イチローさんへの思い、小中生らが手紙に 全国4千通超から9人選出 チームの窮状訴える声に即断「行くしかないでしょう!」

試合前に選手を出迎える「スタメンキッズ」で憧れのプロ選手と言葉を交わした内田侑奈さん(左)=ほっともっとフィールド神戸

 米大リーグで数々の記録を樹立したイチローさんが、かつてオリックス・ブルーウェーブ(現バファローズ)時代に活躍した「ほっともっとフィールド神戸」(神戸市須磨区緑台)。同球場でこの夏、その名を冠した「イチロー・ポストデイ」があった。衣料品店ユニクロの主催で、小中学生計20人を招待し、始球式や選手との交流に参加。イチローさんに会えるかも-。胸の高鳴りを抑えきれない元高校球児の記者(27)は、球場へと急いだ。(千葉翔大)

 ユニクロは子どもとアスリートの交流を支援。昨年からはイチローさんと連携し、小中学生が自らの言葉で好きなことや向き合いたいことをつづった手紙を送る「イチローポスト」を実施してきた。イチローさんとの対面も実現している。

 昨年秋から全国のユニクロ店舗にポストを設置。約8カ月で4千通以上が寄せられ、イチローさんや社員が熟読し、代表の9人が選ばれた。

 この日は北海道日本ハムファイターズとの一戦。1-1の同点で迎えた五回裏、約3万4千人の観客が沸いた。バックスクリーンに短髪、白色のTシャツを着た男性が映された。イチローさんだった。

 「受け取った手紙の中から、ますます子どもたちを応援したい気持ちが強くなった。君の思いを手紙にし、僕に届けてください。会いに行きます」

 神戸から世界に羽ばたいたヒーローは約30秒間、語りかけた。子どもたちはきっとその言葉を脳裏に焼き付けただろう。球場が子どもたちとスターをつなぐ架け橋となった一日だった。

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 県内から参加した2人に話を聞いた。 ### ■ヒットたくさん打ちたい 丹波市・春日イーストキッズ 内田侑奈さん(10)

 少年野球チームの女子選手の内田さんは、「一回も行ったことがないので、プロ野球の応援に行きたい」としたためた。兄の影響で約1年前に野球を始めた。

 全国高校女子硬式野球選手権大会が甲子園球場で開かれるなど、女子選手の門戸は開かれつつある。だが内田さんが所属するチームは約20人のうち、女子は4人にとどまっている。「最初はボールが怖かった。でも練習を頑張ってフライを取るのが大好きになった」ともつづった。

 子どもが守備位置につき、オリックスの先発選手を迎えるスタメンキッズで、小田裕也外野手からサインボールを受け取った。「頑張ってください」と声をかけると、小田外野手は「ありがとう」と返した。

 わずかな会話だが、内田さんは日に焼けた顔から白い歯をのぞかせた。「中学や高校でも野球を続け、ヒットをたくさん打てる選手になりたい」。サインボールをぎゅっと握り締めた。

### ■夢与えられるプロ選手に 垂水中軟式野球部2年 阪田琉稀斗さん(13)

 阪田さんは同じくスタメンキッズの捕手として、若月健矢選手を出迎えた。

 父剛嗣さん(39)の勧めで、小学5年で野球を始めた。イチローさんの現役時代はほとんど知らない。目標は投打の二刀流として、こちらも数々の記録を塗り替える米大リーグ、エンゼルスの大谷翔平選手だ。

 ただ、剛嗣さんから現役時代のイチローさんの話は聞いた。「偉大な選手。やっぱり憧れ」と話す。将来の夢はプロ選手。周囲から「無理だ」と言われ、心が折れそうになることもある。支えになったのは、「プロで活躍し、お世話になった人に恩返しがしたい」との思いだ。

 若月選手には、「これからも応援しています」と声をかけた。若月選手は阪田さんの左肩をぽんとたたき、グラウンドへ。「右手のまめがごつごつして、並外れた練習量を物語っているようだった」と話し、こう続けた。「僕も夢を与えられる選手になりたい」

### ■手紙にチームの窮状、イチローさんが訪問指導 養父・広谷オリオンズの石坪君

 「きみの声を届けよう」と呼びかけるイチローポストで、実際に球界のレジェンドと対面を果たした球児が兵庫県内にいる。養父市の少年野球チーム「広谷オリオンズ」の前主将で、小学6年の石坪仁朗君(11)。

 石坪君が引退する前の8月まで、同チームには小学1~6年の計13人が所属していた。石坪君は手紙に、チームが全体的に経験不足なこと、体調不良で選手が休むと試合もできない危機が続いているとつづった。

 イチローさんに「広谷オリオンズがこれからも続いていくため、僕たちの所に来てくれませんか」と訴えた。「行くしかないでしょう!」と即断したイチローさんは5月中旬、同チームの練習拠点である小学校をサプライズ訪問。約2時間にわたり、走塁や打撃技術を伝授した。

 スーパースターと対面した石坪君は「速く走るための腕の振り方などを教えてもらった。将来はイチローさんのような優しい人になりたい」。イチローさんは練習後、「みんなの頑張りに期待しているし、成長を楽しみにしている」とエールを送った。

 イチローさんが指導する様子は、動画投稿サイト「ユーチューブ」のユニクロ公式チャンネルで視聴できる。(千葉翔大)

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