「取り過ぎた税金は成長減税として戻せ」国民民主玉木雄一郎代表インタビュー

安倍宏行(Japan In-depth編集長・ジャーナリスト)

編集長が聞く!」

【まとめ】

・代表選で課題が浮き彫りになり、の改善策が明確になった。

・今は自力で強くなって将来の新しい連立政権で重要な一角を占めるという戦略しかない。

・経済成長して税収の取りすぎた分は「成長減税」という形で家計に戻したらいい。

■ 代表選

安倍: 代表選の評価ですが、やってよかったことは何ですか?

玉木: 最後の演説でも申し上げたのですが、前原(誠司)さんは野党第一党の代表経験者であり論客なので、いろんなことを議論していく中で、研ぎ石のように我が党が磨かれたと感じています。特にいろんな課題が浮き彫りになり、それについての改善点、改善策が明確になったことは良かったです。もう一つは、なんだかんだ言ってメディアの皆さんに取り上げていただいたので、国民民主党という政党のあり方と考え方を結果としてたくさんの人に知っていただく機会になったかなと思います。

安倍: そうですね。前原さんとの対立軸はわりと明確だったと思います。前原さんは野党連携強化ということで与党と相対峙すべきなのだということを明確に打ち出していた。結果をご覧になってどうですか?

玉木: 国会議員、総支部長(公認候補予定者)、地方議員、党員・サポーターという4つのカテゴリーで票の出方に差が出ました。我が党はもともと政策理念にこだわって、政策理念を曲げてまで選挙のために立憲民主党に合流しなかった議員でできた政党です。だから、いつか政権を取るためにはあまり非現実的なことを言ったり、反対ばっかりじゃダメだというのがベースにある。そのことがかなり浸透してきた結果、党員・サポーター票と地方議員票は玉木8対前原2になったのではと考えています。

ただ、次の選挙を控えた総支部長は前原さんの方が1票多かった。何故かというと、特に小選挙区を戦う選挙を控えた総支部長は、立憲や維新と組んで選挙区調整した方がいいと考えて、そっちに流れてしまう。現職の国会議員は覚悟を決めて選挙を戦った人がほとんどだから、ダブルスコア(14対7)でしたけど、一期生は前原さんをそもそも推薦していたりして、前原さんに入れている人が多いんです。だから、これは我が党の結党以来の理念、信念の浸透の度合いなので、党員・サポーターは自分の選挙がないから、我が党にとって正しいと思っている方に入れているわけです。

地方自治体の議会選挙の多くは大選挙区ですから、立憲とも維新とも戦うので、むしろ自分たちの立ち位置を明確にした方が勝てるんです。でも、国会議員、特に衆議院は小選挙区なので、他の野党との連携にすぐ行ってしまう。今の一期生は我々がそういう決死の覚悟で作った政党があったから比例で当選したのにも関わらず、一旦通るとやっぱり次の選挙を考えたら、いや、他党を応援している組織の票も欲しい、という風になってしまうわけです。それが票に出た訳です。

安倍: そういうものが可視化されたという意味においても有益だったと。

玉木: そうですね。ただそうは言っても、次の選挙でできるだけ勝たなきゃいけないので、選挙体制は強化します。ここは、前原さんとの議論の中で浮きあがったある種、構造的な問題であり、弱さなので、榛葉賀津也幹事長が兼ねていた選対委員長は独立したポストにして参議院の浜野喜史さんを置き、そこに選対委員長代理として衆議院の浅野哲さんと参議院の伊藤孝恵さんをつけて組織として選挙体制を強化しました。これは、代表選挙をした一つの成果です。

■ 今後の体制

安倍: ところで、意外だったのは前原さん、代表代行を続投させたじゃないですか。このこころは?

玉木: 現状の体制が評価をいただいたということで、基本的には骨格は維持するということです。前原さんに冷飯を食わすとか、本当にノーサイドになるのか、とか(メディアは)言っていましたけど、もう21人しかいませんから。温かいご飯と冷や飯を分ける余裕もないですし、力を合わせて頑張っていくということで、前原さんに限らず現体制を基本的には維持しているということです。

安倍: 代表選終わってから前原さんとはどんな話をしたのですか?

