ポルシェ流のリダクショニズムが光る「911カレラT」を試す

ポルシェは最新機能を各モデルに意欲的に盛り込むことで、魅力的なラインアップを構築している。伝統的なスポーツカーである「911」にスーパースポーツ並のスピードを追加した「Turbo(ターボ)」や、レーシングカー並みのポテンシャルを秘めた「RS」、「GT3」といったトップグレードのモデルたちはファンの憧れの対象にもなっている。

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先代の911(991型)の最終モデルとして追加された一台が「911カレラT」だ。Tというグレードの元祖は60年代後半の「911T」であり、「ツーリング(Touring)」を意味する。といっても、ツーリング向きのスペックになっているわけではなく、むしろ装備を極力減らしたベーシックモデルを指す。

カレラTはというと、軽量化を果たしつつ、元祖Tよりも少しだけ走りに寄せた内容だ。パワーユニットは「911カレラ」と同じく385psの3.0リッター、フラット(水平対向)6ターボだが、電子制御で自動的にダンパーの減衰力を調整するシステム(PASM:ポルシェ・アクティブサスペンション・マネージメント)、スポーツクロノ、LSD等は標準装備で、タイヤとホイールは標準より1インチ径が大きくなっていた。

走りを決定づけているのは、車体の軽量化だろう。すぐにそれと分かるのはリアシートが省かれている点だ。バッテリーも軽量タイプに置き換えられ、防音装備も簡略化、リアとリアサイドウィンドウのガラスも薄いものに置換されている。極め付けとして、7速MT車なら、ギアボックスが標準よりも35kg軽いのだ。

試乗車でもその効果ははっきりと体感できた。ステアリングの入力に対し、車体が鋭く反応し、911カレラ特有のリアの重さはほとんど感じない。バッテリーこそフロントレイアウトだが、車体後半が軽量化されていることにより前後のバランスが改善され、スポーツカーらしい軽快な身のこなしが実現できていた。

またシグネチャーカラーのパイソングリーンにペイントされた試乗車には、車速に応じて後輪と前輪を同じ方向もしくは、逆位相操舵に動くリアアクスルステアリング(オプション設定)が備わっていた。これもまた、リアヘビーを相殺する機能として効果を発揮していることが感じられた。

911が本来備えているべきすっきりとしたドライブフィールを甦えらせた911カレラT。走りに特化したスタンスに加え、最新のADAS(先進運転支援システム)を装備していることを考えれば、元祖Tのようなベーシックモデルに特化した仕様とは異なる印象だ。装備を洗練させ、走りに的を絞った「リダクショニズム(=概念を絞り込む)」の成果と捉えるほうが的確だろう。

身の回りを整理して、ちょっとしたLess is More(少ない方が豊かという概念)の実現を試みる。それがBRUDER読者のライフスタイルに新たなひらめきを与えてくれるかもしれない。

ポルシェ 911カレラ T 車両本体価格: 1640万円(税込)

  • ボディサイズ | 全長 4530 X 全幅 1852 X 全高 1293 mm
  • ホイールベース | 2450 mm
  • 車両重量 | 1460 kg
  • エンジン | 水平対向6気筒ターボ
  • 排気量 | 2981 cc
  • 最高出力 | 385 ps(283 kW) / 6500 rpm
  • 最大トルク | 420 N・m / 1950 - 5000 rpm
  • 変速機 | 7速MT / 8速PDK

Text : Takuo Yoshida

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