「イラクで戦争に巻き込まれた看護師を助けないと」 郵便局員が機転「ちょっと落ち着きましょうか」 兵庫・三木

詐欺被害を防いだとして署長感謝状を贈られる西自由が丘郵便局の横山みち子さん=三木署

 「イラクで戦争に巻き込まれた看護師を助けないとあかんねん」-。三木西自由が丘郵便局(兵庫県三木市志染町西自由が丘1)で今月1日、焦った様子の男性(72)が80万円の大金を送金しようとしていた。ATMの操作を手伝っていた女性局員は男性の話と送金先を聞き、疑念が頭がよぎった。意を決して局員が男性に告げた。「ちょっと落ち着きましょうか」(小西隆久)

 局員は横山みち子さん(60)=小野市。1982(昭和57)年、民営化前の郵政公社に入社し、2021年から西自由が丘郵便局で窓口を担当する。

 男性は、自身の口座に金融機関から下ろしてきた80万円を入れようとしていた。印鑑やカードなどを忘れ、自宅と郵便局を3往復したせいで汗びっしょり。さらに暗証番号を3回間違え、口座がロックされた。

 他の局員がロック状態を解除する間、横山さんは男性の背中を見ながら「大丈夫かな」。男性はATMの操作に不慣れらしく、横山さんが「どうするかを説明しましょうか」と促すと、少しだけほっとした表情を見せた。

 横山さんは、言われた通り送金先や口座番号を入力しながら事情を聴いた。「イラクで戦争に巻き込まれた看護師を日本に救出したい」「まずは荷物を送るための配送料が必要」。聞けば聞くほど怪しいと感じたが、男性の表情は真剣だ。

 すべての項目を入力し、最後の確認画面に。横山さんは一瞬迷ったが「取り消し」ボタンを押し「少しゆっくりしましょう」と男性をカウンターへと導いた。連絡を受け、駆け付けた県警三木署員が男性に「詐欺です」と告げると、男性は落ち着きを取り戻し始めた。

 三木署によると、男性はSNS(交流サイト)で女性と知り合った。「日本人と米国人のハーフで、大阪で育ち孤児になった」「イラクで従軍看護師をしているが、日本に帰りたい」などの説明を信じ、言われた通り送金すれば日本に連れ出せると思ったという。

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 三木署は21日、詐欺被害を未然に防いだ横山さんに署長感謝状を贈った。横山さんは「声をかけるかどうか迷ったけど、被害を防ぐことができて良かった」と笑顔を見せた。

 同署管内では今年1~8月末、6件の特殊詐欺事件が発生した一方で、15件を未然に防いだ。もし防げなければ約240万円の被害が出ていたかもしれず、横山さんのケースを加えると約320万円の被害を防いだことになる。大西毅署長は「金融機関は詐欺被害を食い止める最後のとりで。このような協力が本当にありがたい」と感謝を述べた。

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