ノーサイド…?

 〈…推薦した候補者105人全員を任命する方針を固めた〉-記事の最初の一文だけを読むと、何かの仲直りや手打ちや合意が成立したのか、W杯で熱戦展開中のラグビーになぞらえて言うなら「ノーサイド」なのか-と、思わず早とちりしそうになるが、残念ながら実情はそうではない▲菅義偉前首相時代の2020年に起きた任命拒否問題がいまだに尾を引き、冷たい緊張関係が続いている政府と日本学術会議。10月の会員改選に向けた動きの記事が21面にある▲3年前に任命を拒否された6人の名が今回の名簿にないのは、学術会議の側が譲ったり折れたり諦めたりしたわけではない。「今回の改選リストに加えると政府の拒否方針を追認し、受け入れたことになってしまう」という理屈だ▲いい機会なので思い出しておきたい。対立の始まりは、学術会議側の人選を尊重してきた会員選出の慣例に、政府がいきなり手を突っ込んだことだった▲いくら問われても理由を語らない前首相の姿勢は棚に上げて、政治の側は“学術会議の透明性”を言い募り、問題を学術会議の組織論や在り方論に巧みにすり替えてしまった。巧みに、とは書いたが褒めてはいない▲科学や学問と政治の距離がどうあるべきか-重い論点が残されたままであることを忘れずにいたい。(智)

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