古代エジプトでは果実の実をすりつぶして処刑に使っていたってホント!?【図解 化学の話】

果実のどの部分に毒があるの!?

処刑!おぞましい言葉だが、なんと古代エジプトでは果実の実を増り潰した液を罪人に飲ませて命を絶ったというのです。果実!?で処刑?なんのことやら不可解ですが、実はアンズ、モモ、スモモ、ウメ、ビワ、サクランボやアーモンドなどふだん食している果物に毒がある、といっても果実ではなく種子。これらはバラ科の植物ですが、種子には「アミグダリン」という物質が含有しています。通常は無毒ですが、種子の組織を擂り潰した液を飲ませると、体内の酵素β-グルコシダーゼの働きで分解され、青酸が発生するのです。その効果を知っていた古代エジプト人は、モモの実の核種「桃仁」を使って宗教上の重罪人を処刑したというわけです。現在でもこうした果物の危険性を喚起して、農林水産省は注意を促しています。その趣旨は「ビワの種や未熟な果実には天然の有害物質(シアン化合物)が含まれている。平成29年、ビワの種子を粉末にした食品から有害物質が高い濃度で検出され、回収される事案が複数発生した。ビワの種子が健康にいいとの噂を信じて大量に摂取すると健康を害する」云々ですね。

さて、「青酸」が出てきました。誰もが知っている猛毒物質(シアン化水素)です。アミダグリンで死ぬには時間がかかりますが、青酸ガスを吸うと人は瞬時に死ぬ。青酸ガスは水に溶けます。水酸化ナトリウムの水溶液を混ぜれば青酸ナトリウムになり、それに水酸化カリウムを反応させると青酸カリウムの白い粉になる。青酸カリですね。こんな危険な物質なのに生産されるのはどうしてでしょう。青酸カリや青酸ナトリウムは、鉱石に含まれる金銀と反応して水に溶けやすい錯塩を形成する。これが金鉱石から純金を抽出して精錬する冶金や電気メッキ、シアン化物 シアノ錯塩の製造、農薬などに広く用いられる。つまり、工業目的に適合するために有機合成化学物質として大量に生産される、というわけです。そうすると、青酸は手に入りやすいことになります。そのため、殺人事件にしばしば使われてきました。近代以降、青酸が生産(ダジャレではありません)されるようになったことで使われてきたのです。ところが、時代が進むにつれて青酸殺人は影を潜めていきます。青酸を飲まされると、血液の色が赤みを帯び、顔や皮膚が鮮やかな赤になる。また、解剖すると胃袋からアーモンドに似た臭いを発するので、死因が青酸カリだとすぐに判明してしまう。毒性が強過ぎることとこうした特有の臭いのため死因が特定されやすい。となれば、青酸は、完全犯罪には向いていない毒物といえそうです。といっても無知な殺人者はいるもので、近年、後妻業の女として世間を騒がせた某女性は、遺産を狙って結婚や交際を繰り返し、相手男性を青酸で次々と殺害したとして死刑を宣告されました。その人数は、高齢男性10人以上ともいわれ、奪った遺産は金額にして10億円とか。いやはや!

出典:『眠れなくなるほど面白い 図解プレミアム 化学の話』野村 義宏・澄田 夢久

【書誌情報】
『眠れなくなるほど面白い 図解プレミアム 化学の話』
野村 義宏 監修・著/澄田 夢久 著

宇宙や地球に存在するあらゆる物質について知る学問が「化学」。人はその歴史の始めから、化学と出合うことで多くのことを学び、生活や技術を進歩・進化させてきました。ゆえに、身近な日常生活はもとより最新技術にかかわる不思議なことや疑問はすべて化学で解明できるのです。化学的な発見・発明の歴史から、生活日用品、衣食住、医学の進化までやさしく解明する1冊!

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