『ドクター皆川 ~手術成功5秒前~』皆川猿時(主演)×細川徹(作・演出) クロストーク

本多劇場にて『ドクター皆川~手術成功5秒前~』が10月12日から上演される。
主演は皆川猿時、ドクター皆川は力持ちだが、手先はとっても不器用という設定。天才ドクター、熟達する研修医、ドジっ子ナース、患者、一癖ある院長も加わり、歌あり、ダンスあり、感動あり、生と死の重みがまったくない医療コメディ。
作・演出の細川 徹は、“見た後に何も残さないバカ”にこだわったコントユニット「男子はだまってなさいよ!」を主宰し、渡辺謙主演のコントドラマ『君は天才!』(NHK)の演出・脚本や、映画監督として『ヒキタさん!ご懐妊ですよ』、明治座創業150周年記念前月祭『大逆転!大江戸桜誉賑』の作・演出を手掛けるなど、演出家、脚本家、構成作家、映画監督と、幅広く活躍中。主演の皆川猿時は映画「Winny」、ドラマ「犬神家の一族」「アトムの童」、舞台「ツダマンの世界」など幅広い演技で注目。
この公演で熱くタッグを組む作・演出の細川 徹さんと主演の皆川猿時さんのクロストークが実現した。

ーー作品作りについてお伺いします。いつもの進め方はどんな感じでしょうか?

細川:稽古を行いながら全体が固まっていく形ですかね。最初の1ページ目からできていって、という作り方ではなくて、全体を少しずつ固めていく感じで、作ります。

ーー現場でメンバーの方と会話するほうがやりやすいのでしょうか?

細川:雑談のネタをそのまま使うというよりも「この人とこの人の関係、こっちが主体になると面白いんだ」なとか、そういう人間関係、それを全体に、反映させたりして面白くしていくようなのが、多いかもしれませんね。

ーーある程度のあらすじを作っていたとしても、その立場が逆転することはあるのでしょうか?

細川:それは良くないんですけど、変わっちゃうんですよ(笑)。自分一人で書く時にやっとけばいいことなんですけど(笑)。とはいえピンとくる時があるんです。「あ、通ったな」っていう時が。みんなでやってもざっくり書いた台本で、みんなが立っているのを見てると、色々思いついたりして。本当に徐々に出来上がっていくから、役者がどこを目指していいのかわかんない状態で進んでいくから、やってる役者は不安になると思う(笑)。いつのまにかガーって出来上がってるんです。完成品が見えてるというわけじゃないから、「ここまで絶対に辿り着こう」というわけでもなく……「あ、これで出来た」っていうのを、いつもなんとなく目指してしまいますね。

ーー料理に例えると少しずつ味を足していく、みたいな感じでしょうか。

細川:そういうことにちょっと近いかもしれないですが、「なんだ、カレーじゃない方がよかったね、じゃあラーメンで作り直そうか」っていう感じかもしれません。あんまりよくないと思うんだけど(笑)。つい、ね。この座組みだと余計そうなっちゃう。自分だけだと本当に同じものになってしまうから。違うもの、違うところに刺激してほしいみたいなのがあるかもしれないですね。

ーー医療をコメデイの題材に選んだ理由と、それを聞いた時の感想は?

細川:やはりコントではないんだけど、笑いを中心にした舞台で。笑いがおきやすい、真剣なことをやる状態が笑いが生まれやすい。いわゆる緩急みたいなことですけど。命がかかっているほうが笑える……これは本来、良くないんだけど(笑)。命がかかった状態は緊張感があるので、その中だと笑いが生まれやすい。それで医療モノを選んだのが大きいですかね。このシリーズで皆川さんが危ない目に遭ったり、ひどい目に遭ったりするんですけど。毎回、刑事やったり先生やったりするんだけど、毎回、皆川さんがひどい目に遭っているんです(笑)。今回もやっぱり、ひどい目にあうとは思うんですね。それが緊迫した医療という場所…よりいっそう、そういう笑いが生まれやすいというのが理由ですね。

ーー笑っちゃいけない笑える話というわけですね。

皆川:医療の現場で、ミスって絶対にあっちゃいけないわけじゃないですか、死んじゃうから(笑)。まあでも舞台なんでね、全部嘘ですから。細川さんならではの、絶対にあっちゃいけない面白いミスがいっぱい起きるんだろうなぁ(笑)。

ーー細川さんから見た皆川さん、皆川さんから見た細川さんはどんな印象ですか?

