連載コラム【MLBマニアへの道】第3回:9年ぶり地区優勝のオリオールズ ラッチマン昇格が黄金時代の始まりか

写真:オリオールズはラッチマン昇格以降勝率が大きく向上

9月28日(日本時間29日)、オリオールズがレッドソックスを下し、2014年以来9年ぶりの地区優勝を決めた。同時に43年ぶりのシーズン100勝も達成している。

近年MLBを観始めたばかりのファンにとっては、オリオールズに強い印象はないだろう。現在のカムデン・ヤーズを本拠地とした1992年以降、オリオールズが地区優勝したのは1997年と2014年の2度だけ。ポストシーズン進出も5度しかなかった。

最後に「強い」オリオールズだったのは、バック・ショーウォルター監督(現メッツ監督)が指揮を執っていた頃。2012年からの5シーズンで地区優勝に加え3度のポストシーズン進出を果たした。しかし、2017年シーズン終盤に失速すると、そこからまた長い低迷期が始まったのだ。

2017年から2022年までの6シーズンで、オリオールズは4位を2度、5位を4度経験している。これだけならMLBでは珍しくない絵に描いたような再建期だが、2021年に110敗したチームがその2年後に100勝するというのは通常は考えられないステップアップだ。MLB公式のサラ・ラングス記者によれば、3シーズンの間に110敗から100勝へ躍進したのはオリオールズが史上初だという。

しかし、オリオールズは今季突如強豪チームへと変貌したわけではない。実は明らかな変革は2022年にあったのだ。若手有望株だったアドリー・ラッチマンの昇格である。

今やオリオールズの顔として知られる25歳の捕手ラッチマンは、2019年ドラフト全体1位指名でプロ入り。捕手が全体1位指名を受けるのは2001年のジョー・マウアー以来18年ぶりの出来事だった。マイナーで順調に階段を上り、2022年にはMLBの開幕ロースター入りも期待されたが故障のため出遅れた。復帰したラッチマンがメジャーデビューを果たしたのは、シーズン40試合を消化した5月21日のことだった。

ラッチマンがデビューする前、昨年のオリオールズは16勝24敗、勝率.400という例年通りの戦績だった。しかし、5月21日のデビュー以降は67勝55敗、勝率.549と大きく勝ち越すようになった。シーズン通しての勝率は.512と、前年110敗したチームが1年で勝ち越しチームに変貌したのだ。

もう一つ、この時期にチームが変わったことを示す記録がある。オリオールズは昨年の5月13日からの3連戦でスイープ(シリーズ全敗)を喫して以来、ここまで91シリーズ連続でスイープされていない。これは史上3番目の記録だ。この記録はまだ継続中であり、つまりオリオールズはラッチマンがデビューして以降一度もスイープされていないことになる。

これがラッチマン効果だと言い張るのは馬鹿げたことかもしれない。野球はたった一人のスター選手でチームの強さがガラッと変わるほど単純なスポーツではない。一方で、カージナルスのヤディアー・モリーナやジャイアンツのバスター・ポージーなど、チームの屋台骨となる捕手がいるチームがワールドシリーズを何度も制覇してきた歴史もある。

このオリオールズの地区優勝は、間違いなく組織の力でもたらしたものだ。低迷期を経て30球団最高のファームシステムを作り上げ、その有望株たちが次々とメジャーデビューし、チームの勝利に貢献している。マイナーにはMLB最高の有望株と言われるジャクソン・ホリデイもおり、来季もスター候補がデビューしてくるだろう。

ラッチマン昇格後にチームが劇的に強くなったのはたまたまなのか?それは今後のオリオールズを追いかければわかるだろう。まずは今季のポストシーズン、そして来季以降どんなチームになっていくのか。数年後には、「あのラッチマン昇格こそがオリオールズ黄金時代の始まりだった」と言われるようになっているかもしれない。

文=Felix

© 株式会社SPOTV JAPAN