大和高田の大衆演劇場「弁天座」9月29日閉館 常連客からは惜しむ声も

「毎日通ってくれたお客さんも多い」と感謝する宮崎昌明さん(左)と妻美幸さん=28日、大和高田市北本町の弁天座

 奈良県大和高田市北本町の大衆演劇場「弁天座」が、きょう29日の公演を最後に閉館する。新型コロナウイルス禍で客層の大半を占めていた高齢者の客が減り、経営に響いたことが原因。劇場経営者の宮崎昌明さん(76)は、閉館後も建物や道具類は保管し、「大衆演劇を引き継いでくれる運営者がいたら貸し出したい」と考えている。

 同劇場は、宮崎さんの祖父が建てた映画館「高田キネマ」が前身。2006年に大衆演劇場として再生した。椅子120席は映画館当時のままで、新たに造った花道横の桟敷席16席からは、間近で役者の立ち回りを観覧できる。20年以降、新型コロナウイルスが流行し、客足が遠のいて経営が悪化。コロナ禍が収束しても客足は回復せず、蓄えを切り崩して家族経営を続けてきたが、借金をする前に閉館を決断したという。

 28日の昼公演には、50余人の女性客が来場。ポップスや演歌など曲調に合わせて舞う役者に、客は名を呼んだり、曲に合わせて合いの手や手拍子を送ったほか、舞台上の役者に「お花」の紙幣を渡すファンも。舞踏ショーや芝居をたっぷり3時間楽しみ、夢の世界に浸った。

 オープン以来、毎日この劇場の最前列を指定し、自転車で片道20分かけて通い続けているという堀川正江さん(82)=大和高田市=は、「雨の日は車で家まで送ってくれて、お客さんを大事にしてくれる劇場。役者さんも私のことを覚えてくれて、劇場で交友関係も広がった」と閉館を惜しむ。 

 最後を締めくくる劇団十六夜(いざよい)は、劇場オープン3年目から度々この劇場で公演。「ここは裏方を担ってくれるので演技に集中しやすかった。なくなるのは寂しいけれど、楽しい思い出になるよう和気あいあいと終われたら」と市川叶太郎座長(50)。

 映画館も経営していた宮崎さんは、「毎日通ってくれたお客さんも多い」と長年の愛顧に感謝。「生で喜怒哀楽の芝居を見られるのが大衆演劇の魅力。劇場はこのまま置いておくので、運営してくれる会社などに大衆演劇の灯を引き継いでほしい」と話している。

 最終日の公演は正午開演。入場料2000円。問い合わせは同館、電話0745(22)5689。

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