格安日本の観光モデルからの脱却

前回の章()では、日本の観光サービスが抱える値付けの課題について説明した。今回は現地ツアー&アクティビティ(以下、現地ツアー)における日本とグローバルの違いや課題について、どう対処するべきかについて提言したい。

現地ツアーの価格帯の違い

下記のグラフは、当社で取り扱う10,000以上の現地ツアー商品から、「観光ツアー」と「アクティビティ」における一人当たりの平均単価を比較したもの(2019年)。国内は1万円以下の商品が6割以上であるのに対し、グローバルでは1万円以上が3割程度となっている。なおグローバル商品はコロナ禍を経てさらに1.5倍程度値上がりしているのに対し、国内商品の価格帯にあまり変化はない。国内商品の多くは数時間から半日以内に終わるものが大半であるのに対し、グローバル商品は半日または終日の観光が多いことがおもな理由として考えられる。

次のグラフは、現地ツアーに食事が含まれる割合を示している。「いずれか選択可」というのは、食事を含むか、自身で好きなお店に行くかを選べるスタイル。「食事付き」と「いずれか選択可」を合わせると、国内は4割程度であるのに対し、海外グローバルではなんと8割以上の現地ツアーに食事が含まれている。

ここから見えてくるのは、旅行者が現地ツアーに費やす時間の違いだ。当然だが、長時間のツアーほど旅行者が拘束される時間が長くなり、食事(昼食)は必須となる。しかし国内商品では旅行者を拘束する時間帯が短く、昼食も付かない。その結果、両者の価格帯に大きな差が生じることになる。

(その他にも、送迎付きなど価格に影響する違いはあるものの、多くのバスツアーは緑ナンバーを有する営業用車特定事業者で、日本特有の既得権益の範囲のため、この章では割愛する)

観光資源である「食」を商品に組み込む

国内旅行では、自分でレストランを探し、直接訪問する人も多いだろう。しかし、日本人でさえ旅先で本当にリーズナブルでおいしい食事に出会うことはそう簡単でない。テレビやSNSなどで取り上げられる人気レストランは都市部に限定され、時間が限られる旅行者が1時間以上の行列を待つことは難しい。すぐに入れる観光客向けの飲食店は割高なところも多い。

自然や観光施設、アクティビティだけが観光資源ではない。むしろ日本の「食」は最も強力な観光資源の一つであり、現地ツアーにも「食」というカテゴリをより積極的に組み込むべきだと強く思う。観光従事者は地元のエキスパート。地元の方がおすすめする食事に出会えれば、旅行者の満足度はさらに上がる。さらに体験時間が長くなることで商品の幅は広がり、価格単価の引き上げにもつながるはずだ。

日本人・訪日旅行者双方のニーズを満たす

海外旅行は滞在日数が長く、また土地勘もないことから、長時間あるいは食事付きの現地ツアーが予約されやすいという意見もある。しかし、特に英語圏においてはそもそも国内旅行者用、インバウンド旅行者用という分類がほとんど存在しない。

そう遠くない未来、日本においても、そのような区別をしない現地ツアー商品が増えてくることだろう。日本人国内旅行は圧倒的な客数であり大きな市場であるが、多くは土日祝に限定される。一方で平日でも旅行をしてくれる訪日客に対しては、英語サービスや対応商品数の少なさといった課題が残る。国内需要や訪日需要、両方を受け入れられるようにすることは、事業の持続可能性にもつながるはずだ。

旅行者へより多くの選択肢を与え、サービス提供時間を伸ばすことは価格向上の手段の一つ。時間が限られた人、もっと長く体験を楽しみたい人、食事は自分で探す人、地元のおすすめを紹介してもらいたい人など、ニーズはさまざまなはずだ。特に旅行者数が伸び悩む地方において、画一的な商品だけではなく「食」といった選択肢を増やし、対象旅行者の裾野を広げることが持続性のある観光事業であると私は考えている。

(つづく)

寄稿者 二木渉(ふたぎ・わたる)ベルトラ㈱代表取締役社長 兼 CEO

© 株式会社ツーリンクス