宝塚宙組公演「パガド」が開幕 ダークヒーローを魅力的に トップコンビの本拠地お披露目公演

大劇場でトップスターの象徴である大羽根を背負う芹香斗亜=宝塚大劇場(撮影・中西幸大)

 宝塚歌劇宙組公演「PAGAD(パガド)~世紀の奇術師カリオストロ~」が29日、宝塚大劇場(宝塚市栄町1)で始まった。トップ芹香斗亜(せりか・とあ)=神戸市出身=と相手娘役春乃さくらの本拠地お披露目公演。芹香は入団から17年かけて培った実力を惜しみなく発揮。従来の宝塚の主人公像とは違う、クセのある「ダークヒーロー」を、確かな表現力で作り上げた。

 脚本・演出は田渕大輔。アレクサンドル・デュマ・ペール作のピカレスク(悪漢)小説を基にした映画「BLACK MAGIC」を原作に舞台化した。

 18世紀ヨーロッパで、ロマの青年ジョゼフ(芹香)は母を魔女として処刑した子爵への復しゅうに燃える。母譲りの不思議な力で催眠術を操り、カリオストロ伯爵としてのし上がっていく。

 いかさまで民衆をだまし、恋人のいるロレンツァ(春乃さくら)に催眠術をかけて強引に妻にするなど、ジョゼフの悪行は枚挙にいとまが無い。宝塚らしからぬとんでもない悪役。だが芹香が演じるとなんと魅力的に映ることか。

 復しゅう心をたたえた瞳は力強く、観客を圧倒。憎悪やロレンツァへの愛情を巧みに織り込んだ豊かな歌声が、彼の孤独を一層際立たせた。伯爵としての風格と存在感は、芹香が歩んできた道のりと積み重ねてきた時間の重みと重なる。魅力的な「悪」の表現は誰にでもできるものではない。

 同時にトップ娘役に就任した春乃さくらは、ロレンツァとマリー・アントワネットの一人二役を奮闘。ロレンツァを演じる時は催眠術をかけられている状態が多く、まどろんだような表情だったが、最後に自身の意志を見せる場面でのき然とした姿が印象的だった。

 役の設定だけを見れば、桜木みなと演じる近衛隊長ジルベールの方がよほど正統派ヒーローの風情。恋人のロレンツァを取り戻そうと、カリオストロ伯爵に果敢に挑む。りりしく、筋の通ったジルベールは桜木の誠実なキャラクターにぴったりだ。彼の「正義」が、対極にいるカリオストロ伯爵の存在を際立たせていた。

 伯爵の敵役、モンターニュ子爵を演じた瑠風輝(るかぜ・ひかる)の成長ぶりもまぶしかった。権力志向で利己的な憎まれ役に威厳を持たせ、物語をぐっと引き締めた。

 「結末はどうなるの」とゾクゾクした高揚感と緊張感が終始途切れることなく、最後まで見る者を引っ張る、スリリングな舞台だった。

 ショー「Sky Fantasy!」は重厚なミュージカルから一転、宙組全員のすがすがしい笑顔にあふれ、新トップコンビの祝福ムード漂う爽快な作品に仕上がった。

 プロローグからいきなりトップギアを入れ、疾走感あふれる展開。序盤に芹香と春乃が身を寄せて歌う姿には新コンビが放つ輝きがあり、きらきらとまぶしい。

 群舞や総踊りがふんだんに盛り込まれ、何度もヤマ場が訪れるような豪華なステージが続く。爽やかな晴れ空を思わせる青や太陽のオレンジ、雨のモノクロ、宙組カラーの紫など、色彩を効果的に使い分け、場面ごとの印象をクリアに際立たせた。

 「飛翔 希望の空へ」の場面では、真っ白な衣装に身を包んだ芹香が「はじまりの歌」を熱唱。歌詞に自身の思いを重ね、温かみのある優しい歌声を届けた。

 宙組の現代的でスタイリッシュなダンスが堪能でき、充足感で満たされる舞台だった。

 11月5日まで。11月25日~12月24日、東京宝塚劇場で。(小尾絵生)

© 株式会社神戸新聞社