ベルギー1部シント=トロイデン(STVV)は今季からJ1ヴィッセル神戸を率いたドイツ人指揮官トルステン・フィンク監督を招へいした。
Jリーグクラブを率いたフィンク監督は日本人選手の特徴を理解しており、欧州でも実績がある指導者のためクラブのコンセプトとも合致している。
今年5月にSTVV立石敬之CEOを取材した際に「日本のサッカーを知っていて、タイトルも取っています。日本人選手の特徴がよく分かっている。(クラブとの)親和性も含めて候補者としては1番良かったと思います」とフィンク監督に太鼓判を押していた。
Qolyはフィンク監督に単独インタビューを実施。名将が思い描く今季の青写真や古巣神戸への愛、日本人選手の評価などを聞いた。
(2023年9月6日取材)
新天地をSTVVに決めた理由
――今季STVVの監督を引き受けた経緯を教えてください。
立石CEO、アンドレ・ピント強化部長と話をして、クラブのプロジェクトをすごく気に入りました。私はヴィッセル神戸で監督をしていたので、日本の文化を分かっているところが良かったです。
日本人選手と働くのもすごくいいことです。過去にDMM傘下になってから6シーズンで解雇した監督は一人しかいません。その継続性の部分をクラブがシリアスに考えているところも、このクラブを選んだポイントの一つになります。
他の理由としては、私は若手選手と一緒に仕事をすることが好きです。日本人選手だけではなく、地元の若いベルギー人選手もいるので、そこもポイントの一つです。
リーグレベルも昨季のUEFA(リーグ)ランキングでいうと、(ベルギーリーグは)トップ5に入っています。ベルギーリーグのレベルがすごく高いというところも選んだ理由の一つです。
今季見据える目標とビジョン
――今季設定している目標に向かうためのビジョンを教えてください。
チームマネジメントはすごく重要です。いろんな国籍の選手がいる中で、彼らをどう一緒にプレーさせるか、共存させるかというところが大事になります。いまのチームは、チームの平均年齢が(リーグで)1番若く、先発メンバーの平均年齢が若いチームになっています。
チームマネジメントをするうえで、規律がすごく大事です。私の中では3つのポイントが目的を達成するために必要だと思っています。今シーズンのビジョンは、ゴール、パッション、チームの一体感を大事にしています。
ゴールは、まずファン・サポーターが、自分たちが披露するサッカーを好むこと。攻撃的なサッカーをしているので、(ファンに)好んでもらえればと思います。現実的な順位の目標はプレーオフ2(圏内の)7位~12位の間を目指していきたいです。
――STVVの監督として日本人選手にどのようなビジョンで指導していきたいですか。
成長してもらいたいので、試合でプレーすることが一番大事だと思います。中盤の選手に限っていえば、彼らが共存できる形を見つける必要があると思います。
いま中盤に3人の日本人選手がいますが、フォーメーションは3-4-3のため、中盤のセントラルハーフのポジションは二つしかありません。一人はベルギー人の若い素晴らしいタレント(ベルギー人MFマティアス・デロージ)がいるので、いまは共存が少しできてないところがあります。
長期的に見たら各選手がプレーすると思います。鈴木彩艶選手、小川諒也選手は少し時間が必要だと思います。
いきなり(欧州のチームに)来てすぐにプレーできるようなチームではないです。彼らもポジション争いに勝っていかないといけない。山本理仁選手については、アンダー(代表)のキャプテンも務めていて、すごくサッカーIQも高くて知性もあります。すごく良い選手ですが、藤田譲瑠チマ選手と山本選手は伊藤涼太郎選手と比較すると、少し年齢が若いところもあるので、アダプテーション(順応)するのに少し時間がかかるんじゃないかと思います。
フィンク監督から見たSTVVの日本人選手たち
2017年11月から日本の大手ECサイトを運営するDMMグループが同クラブ経営権を取得してから多くの日本人選手を獲得しており、DF冨安健洋(イングランド1部アーセナル)、MF鎌田大地(イタリア1部ラツィオ)、MF遠藤航(イングランド1部リヴァプール)とビッグクラブでプレーする日本人選手を輩出してきた。
今夏はDF小川諒也、MF山本理仁、MF伊藤涼太郎、MF藤田譲瑠チマ、GK鈴木彩艶を新たに加えて8人の日本人選手がSTVVに所属している。
――現在所属している日本人選手についての評価を教えてください。
基本的に新しく加入した選手は、ヨーロッパのプレースタイルに慣れるには時間がかかると思っています。
