政府助成金でパートも厚生年金の加入の好機!「月給11万円で5年加入で生涯の年金は85万円増える」

「年収の壁」を超えて働くチャンス(写真:kouta/PIXTA)

「今回、政府が始める新たな助成金制度は、老後に備えた保障を厚くできる厚生年金に加入するきっかけとなるかもしれません。とくに、これまで“働きたいけど社会保険料(厚生年金保険料、健康保険料)がかかるから労働時間を抑えてきた”という人にとっては、働く時間や収入を増やして、将来の年金受給額も増やせるチャンスだといえるでしょう」

このように語るのは、年金制度に詳しい「よこはまライフプランニング」代表で、特定社会保険労務士の井内義典さんだ。

9月27日、政府は「年収の壁・支援強化パッケージ」を発表した。一定の条件で、一定の年収をこえると、社会保険料などの負担が発生し、手取り額が減ってしまういわゆる「年収の壁」の問題。労働者不足が進むなか、年収の壁を理由に就業調整している人がいる現状を解消しようと、政府が対応策を講じたのだ。

それでは今回、政府が対応に乗り出した「106万円の壁」と「130万円の壁」のふたつの壁がどういうものか、そして政府の対応策をみていこう。

■「年収106万円の壁」を超えると助成金

まず、「年収106万円」の壁だが、下記の要件を満たしている人は、社会保険に加入しなくてはならない。

(1)従業員101人以上(2024年10月からは51人以上)の企業
(2)賃金月額8万8千円(年収約106万円)以上
(3)週の所定労働時間が20時間以上
(4)雇用期間の見込みが2カ月超
(5)学生ではない

年収106万円を超えて社会保険に加入すると、保険料が発生するために手取り額が減少し、およそ年収125万円を超えるまでは、手取り額は回復しない。これが“働き控え”の原因のひとつと考えられている。

そこで政府は、労働者の収入を増額させることにより、新たに社会保険に加入しても、それまでと手取り額が減らないような対策を講じた事業者に対して、労働者1人あたり最長3年間、最大50万円の助成金を支給することにした。

単純に時給を上げたり、「社会保険適用促進手当」を出したり、週の所定労働時間を増やしたり、それらを組み合わせたり、収入の増額のさせ方は複数の選択肢が提示されている。

一方、年収が130万円以上の場合、社会保険の扶養から外れ、一定の勤務時間等により、自分で社会保険に加入しなければならない(130万円の壁)。

こちらは、一時的な増収であれば、連続2年までは扶養に留まれるという措置で対応するという。ただし、事業主が一時的な増収と証明し、扶養している配偶者が加入している健康保険組合などが認める必要がある。

■改めて老後の生き方を検討するチャンス

壁を超えると、どのようなメリットがあるのだろうか。厚生年金に加入した場合、将来、基礎年金に加え、加入した期間(働いていた期間)や当時の報酬額で決まる「報酬比例部分」を受給することができるという大きなメリットがある。

収入と加入期間によって、どれだけ年金受給額が増えるかを、井内さんの協力のもと、本誌が試算した。

たとえば、パート収入が月に11万円の人が厚生年金に5年加入した場合、65歳から受け取る年金額は、基礎年金(国民年金)だけの人と比べると、月に2828円、年間で3万3936円も増額される。仮に90歳まで生きた場合には、84万8400円も差が出る計算だ。

助成金がある間は、手取り額が減少することなく、厚生年金に加入することができるが、心配なのは3年程度とみられている時限措置が終了した後だ。

「助成金制度が終わったら、再び社会保険の扶養に入れる年収まで戻す人が出るのではないかという懸念があります。政府は早急に、社会保険加入を継続させるための新制度を考える必要もあります」

厚生年金は会社が保険料の半分を負担するので、年収220万円くらいまでは、国民年金の保険料(1万6520円、2023年度)よりも自己負担額は少なくなることを念頭に置き、自分にとって最適な働き方を考えてみよう。

「10月から始まる助成金制度の導入を機に、将来の年金額がどれぐらい違ってくるのか。自分にとってのメリット、デメリットを考えるきっかけにしてほしいですね」

【表解説について】

金額は2023年度時点の概算。小数点以下は四捨五入。税・社会保険料については、健康保険は「協会けんぽ東京支部」の被保険者負担分の保険料率(5.0%)、雇用保険は令和5 年4 月~令和6 年3 月までの保険料率(0.6%)で計算。介護保険料は0.91%、厚生年金保険料は9.15%の保険料で計算。税については社会保険料の控除も行われている。住民税の均等割額、復興特別所得税などは省略。

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