玉木: 前原さんは「こうやって議論することによってようやく玉木さんの真意もよくわかった」と言ってくれたので、代表選の中でだんだん融和的になってきたという感じがありました。私ももともと二大政党制を目指していたし、政権交代は今でもしたいと思っていますが、今の置かれた状況では難しいというのが率直な気持ちです。

2017年に希望の党の騒動があり、民進党がなくなり立憲民主党ができた結果、野党がバラバラになって今日に至っています。その一角を責任持って3年間、党運営してきた立場からすると、反自民・非共産で大きな塊と言っても、ご存じの通り、野党第一党の立憲と第二党の維新が互いに争っていて、次の選挙ではいずれの政党も政権交代を目指していません。(立憲の)泉さんは150議席取ることに一生懸命だし、(維新の)馬場さんは野党第一党になることが至上命題だし。お互い選挙区調整して自公に勝る議席を取ることを長男、次男が思ってないときに、三男がいくら言っても仕方がない。「そんなに調整したいのだったら、全部お前のところが譲れ」って言われて終わりなんで。

だから現状の認識において私の方がもっとシビアに見ています。現に少数政党の代表をやっていますからね。前原さんは、泉さんとも馬場さんとも話せばわかる、話したらみんな仲良く調整して、自民党、公明党に対する大きな塊にみんなが納得して選挙区調整するという主張でしたが、現実に立憲と維新は70以上の選挙区で候補者がダブっています。

うちと立憲は4選挙区しかダブってないし、現職ではダブっているところは1つもない。だから、野党同士が候補者を立て合って自公に漁夫の利を与えていると言うのであれば、まず維新が調整に応じる必要があります。野党第一党の維持を目指す立憲は全部立てるから別に下りる気はない。かつそれを可能にしているのが比例代表選挙です。小選挙区で落ちても、比例で少しでも取れればと思って候補者を立てますから。今の選挙制度は小選挙区制を取っていますけど、同時に比例選挙があるので、候補者を下ろすというインセンティブが野党に働きづらい。そういうことも全部踏まえて考えると、今は自力で強くなって、将来の新しい連立政権で重要な一角を占めるという戦略しか私はないと考えています。将来は変わるかもしれないけど、今はそれしかないです。

安倍: 維新の藤田幹事長にもこの間話を聞いたんですが、政権交代という意味においては3回衆議院選を経て、と言っていましたね。

玉木: 10年くらいかかりますよね。維新でさえ10年かかるって言っているのに、前原さんの言う反自民・非共産で一つにまとめてやるなんてことを維新自身が考えていない。それだったらこっちは単に下ろすだけの話になる。2009年の政権交代前夜や2008年、2007年であれば前原さんの主張に私も乗るんだけど、現状は当時と全く違っています。しかも、立憲は世代交代していない。

安倍: なるほど。立憲はみんなあの当時の世代ですからね。

玉木: いまだに(東京電力福島第一原発の処理水を)汚染水とか言っている議員もいるし、それを収めることもできない。

安倍: だから次の選挙ではまた僕は維新が結構議席取るだろうとは思っています。

玉木: でも、野党第一党に届くか届かないかぐらいですよ。選挙区はなかなか難しい。比例では野党第一党になると思いますけど。

安倍: まだその程度かもしれないですね。

玉木: 維新と立憲がかち合っていますから、一番得するのはやっぱり自民党なんですよ。

▲写真 国民民主党玉木雄一郎代表(2020年8月27日 東京都千代田区議員会館)ⒸJapan In-depth編集部

■ 連立政権入り

安倍: 野党が割れているとそうなっちゃう。連立とかそっちの方ばっかりに話題がいってしまって。

玉木: こっちからは一言も言ってないのですけどね。

安倍: マスコミが勝手に騒ぎ立てているイメージですか?

玉木: マスコミと言うか、読売新聞ですよね。(笑)でもみんな乗っかっているというかね。だって、今、政局の話題ってないじゃないですか。

安倍: 無理やり作っている感じはありますね。今日、自民党の四役の会見ご覧になりました?茂木幹事長に質問が飛んだじゃないですか。そうしたら茂木さんは、「自公、国民三党協議で、賃上げ、経済、憲法、エネルギー、安保、いろいろ一致するものも多いし、協議も進めてきたし、玉木さんからは前向きに発言していただいてる、今後も前向きな政策提言は受けたら誠実に前に進めていく」、と言っていましたね。

玉木: 無難な答えですよね (笑)

安倍: 実際のところどうなのですか。今回、玉木さん入閣なんて話もあったんですけども、そういうアプローチは今のところないって、明快におっしゃってましたよね?

玉木: 具体的な話はないですけど、これからもガソリン値下げも始めとしてやってもらいたい政策はあるので、どうやって与党に政策的に食い込んでいくのかというのはまた色々考えていきたいと思います。

安倍: 政策的に齟齬がないのであれば、連立に入っても問題はないのでは?

