チャートでわかる!がんになったらもらえるお金8

(写真:アフロ)

「がん情報サービス」の最新データによると、日本人女性が一生のうちにがんにかかる確率は51.2%。ほぼ2人に1人は罹患することになるが、5年生存率(09年〜11年)は66.9%と、治療成績は向上傾向にある。

それに伴い、治療や経過観察期間も長くなるため、お金の不安は尽きない。同サービスが患者におこなったアンケート調査よると「治療費用の負担が原因で、がんの治療を変更・断念したことがありますか」に、4.9%の患者が「ある」と回答しているのだ。

『がんとお金の本』(Bkc刊)など多数の著書があり、09年の冬、40歳のとき乳がんに罹患した経験を持つ、ファイナンシャルプランナーの黒田尚子さんが語る。

「私の場合、トータルで350万円ほどかかりましたが、その大半が、1年目の出費です。

なかでも大きかったのが、当時は全額自己負担だった乳房再建手術費用の150万円。次に差額ベッド代。1泊3万円ほどの部屋に2週間以上入院したので、50万円ほどかかりました。

しかし、医療費に関しては公的制度を利用したので、実はそれほどかかっていません。健康保険など社会保障制度によって、経済的負担はかなり抑えられるのです」

ところが公的制度は、ただ待っていても受けられない。

「基本的にはセルフサービスなので、自分で申請する必要があります。だからこそ、どのような制度が利用できるのか知っておく必要があるのです」(黒田さん・以下同)

シチュエーションごとに、利用できる公的制度やもらえるお金を解説してもらおう。

【がんになった!】

→公的な支援制度を知りたい

「がん」と診断されたら、まずは公的助成金や支援制度を確認し、お金の不安を軽減させたい。

「がん診療連携拠点病院のがん相談支援センターや、各医療機関の相談窓口などでは、ソーシャルワーカーや看護師が常駐しています。その病院の患者でなくても、利用できたりします」

日本対がん協会の「がん相談ホットライン」でも、お金や仕事、医療者との関わり、気持ちを聞いてくれる。

【お金で困った】

(1)治療費が払えるのか不安だ

がんといえば、入院、手術、抗がん剤や放射線による治療、その後の経過観察……と、立て続けに医療費が降りかかる。

「ぜひ利用したいのは、高額療養費制度。1カ月に病院や薬局で支払った医療費が上限額を超えた場合、超過分が返ってきます」

収入によって『上限額』の計算方法は異なるが、たとえば100万円の医療費がかかった場合、年収が約370万円〜約770万円の世帯では8万7千430円、年収770万円〜約1千160万円の世帯では17万1千820円を超えた医療費が返金される。

「注意点としては3割負担(現役世代の場合)となる医療費が対象で、入院中の病院食や差額ベッド代、自由診療、先進医療などは対象外です。還付されるまで3カ月ほどかかるので、それまでの医療費や生活費を預貯金などで賄う必要があります」

(2)抗がん剤や経過観察などで、治療が長引いてしまっている

治療期間が長くなるケースも多いがん。高額療養費制度を利用できても、複数月、それが重なれば負担も大きい。

「同じ世帯で、1年間で高額療養費制度を3回利用した場合、4回目からは『多数回該当』となり、上限額がさらに低くなります。たとえば年収約370万円〜年収約770万円の世帯では4万4千400円を超えた医療費は返金されます」

(3)会社員だが、さらに優遇される制度があると聞いた

会社員の場合、公的サービスよりもさらに優遇された組合健保などの制度を利用できる場合がある。

「組合健保などの付加給付です。福利厚生が充実した大企業の場合、高額療養費制度の上限額を2万円〜2万5千円に抑えている健保もあります。その場合、高額療養費制度の上限額の差を受け取ることができます」

