「余計な話はするな」帰国者の口に戸を立てたがる北朝鮮

コロナ禍の鎖国政策で、海外で足止めを食らっていた北朝鮮国民の帰国が、先月16日から始まった。

留学生、外交官、貿易関係者、派遣労働者、さらには脱北して中国で逮捕された強制送還対象者まで、対象は多岐にわたる。罪を犯していない者は、徹底した検閲(監査)と「水抜き」と呼ばれる思想教育を受けてようやく家族のもとに戻れるが、当局は彼らの言動、行動にやきもきしている。平安北道(ピョンアンブクト)のデイリーNK内部情報筋が伝えた。

社会安全省(警察庁)は今月初め、海外からの帰国者の反社会主義、非社会主義現象(風紀紊乱行為)が、住民の思想、感情、生活様式に影響を及ぼしうるとして、彼らに対する監視と統制を強化するように、各道の安全局(県警本部)に指示を下した。

その後にも、帰国者の発言内容など、ありとあらゆることを監視し、その報告を適時行えとの指示を下している。

コロナ鎖国によってもたらされた経済難と食糧不足により、北朝鮮国民は経済的にも精神的にも疲弊しきっている。そんな彼らが、帰国者から目新しい外国の土産話を聞かされれば、思想的に動揺が起こりうると警戒しているのだ。

帰国者が海外から持ち帰った物品や外貨で違法な商行為などを行うことは、健全な社会主義生活様式と風潮を乱すものと見做し、理由の如何を問わず、すべて没収し、朝鮮労働党や行政当局が処罰し、度を越した行為に対しては、法的処罰を行う方針だ。また、所属単位(職場)にも通報し、思想教養(教育)を行うという。

当局がもっとも神経をとがらせているのは「不純録画物」、つまり韓流ドラマや映画のファイルの持ち込みだ。これらの流通に対しては、死刑を含めた重罰で対処するなど、取り締まりを強化しているものの、過去20年の韓流との闘いで、当局が勝利を収めたことは一度もなく、イタチごっこになっている。

また、当局にとって都合の悪い海外情報の流入も考えられる。

2017年にマレーシアで起きた、金正恩総書記の異母兄の金正男(キム・ジョンナム)氏の暗殺事件については、貿易関係者が家族に漏らし、それを聞いた妻たちが、近所の人に話したことで全国に広がってしまった。

口コミネットワークが発達している北朝鮮では、「ここだけの話」があっという間に全国的な話題になってしまう。人の口には戸が立てられないものだ。

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