電力不足解消より、料金徴収の強化にばかり熱心な北朝鮮

かつて、北朝鮮の電気料金はいくら使っても値段が変わらない固定制だった。それも、極めて安価な料金が設定されていて、事実上タダ同然だった。当局は2017年、それを従量制に変えて、電気を使った分だけ払うシステムに変更しようとした。

しかし、うまくいかなかったようだ。原因は、高額の電気メーターを消費者に無理やり買わせようとしたからだ。結局、所有している家電の数に応じて料金を払う方式で落ち着いたようだが、今度は別の方法で料金を徴収し始めたと、デイリーNK内部情報筋が伝えている。

首都・平壌をはじめとした北朝鮮の大都市のマンションでは、基本使用量を超過した分だけを人民班長(町内会長)を通じて納付する方式が取られている。おそらく、何らかの形でメーターを何戸かまとめて設置する方式が取られたようだ。支払いは現金のみで、大都市で普及が進むQRコード決済、モバイル決済などには対応していない。

内閣の電力工業省電力情報研究所が開発し、昨年導入を発表した「住民世帯電力契約体系」は、QRコード決済などで電気料金の納付ができるものだ。送配電所に出向かずとも、モバイルとイントラネットで都合の良い時間に料金を支払えるというものだが、実際は全く普及してないようだ。情報筋も「住民世帯電力契約体系というのは聞いたことがなく、周りにも聞いたという人はいない」と伝えている。

一方、一戸建ての多い農村では、従来どおり所有する家電の数に応じて料金を徴する方式が続けられている。個別にメーターを設置するのが困難だからだろう。

当局は、確実に儲かる電気料金の徴収システムの開発、普及には熱心だが、電力供給の改善にはさほど関心がないようだ。各種の会議では重要課題として取り上げられているが、燃料が不足していて、解決のしようがないというのが現状だ。

近年、送配電システムが立ち遅れている開発途上国を中心に、ソーラーパネルを自宅や村単位で設置して、電力を自力生産する事例が増えている。従来の技術が取り入れられる前に、それを飛び越して新しい技術を導入するリープフロッグ現象と呼ぶが、北朝鮮も同じような状況にある。

あまりにも停電が頻繁に起こり、何日、何週間も電気が全く供給されない状況が続くため、もはや国からの電力供給に見切りをつけ、自宅のベランダや屋根にソーラーパネルを設置して照明やテレビなどに利用する光景は、もはや珍しくない。

ただ、この方式では消費電力の多いエアコン、冷蔵庫、電子レンジなどは使えない。特権階級は、送配電所の担当者にワイロを掴ませ、工場向けの電気を横流ししてもらうという形で、電気を使っている。

その影響もあってか、最も優先されるべき工場ですら、電力が一部にしか供給されず、フル稼働ができないところが多いという。燃料不足、施設の老朽化で出力が落ちている火力発電所、元々降水量の少ない気候でさほど役に立たない水力発電所から、自然再生エネルギーへの積極的な転換を図らなければ、暗黒に閉ざされた状況から抜け出すのは難しいだろう。

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