Vol.47 空中で翼を変形するティルトウィングで拡がるドローンの可能性 [Drone Design]

物流業界の人手不足は世界中で大きな問題になっており、ドローンの活用を大きく後押しする要因になっています。特にヨーロッパでは環境への配慮もあり、長距離で荷物を運ぶ場合に有人のセスナやヘリに代わる方法として、新しい物流ドローンの開発に各社が取り組んでいます。

なかでも注目されているのが、Dufour Aerospace社が開発するティルトウィングタイプのドローンです。スイスで民間ヘリを30年以上運用してきた同社は、独自に開発する飛行制御システムと特許取得済みの最新テクノロジーを組み合わせ、垂直離陸した後に翼の傾きを変えて長距離を飛行する機体の実用化を進めています。

Dufour Aerospace社はティルトウィングの特徴として、ヘリコプターと飛行機がそれぞれ持つ優れた機能を組み合わせることで、汎用性が高く効率的で安全な飛行を可能にする点を挙げており、すでに60年前には飛行を成功させているアイデアだとしています。当時、カナダで行われたプログラムでは40人以上のパイロットが1,000時間もの飛行をしていることから、安全性、耐久性共に問題がない技術であると判断し、新たな機体の開発に取り組みはじめました。

現在開発中の機体は、4つのプロペラを持つ「Aero2」と6つのプロペラを持つ「Aero3」があり、いずれも動力はハイブリッドで、垂直に離陸した後に翼の傾きを変えて飛行機のように長距離を飛び、再び垂直で着陸することでエネルギー効率は最大限に活かすことができるとしています。

Dufour Aerospace社は空中で翼の傾きが変わるティルトウィングで垂直離着陸と長距離を可能にする。(提供:Dufour Aerospace)

以前は課題とされていた翼と尾翼の両方を傾斜させるヒンジの構造についても、エンジニアリングチームの努力により解決し、横風は突風にも耐えられる機体になっていると説明しています。

実のところ空中で翼を変形させるチルトウィングの機構はかなり複雑で、安定した実用化は難しいとされていました。そのため、一度は開発の舞台から消えかけたのですが、ドローンが登場したあたりから再注目され、いち早く研究開発に取り組んだのがDufour Aerospace社でした。

Aero2は3機のプロトタイプ製造を経て今年6月に設計を完成させ、2024年に本格的な試験飛行を開始することを発表しています。2025年には量産を開始し、すでに米国でドローンを運用するSpright社に医療品の中距離配送を行うサービス用の機体を納品することが予定されています。

Aero2はフロント部分に荷物を格納する。(提供:Dufour Aerospace)

https://www.drone.jp/news/2023061617041468165.html

また、Aero2より大型のAero3は無人ではなく人が乗る設計になっており、主にドクターヘリとして活用することを目指しています。離陸時の最大重量は2,800kgで750kgの荷物を積むことができ、最高時速350kmで約3時間、1000km以上を飛ぶことができます。機内は最大乗客数8名という広さがあることから、災害時の緊急活動にスタッフを派遣する用途も考えられているようです。

Dufour Aerospace社の「Aero3」(提供:Dufour Aerospace)

ちなみに日本ではJAXAがAero2と同じ、4つのプロペラを備えたティルトウィングを開発する研究を行っています。また、神戸市に拠点を構えるスカイリンクテクノロジーズ社は、Aero3と同じように約1000kmの中距離飛行が可能な空飛ぶクルマの開発を進めており、やはりドクターヘリなどの活用を目指していきたいとしています。

スカイリンクテクノロジーズ社は中距離飛行が可能なティルトウィングタイプの空飛ぶクルマを開発している。(写真は6分の1モデル)

ティルトウィングはスイスや日本のように山間部が多く、気候が不安定な場合でも安定した飛行能力があり、さらに狭い場所でも離発着できる地域にこそ必要な機体なのかもしれません。

スカイリンクテクノロジーズ社は2019年9月に経済産業省から、空飛ぶクルマ開発のベンチャー企業では初の航空機、無人航空機の製造事業許可を取得しており、国や自治体から開発の支援も受けています。2025年に開催される大阪・関西万博では、実機サイズのプロトタイプが見られるのを期待したいところです。

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