細川:皆川さんがひどい目に遭うというシリーズなんですけど、それでも可哀想に見えないのが皆川さんの凄さでしょう。あれだけいじめられ続けてたら可哀想に見えるはずなのに、可哀想に見えなくて、むしろ可愛く見えるし、最終的にはかっこよく見える(笑)。皆川さんにしかできないことだと思います。基本的にそれがベースだけど演技がすごい上手っていうのが、すごいところ。毎回、演出してて楽しいし、こういう芝居、こういう風にして欲しいというのがものすごい的確だし、かつ余計なことを足すっていうんでしょうか、それを汲みながら違うこともやる。皆川さんの味とか、プラスの面白さを足してくれるから、本当に信頼しています。何度も一緒にやってますけど、毎回、楽しみっていうか、面白い役者だなって。そう思いながら稽古場で笑って見てる時間が多いシリーズかもしれません。僕は演技を見てるときあんまり笑うことって少ないんですけど、これは笑って見ちゃうっていうか。そこは皆川さんの演技力があるから、笑えるんでしょうね。

皆川:細川さんの作品って、毎回、ホントくだらなくて素晴らしいです(笑)。あまりにもバカバカしくて、舞台上で普通に笑っちゃうときあるもんなぁ。『あぶない刑事にヨロシク』のときですが、近藤公園くんが「皆川、潜入捜査だ!急げ!」って僕に女装させるんです。で、「皆川、お前ピンヒール慣れてないだろうから」って厚底のロンドンブーツを持ってきて「皆川、だいじょぶだ安心しろ!」って。厚底の部分にピンヒールの絵が描いてあるんですよ。「皆川、どこからどう見てもピンヒールだ!だいじょぶだバレない!」って。バカじゃないのって(笑)。そういうの大真面目に言ってくるんですよ。ホントくだらない(笑)。「近藤お前バカなんじゃないの」って、毎回普通に笑ってましたけど、そこに嘘がないからお客さんも一緒に笑ってくれるんですよね。細川さんは、もう笑うしかないみたい状況を、いっぱい思いつくんですよね。いやー、ホント尊敬しちゃう。まあでも、稽古中に台本が二転三転したり、全容がなかなか掴めなかったり、役者としてはものすごく不安になりますけどね(笑)。でも最近ちょっと、慣れてきちゃったかもなぁ。とはいえ、初日を迎えるまでは不安で不安でたまりません(笑)。だから、お客さんの笑い声を聞いた瞬間、ぐぐぐーっとテンション上がりますし、心底ホッとします。毎回、お客さんの笑い声に救われてるんです。「お客さん、センスいい!」って感じです(笑)。僕、いろんな舞台に出てますけど、細川さんの作品が、一番、笑いの量が多いような感じがしていて。毎回ホントすごいんで。もしかしたら、不安だった分、敏感になってるのかもしれませんが(笑)。

ーーキャラクター設定を聞いた時の感想を。皆川さんは「不器用で力持ち」との事ですが。

皆川:一番医者に向いてないじゃない(笑)。

細川:毎回、あてがきみたいになっちゃうんです。それが笑いを一番作りやすいんですけど。あてがきじゃない違うお芝居を、最初は色気を出してやろうとしたりするんですが、ついつい、最終的には大体同じになるんですね(笑)。一方であてがきみたいになるとスラスラかけるんだけど、そこに余計な欲が出てくると邪魔してるんだなと。ぼくの芝居が「笑える」というのはあんまり作為がないというか、狙ってる感じのいやらしさがなくて、面白いからやってるみたいなっていうのが素直に笑える、そんな舞台になっていると思います。これに関しては、うまく見せようとか、うまい話だろうみたいなのがある間は自分が楽しくない。上手なコメディをちょっとやろうとしちゃうんだけどね、最初は(笑)。でもこれだとびっくりするほど進まないんですよ。もっとバカなことしたいなと思っていると、そうするといつの間に出来上がってる。
皆川:上手なコメディをやろうとしたら、皆川の役は、本名の皆川じゃだめだと思う(笑)。どうしたって本名の皆川の部分に引っ張られちゃうし、だって、透けて見える素の部分も皆川なんだから。で、観てる方も「皆川だ」ってなるわけでしょ、よくわかんないけど(笑)。まあでも、そこに嘘はないから、面白いとは思うんですけどね。そんなわけで、役名ってホント大事ですよね(笑)。

ーー出演される方々はお馴染みのメンバー。馴染みのある顔ぶれですが、今回も初出演の方がいらっしゃいますね。

細川:牧島くんは『キングダム』にも出てますし。「ここに出なくっていいんじゃない?」って思うんだけど(笑)。それでも出てくれるのは「バカなことをしたい」っていう解釈です。別に弱みを握ってるわけじゃない(笑)。それで出るってことは、「好きにしてください」ってことの同意だと思う。いちおう、観てもらって選んでいただいているわけですから。「なんでもやりますよ」っていうつもりで、普段歌わない歌とか、踊らないタイミングで踊ったり。普段観ないような牧島くんが観られるんじゃないかと。牧島ファンには絶対オススメしたいですね。金川さんは初舞台ということですが、こちらも「これが初舞台じゃなくても」って感じなんですが(笑)。

皆川:うわぁ、金川さん初舞台なのね(笑)。

細川:舞台ならなんでもいい、ということでなく、やっぱり、ちゃんと選んでくれてるのでいろんなことをやってもらいたいなと。このベテランの中に金川さんという初めての人が入るという新鮮さはベテランにも影響を与えると思います。稽古場も違った感じになるでしょうし。新たな風が吹く舞台になるんじゃないかと思います。(金川さんは)素にちょっと変わった部分もある子、特技が電卓での計算、みたいなことを言う面とかね。そんな部分を引き出せればいいなと思っています。