玉木: これも代表選挙の中でも申し上げたんですけど、連立となると、政策と同時に選挙区調整が必要です。連立を既に組んでいる自公というパートナーでさえ、新しい選挙区では喧嘩しているぐらいですから簡単ではないですよ。それは維新だって一緒です。仮に自民党の一部とは組みたいと思っても、選挙区調整がうち以上に数が多いから、なかなか難しいと思います。

安倍: 自民党と維新という事で言えば、自民は公明を切って維新と、という気持ちはあるんでしょうね。

玉木: 選挙で困るから最後は切らないと思いますけど、政治的駆け引きはいろいろあると思います。ただ我々はそれでも政策実現をしたいというのがある。党の存在感を増すため以上に、やっぱり困っている人が多いので。なかなか今の岸田政権には働く人、生活者の声が届きにくくなっていますから、我々が届かせるという意味でもね。政治的にいろんな振る舞いをしながら政策を1つでも2つでも実現したいというのは、いろいろご批判もいただきますけど、その思いによこしまなところはないのです。本当に。

■ インフレ

安倍: 今、ガソリンを含めて電気ガス、それからインフレ進行ということで、大企業は「賃金上げているじゃないか」と胸を張っているけども、中間層の子育て世代が本当に大変だと思うんですよね。それに対しての感度が岸田政権はすごく鈍い。

玉木: そこはそうです。なので、秋の臨時国会でも総理にも言いたいと思っています。今実感がないとおっしゃったのはその通りで、確かに賃金は30年ぶりに数字では一応上がっていることは上がっているんです。嘘じゃない。ただ、国に入ってくる税収が3年連続過去最高を更新しているということは、家計と企業から税金を取りまくっているのです。実は法人税はそんなに伸びてなくて、何が伸びているかというと消費税と源泉所得税なのです。だから2年前は税収見積もりより10兆増えて、去年は6兆増えて、多分、今年も5兆から10兆増えます。それ全部消費税とサラリーマンの源泉所得税で増えているんです。

賃上げになると所得税は累進課税だから、5%の一番税率低いところからちょっと高い方に移っている人が多くなっている。確かに賃金は増えているけど、同時に所得税も増えて手取りは変わらないか、むしろマイナスみたいな人がいっぱい出ている結果、国はウハウハになっているんです。これを「プラケット・クリープ」と言います。

だから経済成長して税収が増えている分、予定通りの額はちゃんと国が使えばいいんですが、取りすぎた分は「成長減税」という形で家計に戻したらいいのです。

これをやれば物価高対策にもなります。今年4-6月期のGDP速報値は名目成長率が年率換算12%、実質で6%成長でしたけど、あの時でさえ消費はマイナスです。円安や金利安で輸出と住宅投資は伸びていますが、物価高で個人消費はマイナスになっている。4・5・6月はゴールデンウィーク挟んでいるのに、前の四半期に比べてマイナスということは結構危なくなってきているので。家計減税を税収が増えた分でやれば持ちこたえるし、そのことがまた来年の賃上げにつながります。

安倍: この間、経団連が消費税を上げろって言った時には、この人たち大丈夫かなと思いました。

玉木: 分かってないですね。彼らも発想が古いのは、消費税は昔は消費者が負担するものだと思われていましたが、2019年10月に軽減税率導入で複数税率を入れたことで消費税の特徴は変わっていて、小売売上げを外形標準とする法人税なんですよ。だから例えば極端な話、消費税率を10%から12%に上げたとしても、値札を変えなくていいんです。企業が納税する時の計算として売上の12%を納めてくださいという税なのです。値札の価格は別につけておいて、税を納入する時の計算上売上額を使うだけなので、法人税を上げる話なのです。経団連も言っていますが。

■ インボイス制度

安倍: それから、インボイス制度は中小企業いじめ、フリーランスいじめじゃないかって声も大きくなっています。

玉木: フリーランスの方は困っていますよ。例えば、「課税事業者にならないとあんたと取引しないよ、仕入れ税額控除できないからね。だから課税事業者になってください」と言われて、なったのに消費税込みの金額を払ってくれない。だから実質被ることになってしまう。もしくは、「免税事業者のままでいきます」と言ったら、「おたくとはなかなか取引できませんね」と言われた、という話も聞きます。どちらの選択肢を取っても、結局実入りが減るのです。

安倍: なんか変な話だなと思っていて、課税事業者になってくれないのなら取引しませんよって、そんなこと簡単に言えるわけないじゃないですか。

玉木: 私のところにも地元の中小企業から相談が来ています。中小企業といっても結構大きいのですが、そこが職人的な技術を持つ個人事業主に縫い物などの作業をやってもらっているそうで、その人に「課税事業者になってくれ」とは今更言えないそうです。だからといってその技術が必要だから取引から排除するわけにもいかない。だから全部その中小企業が自分で被っているのです。

