10月1日から「インボイス制度」スタートへ 各所で対応進む

 消費税のインボイス制度が10月1日からスタートします。透明で公正な課税に必要な仕組みと言えますが、小規模事業者や個人事業主などを中心に、経済的負担や事務が増えることへの懸念も根強く「免税事業者」は難しい判断を迫られています。

 インボイスとは消費税が2019年に10%と8%の複数税率となったことに対応するため事業者間の取引で発行される請求書やレシートのことです。

 来月(10月)1日からは、事業者が消費税の控除や還付を受けるためにインボイスの発行を受けることが必要になります。これまで発注元は、毎年の納税で消費税を納める際下請けや商品の仕入れ先に支払った消費税分の金額を差し引いて納税額を計算することができました。これが「仕入れ税額控除」です。
しかし、今後は仕入れ先がインボイスに登録せず「免税事業者」だった場合発注元にインボイスは発行されず控除も受けられないため税負担が増えてしまいます。

 一方、売上高が1千万円以下の小規模事業者や個人事業主など消費税を納めていなかった「免税事業者」が「インボイス発行事業者」として登録し「課税事業者」になるとこれまで免除されていた消費税の負担が生じることになります。小規模事業者などは免税のままでいることも可能です。しかし、納品先である発注元などにインボイスを発行できないだけでなく負担が増えることを嫌う発注元から取引を減らされたり値引きを迫られたり取引の打ち切りなどを求められる恐れがあるということです。

 インボイス制度の適用開始が迫る中、県内で個人タクシーを営む全ての人が加入する栃木県個人タクシー協会では、会員の44人全員がインボイス発行事業者の登録を済ませています。

 制度開始後に仕事でタクシーを使った場合、料金にかかった消費税を仕入れ税額控除の対象とするには、乗客が料金を支払うときに、原則インボイスを受け取る必要があります。年間の売上が1千万円以下の免税事業者であることが多い個人タクシーの運転手は、登録をしないとインボイスを発行できないため、乗客から敬遠される可能性があります。

 新たな納税義務を負うか乗車を敬遠されるかの難しい選択を迫られるなか、協会ではこれまで運転手に向けたインボイス制度の説明会を開いて、税負担についての理解を深め登録を促してきました。また、乗客が車両を見ただけでインボイスが発行できることを分かってもらうために、ステッカーも作りました。

 一方、新たな制度によって思わぬ需要も生まれていました。宇都宮市のハンコ店「鈴印」では、インボイスの発行事業者の登録番号を示したハンコの注文が8月末から急増しています。インボイスに使う領収書や請求書には登録番号を記載する必要があり、登録番号を押すことで、既存のものを使い回すことができます。

 「鈴印」では、9月すでに100件を超える注文があり、「一行タイプ」のハンコだけでみますと1カ月ですでに注文数が例年の1年分に及んでいます。また、登録番号を示すハンコを注文する際に、これまで使っていた既存のハンコを買い替える事業者も多いということです。

 多くの取引企業を抱える栃木銀行では、制度の趣旨や負担軽減措置について理解を促そうと去年(2022年)から広報活動などに取り組んできました。

 また、免税事業者が「インボイス発行事業者」になった場合、税負担や事務負担を軽減するため国は3年間に限り納付する税額が売上税額の2割で済む支援措置を行うとしています。

 栃木銀行では制度が始まる来月(10月)以降もこうした国の負担軽減措置について取引企業に理解を深めてもらい、手続きを支援しながら事例を積み重ね企業の支援につなげたい考えです。

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