【台風13号】大雨で茨城・日立のものづくり打撃 中小企業、再開遠く

水没した製造機器の修理や交換作業が続く工場=日立市内

台風13号に伴う大雨で被災した中小製造業が苦境に立たされている。茨城県内中小企業の被害額の7割以上を製造業が占め、ものづくり産業が盛んな日立市では、機械類の浸水によって本格的な操業再開がなお遠い町工場も。復旧を急ぐものの、「一度離れた仕事は戻ってこない」と先行きを不安視する声も上がる。

「機械が止まっていることが一番怖い。売り上げがない状況が長引くと、うちみたいな超零細は厳しい」。同市内で精密部品の金属加工を手がける男性社長は9月下旬、「これではお客が逃げていくだけ」と焦りをにじませた。

8日の大雨で近くの川が氾濫。工場内に濁流が流れ込み、切削加工するマシニングセンタなど1台数千万円という機械が浸水した。流入した泥は足首に届き、「悪夢のような光景だった」。再開には少なくとも1千万~2千万円かかると見込む。

2代目社長。12年前に父から経営を引き継いだ。敬遠されがちな複雑形状の金属加工を強みとし、小さいながらも大手企業の1次下請けとして高い技術力が評価されてきた。

被災後は「会社を売るか」との考えも脳裏をよぎったが、「つぶしたら負け」との思いを胸に、泥に埋もれた金属材料を拾い集めた。現在は水没したモーターや電子基板の交換作業を急ぐが、1~2カ月待ちの部品もあり「本格操業はまだ先」という。

被害をもたらした河川は、台風のたびに岸の寸前まで増水するのが気がかりだった。川底の土砂を取り除くよう行政に何度も要望していただけに「懸念が現実になった」と悔しさも残る。

県によると、県内中小企業の被害事業所は29日現在で10市計164件に広がり、推計被害額は17億1700万円に上る。

このうち製造業が約13億円と最多。中でも、工業製品系が中心の日立市と、水産加工業の被害が大きかった北茨城市が大半を占める。被災した施設・設備の復旧費用に関わる公的支援は、現状では利子補給や保証料の補助が中心で、再建費用も重くのしかかる。

同じく日立市内で精密機械部品を製作する別の事業所も、近くの河川が氾濫し、工場内が床上80センチほど浸水。旋盤などの機器20台近くが水に漬かった。

機器類は完全に乾燥するのを待つ必要があるため、動作確認などに着手できたのは被災から約2週間後。この間は操業を停止し、キャンセルした注文もある。

男性社長は「単純見積もりで1千万円以上の被害。売り上げの数カ月分だ」と頭を抱え、「もう二度と経験したくない」とため息をついた。

© 株式会社茨城新聞社