安倍: そういうことですよね。最初は2%でいいけど、何年か経ったら10%丸々被ることになるというのは、なんか違うんじゃないか、って思いますね。

玉木: はっきり言えば、中小企業支援の減税策だったんですけど、その減税をやめて増税しているってことですよ。めちゃくちゃ難しそうに喋っているけど、減税されていたのをやめて増税するってことです。

安倍: 正直、やっぱりみなさん、旅行を減らそう、外食やめよう、贅沢な買い物はやめよう、服は買わないようにしよう、という感じになっていますね。これからますます消費、落ちますよ。

玉木: GDPの6割が消費なので。この消費の動向に対して今の政権が鈍いんですよ。

安倍: なぜでしょうね。

玉木: 日々買い物してないからです。

安倍: そうですが、自民党もあんなにたくさん議員がいるんだから・・・若手の人たちも、毎週地元に帰っているわけじゃないですか。

玉木: そうだと思います。でもなんか、今アンテナが折れている感じがします。

安倍: その辺、国会でぜひ玉木さんに質問してください。ところで、維新とは話し合いされているんですか?

■ 憲法審査会

玉木: 維新と政策レベルで一致するものとして大きいのは憲法改正ですね。衆議院の憲法審査会に私も馬場代表もいて、緊急事態条項、特に災害やテロで選挙ができない時に国会議員任期を特例延長する憲法改正条文を、有志の会を入れた野党3会派でまとめたというのは画期的だと思います。

安倍: あれは大きかったですね。

玉木: 立憲は護憲政党のように全く動かないし、自民党も「憲法改正やるやる詐欺」政党なのです。やると言ってやらないんで(自民党の衆院憲法審査会の与党筆頭幹事の)新藤義孝さんのお尻を叩いているけど、新藤さんが入閣されたので、さっき電話してちゃんと引き継いでおいてくださいよとお願いしておきました。

安倍: 今度、新藤さんの後は誰なんですか?

玉木: まだ決まってないです。中谷元さんとか戻ってくるんじゃないかな。

安倍: とにかくあれも遅々としてすすまないけども、とりあえず、何か実績作っていかないと。

玉木: 今回の内閣改造でもよく「この内閣の顔ぶれはどうですか」とメディアから聞かれますが、誰がやるかより何をしたいかでしょう。

安倍: それがないから困るんですよ。

玉木: 何がしたいかがないので、やっぱり変に人事に注目が集まってしまう。2年連続4%程度の賃上げだったら30年ぶりで歴史に残るから、岸田総理もそれに集中したらどうですかと提案したい。経済が安定していけば支持率はついてくるし、懐が豊かになって怒る人はいないでしょう。

安倍: そうですよ。憲法については、最初は岸田さんがやる気満々だったんですよね?

玉木: 満々だったのですが、安倍晋三さんが亡くなって、もう安倍派の機嫌を取らなくてよくなったのか、改憲も言わなくなっちゃったし、新しい資本主義は迷子になっているし、今どこに旅に出ているのかわからない。

安倍: もう多分誰も覚えてないと思いますよ。一般の人は「なんかあったねそんなの」っていう。人は忘れるの早いんで。

■ 組閣、党4役人事

安倍: ところで、今回の組閣も安倍派に大分配慮しているじゃないですか。

玉木: 安倍派に一番配慮しています。これ、「総裁選シフト内閣」ですよね。

安倍: そういうふうに見られていますよね。茂木さんを抑え込もうっていうのに一生懸命だったんだけど、小渕さん今日泣いちゃったんですよね。

玉木: まあいろいろ当時のことが思い出されたのでしょうけど、あそこで泣いちゃダメです。

安倍: 記者も狙ってわざと一旦持ち上げたんでしょうけど聞いた人もびっくりしたんじゃないかな。えっこれで?みたいな。

玉木: 驚きました。

安倍: 今後の国民民主に改めて期待したいですね。

玉木: 頑張ります。とにかく賃上げ。政治の役割は暮らしを豊かにすること。頑張ったら報われると思う経済環境、社会環境を作るのは政治の仕事です。みんな、「今頑張ってもバカらしいし、結果出ないし、他の国は豊かになっているのに、日本だけは衰退しているよね」、となんとなく思っているから元気が出ないんですよ。

安倍: そうなんですよ。インバウンド外国人が日本に来て「安い、安い」って喜んでいますが、それに頼ってるようじゃダメだと思います。

(インタビューは2023年9月13日に実施)

(了)

トップ写真:国民民主党玉木雄一郎代表(2020年8月27日 東京都千代田区議員会館)ⒸJapan In-depth編集部

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