水道整備されず住民自ら山の水をろ過して飲み水を確保… そこに導入された水の“自給自足”システムって!?

水道の概念を覆す「水の自給自足システム」の“国内初”の実証事業が、愛媛の山間で行われています。なぜ、こうした実験が進められているのか?そこには深刻な課題がありました。

使った水が再びキレイに!?水の再生循環装置

愛媛県西予市内にある山本英明さんの住宅。その車庫に、4つの黒くて大きな箱が鎮座していました。水の再生循環装置です。黒い箱には、水をためるタンクと処理装置が入っています。家庭で使われた排水が流れてきて、生物処理を行った後、膜処理をして、安全性を担保して再び使える水として戻すというものです。

洗濯や風呂、手洗いなど生活用水とトイレ用の水は別系統となっていて、それぞれの排水と雨水を処理しながら循環利用します。生活用水、トイレ用いずれの水質も国の基準をクリアしているといいます。

蛇口を開ければ、普通の水道と変わらない水が出てきます。

水の状況は、あと何回洗濯ができるのか、トイレを流せるか、どれくらいで再びタンクが満タンになるかなど、モニターでチェックすることができます。

全国初 一般家庭での実証事業

このシステムは今年度、愛媛県が約6700万円を計上し、全国で初めて一般住宅で進めている実証事業です。

住民の山本英明さん 「1回使った水を循環させて使うという、今までにない水に対する考え方に慣れようとしているところ。そういうことでも生活できるんだな、と。違和感なく使えています」

山本さんは、8月下旬から利用してきました。その一方で…

山本英明さん 「200リットルで風呂を自動設定していたが、全部使い切ってしまうとタンクの容量が残り少なくなる」

お風呂好きの山本さんですが、現在は浴槽にためる湯量を160リットルに設定して、タンクが空にならないよう調整しているそうです。そうした日々の“思い”や“気づき”がシステムに反映されれば、生活者に寄り添ったものに近づきそうです。

ところで、愛媛県はなぜこうした実証事業に取り組むのか?背景には、過疎地の“水道設備”が抱える課題がありました。

水道の整備されず… 住民自ら山の水をろ過して飲み水に

山本さんの住む集落は、西予市の管理する水道が整備されていないため、5世帯が共同で山の水をろ過して飲み水にしています。その確保には、水槽を掃除したりろ過するための砂を交換したりと、日々のメンテナンスが欠かせません。

山本英明さん 「上から枝や葉が落ちるので枝葉の掃除、台風の後、大雨の後と、メンテナンスは随時しています」

メンテナンスは、集落一番の若手で現在68歳の山本さんがほぼ担っているといいます。

山本英明さん 「全部、水を抜いてきれいに掃除するので、1人でやると半日。年齢を重ねると、この重労働が肉体的にも精神的にも苦痛になる」

システムの有効性を検証

住民自らで飲み水を確保しているこちらのような地域は愛媛県内にも点在し、どこも同じような悩みを抱えています。そこで愛媛県は、その解決策の1つとして、システムの有効性を検証しているのです。

愛媛県デジタル変革担当部長 山名富士さん 「実際に動いているものを目にすると期待を持つと思うし、そこから循環型のシステムを『選択肢の1つとして、これから考えられるんだ』という思いになっていけば、県事業としてやった意義がある」

さらに、人口減少で今のような大規模な水道施設が、将来、維持困難になったり、災害に伴う仮設住宅や水道が整備されていない地域のリゾート開発などで生活用水の確保が必要になったりするなどした場合、それらの選択肢として活用できないかも検討しています。

そのため、愛媛県は今後、西予市のほか今治市や伊予市でも同様の取り組みを行い、有効性やコストなどを検証することにしています。

愛媛県デジタル変革担当部長 山名富士さん 「水道に代わる選択肢を提供する企業があって、そういう装置ができつつあることを知っていただく。それが“愛媛モデル”という形で全国に広がっていけば」

世界で最も安全な水を供給してきた、日本の水道の概念を覆す未来の自給自足システムが、ここ愛媛で構築されようとしています。

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