まず中盤の3選手、伊藤選手、藤田選手、山本選手は全員すごくいい選手です。伊藤選手と藤田選手は、合流してから2、3週間ですぐにスタメンでデビューすることになりました。
伊藤選手はチームのプレーメイカー・10番として、最終的なラストパスも出せて、ゴールも取れる選手です。
藤田選手はボールを奪うことができる選手で運動量が豊富。
山本選手はボックス・トゥ・ボックスの選手で、すごくプロフェッショナル。いままで全ての試合で途中交代していますが、1度も悪いプレーはなかったです(今月6日取材時点)。
この3選手は冬明けぐらいから、さらに成長した姿を見せてくれるんじゃないかと思います。ただ、少しアダプテーション(順応、適応)に時間が必要じゃないかというのが(私の)意見です。
岡崎慎司選手は新しい日本人選手たちが環境に慣れる、プレースタイルに慣れるというところでも手助けをしてくれています。
鈴木選手については、彼が加入してくれたことがすごくうれしい。いままで見てきたGKの中でもすごくいいタレントで、日本だけじゃなくアジアを超えて世界的に見てもトップクラスの若いタレントじゃないかと思っています。最初はもちろんミスがあるかもしれませんが、(出場した)2試合はとても良かったです。
シュミット・ダニエル選手もすごくいいGKです。橋岡大樹選手が残留してくれてすごく嬉しいです。冬に(移籍市場で)出るかもしれませんが、素晴らしい選手です。
小川選手はまだ少し試合に出られていないですが、彼は昨シーズンプレーしていなかったことを考慮すると、もう少し時間が必要じゃないかと考えています。いいクロスを持っているので、環境に慣れたタイミングでチームを助けることはできるんじゃないかと思っています。
2019年6月にヴィッセル神戸監督に就任したフィンク監督は、元スペイン代表MFアンドレス・イニエスタ(現UAE1部エミレーツ・クラブ)、元ドイツ代表FWルーカス・ポドルスキ(現ポーランド1部グールニク・ザブジェ)、元スペイン代表FWダビド・ビジャさん、日本代表FW古橋亨梧(スコットランド1部セルティック)らを率いて、チーム初のタイトルとなる天皇杯優勝、翌年はFUJI XEROX SUPER CUP制覇に導いた。
現在も神戸の動向を追っており、古巣への愛は計り知れないほど深い。
――フィンク監督は現在もJリーグをチェックされていますか。
ヴィッセル神戸の試合を見ることが多いです。今シーズンはとても調子がいいです。天皇杯は敗退しましたけど、それでもリーグ戦でいい順位にいます(今月6日時点でJ1首位)。
神戸はすごく好きなクラブ。ファンも好きだし、日本人の文化や人々も好きですし、神戸をすごく応援しています。(ベルギーの)テレビでは放送していないので、『Wyscout』というスカウティングツールで見ながら応援しています。
神戸と(横浜F・)マリノスが首位争いをしていることは知っています。得失点差で神戸のほうが上ですが、名古屋も追いかけてきていることも知っています。Jリーグは結構追いかけいて、マリノスがいま2連敗しているというところまで把握しています。(今月6日取材時点)
――Jリーグを見ていて目に付いた選手はいますか。
名前は分からないですが、たくさん若くていい選手がいます。
――いまもフィンク監督のことを応援しているヴィッセル神戸サポーターが多くいます。
すごくいい関係を築けたと思っています。
――神戸のファンにメッセージいただくことはできますか。
(チームには)頑張ってほしい。天皇杯とスーパーカップは私が監督だったときに優勝しました。リーグタイトルを取ることは、クラブにとって新しい次のステップになると思いますので、ぜひ優勝してください。
ファンのみなさんもヨーロッパのフーリガンみたいな人はいませんし、すごくリスペクトしてくれました。すごく恋しいですね。またお会いしたいです。ガンバッテクダサイ(日本語)。
欧州ではスイス1部バーゼルで国内2冠、日本では天皇杯優勝に導くなど多くの国で成功を収めてきた名将のSTVV監督就任は、多くの現地ファンが歓喜したという。そして、ドイツ人指揮官は日本人が多く在籍するSTVVでも優れた辣腕でチームをまとめ上げ、16チーム中8位と好位置につけている(今月29日時点)。
日本、欧州をよく知るドイツ人指揮官はチームにどのような魔法をかけるのか。今季のSTVVが見せる戦いから目が離せない。
【関連記事】「日本を過小評価すべきでない」ドイツ人指揮官フィンク監督独占インタビュー
フィンク監督はドイツ戦前に日本代表、ドイツ代表への評価をQolyの独占インタビュー内で熱く語っている。(上記リンク先)