観光業だけない“裏方”求人の同時増加から考えるインバウンド対応

当社はその時の状況に合わせて、数年おきにオフィス移転をしているが、直近は東京・新大久保周辺のみで移転している。

新大久保は言わずとしれたコリアンタウンであり、それ以外にも「リトル・カトマンズ」とも呼ばれるネパールの店舗群、「イスラム横丁」に代表されるイスラム・中東系のハラルフードの店舗、さらに中国、台湾、タイなどの店舗がひしめく、国際色豊かな街だ。

そんな新大久保は、店舗だけでなく、訪日観光客も多い。日本と海外が融合した街並みだけでなく、格安の宿泊施設があり、新宿・歌舞伎町に隣接していることもあるだろう。

訪日観光客の行き先は、何も韓国料理店や韓流グッズ店に限らない。牛丼チェーンやファミレスなど日本人の会社員が利用するような飲食店からコンビニまで、至るところで姿を見る。私自身は朝・昼は食事を摂らないが、外から眺める朝の牛丼店から夜の居酒屋まで、曜日にもよるが訪日観光客のほうが多い時すらある。

シニアの就業支援を提供する私たちの会社では、インバウンド需要の中で観光地のホテル・旅館などに向けてシニア料理人を多数、紹介しているが、こうした訪日観光客が巷にあふれる光景を見ると、一番強化すべきリソースはどこなのだろうか、と考えてしまう。

■訪日観光客が目指す場所はもはや限定できない

実際、訪日観光客が目指す場所は、リゾート地や一般的に想定される観光地のみにとどまらず、その周辺や、それ以外の都市部、繁華街など日本の多くのエリアにおよび、日本人の日常生活が圧迫されることでオーバーツーリズムとして捉えられるのだと思う。

都内でも、かつて爆買いの中心地となった秋葉原だけでなく、主要ターミナル駅やその周辺の繁華街、主要な路線などでは、日常的に大きなスーツケースを持った訪日観光客の姿がある。利用店舗も訪日観光客を意識した店舗だけに限らないのは前述のとおりだ。

こうした現状を踏まえると、もはや訪日観光客によるニーズや消費は、「特別なもの」ではなく「当たり前に起こり得るもの」として、日本のサービス提供者考える必要があると感じる。

マーケティングなどではよく、住宅街の人口やその年齢構成、競合サービスの件数や位置などから利用者数を想定して立地を検討するといったことが行われるが、訪日観光客もそうした計算に入れるべきだろうと感じる。もしかすると、私たちのサービスがBtoBで縁遠いだけで、都市部のマーケティングでは既に計算に入れているのかもしれない。

■観光業以外の裏方人材も含めた人員体制の強化を

実は、私たちのシニア向け就業支援でも、「インバウンド需要を直接的な産業ではなく、間接的に下支えしているのでは?」と感じる求人増加がある。先ほど、ホテル・旅館でのシニア料理人ニーズに触れたが、それを追いかけるように求人が増えている、セントラルキッチン、言い方を変えると他のケースも含んでしまうが、食品加工工場でのニーズだ。

具体的な会社名やブランド名を出す訳にはいかないが、飲食店のセントラルキッチンを含めた食品加工工場でのシニア向け求人は、コロナ禍以降、増加を続けている。もちろん、訪日観光客による消費割合その一部でしかないが、ホテル・旅館へとシニア料理人を紹介している一方で、セントラルキッチンの求人にもシニアがマッチングしている状況は印象的だ。

調理の求人だけでなく、他の職種の求人にもやはり、インバウンド需要に対応して求人が増えているケースがあるようだ。清掃、施設警備、施設管理、ドライバー、フロントエンドエンジニアなどの求人の中にも、雇用企業のサービスのエンドユーザーが訪日観光客であるケースが増えてきているようだ。

いずれにしても、今後の日本で訪日観光客を“おもてなし”するのは、これまでの観光業、旅行業、ホテル・旅館業、旅客運送業などの枠組みに限ったものではなくなるだろう。すべての職種が外国人に接したり、関係するサービスを担ったりする可能性が高くなる。

直接的に関わるサービスの強化ももちろん大切だが、飲食チェーンのセントラルキッチンのような裏方も含めた街全体の機能を下支えするリソースの強化がなければ、日本人向けのサービスも弱体化し、オーバーツーリズムの解決も遠のいてしまうだろう。

寄稿者 中島康恵(なかじま・やすよし)㈱シニアジョブ代表取締役

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