いじめによる自殺「こんな数に収まるはずがない」 いじめ防止対策法10年、自殺生徒の父が抱く疑問

テーブルに並べた資料を前に、法改正の議論が進まないことを嘆く父親(14日、大津市内)

 「今生きている子どもたちをいじめから守るため、息子が命がけで作った法律だと思っている。なのに、法律が抑止力になっていない」

 2011年、大津市立中2年の男子生徒=当時(13)=が同級生からのいじめを苦に自殺した事件。再発防止を目指し、第2次安倍内閣は13年に教育再生実行会議を発足させ、「社会総がかりでいじめに対峙(たいじ)していくための法律」として、いじめ防止対策推進法が成立した。

 ただ、学校側の情報開示に強制力がなかったり、いじめの定義に解釈の余地があったりと、実効性が十分でないと指摘されてきた。男子生徒の父親(58)は、全国のいじめ事件の現場を渡り歩き、文部科学相に直談判し、繰り返し同法の改正を訴えてきたが、実現に至らない。いじめを巡るニュースは今もなお後を絶たず、いじめの恐ろしさが教育現場で認識されていないと嘆く。

 取材時に父親が示した資料がある。文科省が都道府県の教育委員会からの報告を取りまとめた「学校における問題行動報告」の年次推移だ。いじめの認知件数は11年には7万231件だったが、21年には61万5351件に増えた。自殺者の数も202人から368人に増えているが、このうちいじめが原因とされた自殺者は1~4%台でほぼ横ばい。一方、原因不明とされたものは10年間で倍増し、50%前後を推移している。

 21年にいじめによる自殺とされたのは、1.6%に当たる6人。父親は、「私が相談を受けているだけでもこんな数に収まるはずがない。どれだけ不明として扱われているのか」と疑義を呈した。不正確な数値がベースになっているために、法改正の議論につながらないと指摘する。

 法改正に近づいたこともあった。18年12月、馳浩元文科相が座長を務めた法改正に向けた勉強会で素案が示された。「次の国会で法案が提出され、実現すると思っていた」。ところが現場が疲弊することを懸念した教育界の反発により、19年4月の座長試案では多くの項目が削除された。全国のいじめ事件被害者遺族らは反対する意見書を出し、馳座長に何度も説明を求めた。その後、議論は棚上げになったままだ。

 父親は、「二十四の瞳」を例に挙げた。「子どもに寄り添うことが教師の一番の仕事だったはず。子どもは国の宝だと思うなら、教師の働き方を変えないといけない。子どもが犠牲になったままだ」。間もなく、愛息が命を絶ってから12年がたつ。

© 株式会社京都新聞社