0.5秒早くブレーキ、7メートル手前で停車か 運転能力にプラズマクラスターが影響の可能性 シャープ

自動車の運転手に「プラズマクラスターイオン」を照射すると、注意力やハンドル操作などの運転能力に良い影響が生まれる可能性があるとした研究結果をシャープが26日、発表した。芝浦工業大学SIT総合研究所の特任研究員で、同大の元教授の伊東敏夫氏との共同研究で明らかにした。集中力を欠いた漫然運転の抑止策になりうるとしている。

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プラズマクラスターは正(プラス)と負(マイナス)のイオンを人工的に発生させる技術だ。消臭などに効果があるとされており、車載用のイオン発生装置も開発された。

シャープは2020年、同技術が運転中のストレス低減と集中力維持に貢献するとした研究結果を発表した。さらに今年5月には、九州産業大学人間科学部スポーツ健康科学科の萩原悟一(ごいち)准教授との共同研究で脳の血流の変化を調べて、プラズマクラスターイオンを浴びたときに脳が活動的な状態になることが確認されたと発表。先行研究によって状態の変化が実証されたと考えられるため、今回の実験で行動の変化を検証したという。

シャープと伊東氏は、運転手が手動で運転をするケースと、自動運転システムを利用するケースに分けて実験を実施した。

手動運転の実験ではドライブシミュレーターを用いて、前方の車両のブレーキランプが点灯してからブレーキを踏むまでの反応時間を調査した。風とともに1立方センチメートルあたり約10万個のプラズマクラスターイオンを運転手の口もとにあてたときの反応時間は平均約1.3秒で、ただ送風したときより約0.5秒短かった。時速50キロメートルで走行していると仮定すると約7メートル手前で停車できることになる。また、ノートパソコンを用いて簡易的にブレーキ反応速度を調べる実験もしたところ、プラズマクラスターイオンを浴びた60~73歳の高齢者の反応時間がわずかに改善したという。

同様に、進行方向に障害物を見つけたときのハンドル操作をプラズマクラスターイオンありと送風のみで比較すると、プラズマクラスターイオンありの方が滑らかに操作していたことがわかった。

自動運転の実験は、人間が主体的に運転をして、自動化は部分的なものにとどまる「レベル2」を想定。運転をシステムに任せているときの眠気増加が問題視されているが、プラズマクラスターイオンが運転時の眠気を抑制する傾向が確認された。

システムで対応できないときに手動運転に切り替わる「テイクオーバー」が発生した直後のハンドル操作を調べると、プラズマクラスターイオンがあるときはハンドルの角度を緩やかに変化させて障害物を避ける傾向が見られた。ハンドルを急に、大きく回すと運転が荒くなるため、未然に事故を防げる可能性がある。

実験の結果を受けてシャープと伊東氏は、同技術に運転能力を向上させる効果があることが示唆されたと結論づけた。今後は身体や行動に影響を及ぼすメカニズムを解明したいという。伊東氏は「(助手席で休んでいる同乗者には影響がなく)ドライバーだけに効果があるというのであれば画期的な方法ではないか。漫然運転だけでなく(運転中の)不注意の防止にも効果が期待できる手段だと思う」と考えを述べた。シャープのPCI・ヘルスケア事業部副事業部長の岡嶋弘昌氏は、学習やスポーツのパフォーマンスの向上も見込めるとして、プラズマクラスターイオンを活用する場を増やしたいと話した。

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