ーー初舞台の方がいらっしゃると、やはり先輩の姿を見て刺激をうけるものでしょうか。

細川:最初は「あんなに大きな声出せないかも」「どうやればいいんだろう」と思っちゃうかな?いろんな人がいるから、みんな自由にやってるというのをわかってもらえればいいですね。

皆川:「演劇ってこういうものなんだ」とは決して思わないでほしいです(笑)。

細川:舞台経験としてカウントしなくていい……いや、してもらいたいけど(笑)。

皆川:楽しんでやってもらえたら嬉しいですよね。お客さんのリアクションが、乃木坂のライブとは全然違うと思うので(笑)。前回、清宮レイちゃんが千秋楽の開演前に「私もビンタしてほしいです」って言ってきたんです。で、実際に本番でビンタしたら、「痛い!」ってボロボロ泣いちゃったんですよ。いやー、びっくりしました(笑)。

細川:「痛くて泣く」って素直な、ある意味最上級のリアクションですよね。

皆川:あれは、面白かったなぁ。金川さんはどんな人なんでしょうねぇ。楽しみだなぁ。牧島くんはね、チラシ撮影の時点でもうカッコよかったです(笑)。カッコよさに迷いがないんですよね。早くビンタしたい!って思っちゃいました(笑)。

細川:そんな本物のカッコよさをもった牧島くんがバチーンってやられたら面白そう。

皆川:たぶん、叩かれてもカッコいいんだろうなぁ(笑)。

ーーところで、お二人にとってコメディとは?

細川:ふざけたことをしつつも、そのキャラクターは真剣でいるというのがコメディだと思ってますね。

皆川:基本、シリアスなほうが断然面白いんじゃないですかね。捉え方ですよね。まあでも実生活ではね、シリアスから遠く離れた位置でヘラヘラ笑っていたいです(笑)。

ーー今回のような作品もあれば、勘違いすれ違いだったり、出たり入ったりだったり。いろんなパターンがコメディにはありますよね。

細川:はい。コメディにはおっしゃるようなフォーマットがある程度ありますけど、そうした作りやすさからは外れたものをやりたいんですよね。だから「まさかここでは起こらないだろう」というのが起きる、というものにしたい。どんどん場面が変わるのも、飽きずに観てもらえるポイントにしています。背景がずっと同じだと飽きやすいし。

ーー最後に、楽しみにしている皆さまへメッセージをお願いします。

細川:医療モノってあんまり舞台ではやらないんです。手術とかも、寄りのシーンがないから、何やってるかわかりませんしね。とはいえ、舞台ならではの表現、手術自体をエンターテインメントとして楽しく観られる、あまり観たことのない手術シーンになっています。そこは見どころなんじゃないかなと。そして、ものすごく敷居の低い、どの年齢の人でも誰が来ても楽しめる舞台になっているので。チケットは決して安くはないかもしれないけど、冷やかし半分で入ったとて楽しんでいただけるんじゃないかと。いろんなことがあって満足感はあると思います。

皆川:下北沢という街もだいぶ様変わりしましたしね。美味しいお店を探すついでに(笑)、本多劇場に足を運んでみてはいかがでしょうか!

ーーありがとうございます。公演を楽しみにしております。

あらすじ
外科医のドクター皆川は、力持ちだが手先が不器用。誤診も多く、手術を失敗してばかりのため、病院を転々としていた。 新しく赴任した総合病院では、なにかと理由をつけて手術を切り抜けているが、必要な手術は全て研修医牧島に押し付けている。 一方牧島は、無理矢理手術をやらされていくうちに、どんどん腕があがっていく。 そこに海外から“天才ドクター”といわれる荒川がやってくる。どんな患者もすぐに手術する荒川は、天才すぎて、皆ついていけない。 手術中の指示はなにを言ってるかがまったくわからないのだ。 やがて荒川は、治療方針の異なる皆川をライバル視しはじめる。 くせのある院長、患者、新人ドジっ子ナースたちを巻き込みながら、ふたりは、ことあるごとに対立していく 。

概要
『ドクター皆川 ~手術成功5秒前~』
2023年10月12日(木)~10月29日(日) 本多劇場
作・演出:細川 徹
出演:
皆川猿時 荒川良々 牧島 輝 池津祥子 村杉蝉之介 上川周作
金川紗耶 (乃木坂46) 早出明弘 本田ひでゆき(本田兄妹)
問合=大人計画 03-3327-4312(平日 11 時~19 時) https://otonakeikaku.net/stage/3312/
制作協力:大人計画
企画・製作:有限会社モチロン

WEB: https://otonakeikaku.net/stage/3312/

取材:高浩美
撮影:金丸雅代
構成協力:佐藤たかし

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