東京都市大学と東急建設、ドローンの屋内飛行時における安定化技術を開発 。上壁近傍での推力上昇を抑制

近年、ドローンはセンサーやカメラを搭載して、農業や物流、防災、建設業など、さまざまな分野で社会実装に向けた取り組みが進み、「空の産業革命」に向けた環境整備と技術開発が推進されています。

しかし、更なる普及を妨げる原因の一つとして、上壁(橋桁や天井などの構造物)近傍を飛行する際に、急激な推力上昇が生じドローンが上壁に衝突、損傷・墜落するという問題がある。今回、この問題を解消するため、新たに圧力回復孔を設けた回転翼(プロペラ)を開発し、これにより、上壁近傍の推力上昇を従来に比べ約20%抑制できた。

また、回転翼は比較的単純な構造でできており、既存ドローンへの適用が容易なことから、小型だけでなく、さまざまな大きさのドローンへの応用も期待されている。

今後は、本研究成果の発信を通じ、屋内環境下や構造物に近接して行うドローンでの点検や軽作業への活用促進に役立つことを想定している。

なお、これらの研究成果は、Journal of Fluids Engineering, Transactions of the ASME に、9月2日付けで掲載された。

概要

国土交通省が推進する建設現場の生産性向上を目的としたプロジェクト「i-Construction」の検討項目である「ICTの全面的な活用」の1つとして、建設中のビルや建設後の橋梁の監視などにドローンを利用する検討がなされ、一部ではすでに実用化が始まっている。

しかし、ドローンが上壁(橋桁や天井などの構造物)近傍を飛行する際に、上壁に吸い寄せられるように機体が急に上昇する力(推力)が高まり、壁に衝突して損傷または墜落する問題が生じ、ドローン利用の普及を妨げる原因の一つになっているという。

本研究では、機体上部の構造物(上壁)近傍を小型マルチコプター(ドローン)が飛行する際に生じる天井効果によって機体が上昇する力(推力)の増大を抑制する新しい回転翼(プロペラ)として、回転翼の軸部分を貫通する圧力回復孔付き回転翼を発明した。

今回、推力の上昇が回転翼−上壁間に生成される旋回流によって生じる減圧に起因することに着目し、ハブ部分に設置した貫通孔を通じて減圧量を抑えることによって、上壁近傍飛行時の急激な推力上昇の抑制を試みた。

図2および図3に、上壁近傍飛行時のイメージ図と上壁までの距離と推力の関係例(回転翼回転数:4000rpm一定)を示す。従来翼を搭載したドローンの回転翼と上壁の距離gが回転翼直径Dの10分の1(g/D = 0.1)付近で推力が急増するのに対して、発明翼の場合はその上昇度が小さくなり、その推力上昇率(上壁最接近時と上壁から十分離れた場合の推力比)は、従来翼搭載の場合に対して約20%抑制可能であることが実験的に明らかとなった。これにより、上壁近傍における飛行制御性・安全性の向上が期待されている。

図2 上壁近傍飛行時のイメージ図
図3 上壁までの距離と推力の関係例(4000 rpm一定)

研究の背景

近年、構成部品の小型軽量化や制御精度・バッテリー寿命の向上に伴い、ドローンの応用範囲が急速に拡大している。しかしながら、上壁近傍飛行時に推力が急増し、バランスを崩した機体が構造物に衝突して損傷または墜落する恐れがあることが屋内建設現場などでの実用化に向けた課題となっている。そのため、急激な推力上昇を抑制する技術の構築が強く望まれているという。

そこで、本研究では、まずドローンが上壁近傍飛行時に推力が急増するメカニズムの解明を試み、回転翼−上壁間に生成される旋回流によって同間の気圧が減少すること、ドローン近傍の流れが反転することが推力を急増する一因であることが実験的に明らかにした。この気圧および気流の変化を抑制することによる推力の増大を抑える方法として圧力回復孔を設けた回転翼の発明に至った。

研究の社会的貢献および今後の展開

本研究で発明した回転翼は比較的単純な構造のため制作性も高く、既存ドローンへの適用が容易なことから速やかな実用化が可能であり、屋内環境下や構造物に近接して行う点検や軽作業へのドローン活用促進に寄与すると考えられる。

また、本発明は幅広い回転翼の大きさ・形状および運転条件に対応可能であることから、小型ドローンのみならず、さまざまな大きさのドローンへの応用も期待されている。

▶︎東京都市大学

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