(4)医療費と交通費で年間10万円もかかってしまう

入院・手術が終わっても、経過観察や抗がん剤治療のために通院が続き、高額療養費制度の対象とならない細かい医療費が、積み重なっていくケースは少なくない。

「実際に支払った医療費や交通費、また、ドラッグストアで購入した胃薬や風邪薬など『生計を一にする』家族の医療費が年間10万円を超えた場合、確定申告することで医療費控除を受けることができます。

たとえば税率10%で25万円の支払いがあった場合、10万円を超えた分(25万円ー10万円)×10%で、1万5千円の還付金を受けられます」

■会社を休まなければならないときは「傷病手当金」を申請しよう

【仕事で困った】

(5)治療のため長い間、会社を休まなければならない

がん情報センターの患者調査によると、就労していた患者のうち、がんで休業・休職した割合は全体の54.2 %にのぼった。

「病気で会社を休んだときに利用したいのは、『傷病手当金』。病気のために仕事を3日連続で休んだ場合、4日目以降には標準報酬日額の3分の2が、トータルで1年6カ月分まで支給される制度。

協会けんぽや組合健保、会社などに申請して、手続きします。ただし、国保に加入する自営業者などは、利用できません」

(6)治療のためやむなく仕事を辞めるはめに

「がん患者の場合、治療後に復職できても、思うような仕事をできず、退職してしまう人もいます」がん情報センター調査でも、がんによって退職・廃業した割合は19.8%。5人に1人が仕事を失ったと回答している。

「仕事を辞めたときにもらえる雇用保険の基本手当の受給はハローワークで申請しますが、退職前の2年間で、12カ月以上の被保険期間が必要です。

たとえば給与月額が30万円で45歳以上60歳未満の場合、基本手当は月額約18万円で、所定日数(90〜360日)受け取れます。

しかし、傷病手当金と同時に受給することはできません。受給期間を4年延長することができるので、延長手続きをしておけば、傷病手当金終了後に受給できます」

ただし「労働の意思および能力があること」が大前提で、がんの治療中で働けない人は対象外だ。

■自治体での検査でがんを早期に発見することが、いちばんお金がかからないこと

【日常生活で困った】

(7)抗がん剤で頭髪が抜けてしまいウイッグが必要に

乳房切除や、抗がん剤治療による脱毛など、女性にとっては精神的負担が大きい。

「脱毛を経験する人は全体の約20%。ウイッグの使用期間は数カ月〜2年で、購入金額の中央値は3万8千円という調査があります」

“医療用ウイッグ”であっても、保険対象外であるため全額自己負担となる。

「しかし、ウイッグや、胸部補正具などに、1万〜3万円の自治体の助成が出るところが、22年4月末時点で307カ所(17.9%)あり、増加傾向にあります。自治体窓口等で相談してみましょう」

(8)サプリなど医療費以外にもお金がかかってしまう

ニッセンライフとNPO法人がん患者団体支援機構のアンケート調査によると、「がん治療費以外の年間費用」で、全体の24%を占め、もっとも多かった回答が「20万円以上から50万円未満」だった。

「差額ベッド代(個室利用で平均で8千300円ほど)や病院食、サプリやがん関連書籍など、治療費以外の出費も多い。

抗がん剤治療の帰りにはタクシーに乗ったり、食事の用意ができず総菜を買うこともあるでしょう。

がんの1年目は、50万〜100万円ほど、自由に使える貯蓄があれば安心ですが、余裕がなければ、がんと診断されると100万円など、一時金が支給される民間のがん保険なども、考慮することも重要です」

【がんになる前にがんを早期に発見したいがどうすればいいか】

→何より大事なのは、がんを早期に発見すること。

「自治体のがん検診は安価なので、ぜひ、利用したいです」

たしかに、乳がん検診のためのマンモグラフィーは、自費では5千円〜1万円ほどだが、自治体のがん検診を利用すれば、500円〜1千円で受けられる。いざというときに治療に専念できるよう、お金の不安を軽くしておこう。

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