速歩き、歩幅を広く…どう歩く? ウオーキングに適した“蹴り出し”インソールが促進

足の裏を刺激するインソール(靴の中敷き)がウオーキングに適した歩き方の習得に役立つとした研究を、岡山県立大学の大下和茂准教授が発表した。大下准教授は「The Conference of Digital Life vol.1」(16日、九州産業大学)で同研究の講演を行い、当日の最も優れた講演論文発表に贈られる「ザ・カンファレンス・オブ・デジタルライフ・ベストプレゼンテーション・アワード」を受賞した。

受賞した岡山県立大・大下和茂准教授

速歩きの鍵は「蹴り出し」

有酸素運動を継続して行うと、脂肪をエネルギーとして利用する比率が高まって、肥満解消や血圧・血糖値の改善などにつながるとされる。有酸素運動の中でも特別な準備を必要とせず、けがをするリスクが他の運動より小さいウオーキングは高齢者の健康づくりでも行われている。

大下准教授は健康運動指導士の文書をもとに、ウオーキングをするときに重要なのは普段より「やや速く」歩くよう意識することだと指摘する。足を早く動かそうとすると転んだり、筋肉の一部に負荷がかかったりするため、歩幅を広げることで歩行速度を上げることが望ましいという。

そこで大下准教授らは実験を行い、参加者に歩幅を広げることに注意して速く歩くよう指示した後、どのように足を動かしたかを調査した。すると「前に出す足を遠くにのばす」と答えた人が78%で、「蹴り出す足を強く後ろに蹴る」は11%にとどまった。残る11%は、これら両方を意識したと答えた。

「約8割が着地する足を遠くに出していましたが、蹴り出しを強くすると推進力増加などのメリットが得られます」(大下准教授)。特に高齢者の場合は、地面を蹴る足の筋力低下を防ぐ、歩行時のバランス制御を向上させるなどの効果が見込まれることから、健康づくりのウオーキングのときには「蹴り出す足を強く後ろに蹴る」方が適しているという。

だが、足の裏で行われる体重移動を意識して「足の親指の付け根から親指に(体重が)抜ける」ときに強く蹴り出すのが有効だとレクチャーしても、運動が苦手な人には伝わりにくい。大下准教授らは、蹴り出しのタイミングを確認する補助器具として、親指の付け根と親指に接する部分に小さな突起を付けたインソールを開発。参加者の靴に、このインソールをつけて歩かせる実験を行い「突起物により足底の蹴り出し位置の認識を高めることで股関節や足関節の運動が大きくなり歩幅が延長する」ことを見出した。

温感による刺激で効果継続

さらに、使い捨てカイロで親指の付け根などを温める“加温インソール“を試験的に作って、加温インソールをつけた参加者が普通に歩いた場合と、蹴り出しを意識して歩いた場合を調べた。加温インソールをつけて蹴り出しを意識して歩いたときは、突起物で刺激したときと同様に歩幅が広くなった。その後、蹴り出しを意識しない歩き方に切り替えると、通常時よりも歩幅がやや広くなっていたことから、“望ましい歩き方”を促す効果が継続する傾向があるとわかった。

通常のインソールでは同様の効果は認められなかった。大下准教授は低温やけどなどの課題があるものの、蹴り出しを意識して、指の付け根などを温熱で刺激すると、歩幅が延長してウオーキングに適した歩き方になると述べた。

市場にはすでに、センサーを備えたインソールがスマートフォンに歩数や歩幅などを送信して、歩き方の矯正に役立てる製品がある。大下准教授は、歩幅が短くなったことを既存技術で検出して、発熱シートが自動的に指の付け根などを加熱することにより、リアルタイムで歩き方を改善するシステムを提案。インソールが変形して突起物を作り出すことで蹴り出しを意識させるのは技術的に難しいが、発熱シートを用いれば「一歩進んだインソール」を実現できるとした。

この研究発表により大下准教授は、電子ジャーナル「Journal of Digital Life」(ジャーナル・オブ・デジタル・ライフ、JDL)が開いたカンファレンスで「ベストプレゼンテーション・アワード」を受賞。「発刊の時からJDLに携わっているので感慨深い」と喜びを語った。

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