「VR能 攻殻機動隊」演出:奥秀太郎×映像技術 杉本麻樹×映像技術 櫻田国治 クロストーク

世界初!空中結像装置(AIRR)を実装し、 更なる進化を遂げた最新バージョン「VR能 攻殻機動隊」東京公演が10月から上演、そしてベネチア凱旋公演からワールドツアーがスタートする。
「VR能 攻殻機動隊」は、その「攻殻機動隊」を日本の誇る古典芸能である能で表現。
2020年8月に世田谷パブリックシアターで初演。VR 用のゴーグルなしに見られる、世界初の試み。その後、東京芸術劇場プレイハウス、博多座、 札幌文化芸術劇場、IHIステージアラウンド東京で上演。
今回は、さらに最新技術「空中結 像技術(AIRR)」を使い、仮想現実空間を舞台上に再現し、技術的進化を遂げる。この東京公演の後にはベネチア凱旋公演、その後ワールドツアーとなる。

演出は舞台「ペルソナ」シリーズや舞台版「攻殻機動隊ARISE」、AKB版「仁義なき戦い」などを手がけた映画監督・奥秀太郎。脚本は「攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX」や「BLOOD」シリーズなどで知られる藤咲淳一。 VR技術は国内のVR研究での第一人者・稲見昌彦(東京大学教授)、映像技術は日本初の舞台での3D映像を開発してきた福地健太郎(明治大学教授)と杉本麻樹(慶應大学教授)。世界初・空中結像(AIRR)技術を手掛けるのはこの技術の創始者・山本裕紹と陶山史朗(宇都宮大学教授)。
出演は、実力・知名度ともに現在の能のシーンを牽引する坂口貴信(観世流能楽師)、谷本健吾(観世流能楽師)、川口晃平(観世流能楽師)、そして業界大注目の観世宗家のプリンス・観世三郎太(観世流能楽師)など。
この新しい「VR 能攻殻機動隊」、演出の奥秀太郎さん、映像技術の杉本麻樹さん(慶応義塾大学教授)、櫻田国治さん(杉本研究室博士課程)のクロストークが実現した。

ーーホームページを拝見しました。奥秀太郎さんに『攻殻機動隊』のお仕事のお声がけされた感想は?

櫻田:『攻殻機動隊』の作品自体は研究室の中と外でもいろいろ聞いていました。今回実際にスタッフとしてかかわるということで、今まで作ったものには遅れを取らないよう、自分でもやれたらいいなという、挑戦的な思いでいます。

杉本:『攻殻機動隊』は高校生時代からのファンなので、今回ご縁があったということでとても楽しみにしていました。特に、計測技術とか、ビジュアルのエフェクトの部分で我々の持っている技術を活かせる形になったのかなと思います。

ーー奥さんは、このお二人を指名した理由をお聞かせください。

奥:昨年、『自在化コレクション』で、国内外の自在化研究の方々とのご縁があったわけですが、そこで使っていた映像、とくにリアルアバターですね、杉本研究室……ここにいる杉本先生と櫻田さんにお願いしていたんですが。これが非常にすばらしく、シンプルにお客様にウケまして。僕もみていて「こんな映像や演出ができるんだ」と思いました。今まで以上にVR能『攻殻機動隊』のグレードアップを図る目的で、ぜひともお願いしたいと。また、今回をきっかけに、どんどん技術を進化したものを見せたいという気持ちもありまして、ぜひお力をお借りしたいと思ったんです。

ーーどんな見え方をするのか、一観客としてその違いが気になるところです。

杉本:『攻殻機動隊』はサイバーな舞台とリアルな世界というのがうまく絡み合って融合しているというところが面白いところかなと思いまして。我々が持っているリアルアバター、360度の撮影技術を活用することによって、現実世界にある役者さんの身体表現だとか、モーションキャプチャーを使ったような動きというものを舞台上で再現していくのが可能にもなっていきます。なので、そういったリアルの再現とビジュアルのエフェクトを組み合わせたところで全体を作っていけたらなと考えています。

ーー観ている側としては、リアルに演者さんがいて、それとは別に最新技術で作った演者さんが別にいることでしょうか。

杉本:そうですね。演者さんを完全に再現させられる技術を使えるということです。

奥:今回、どこまでそれをやれるかは未知数ですが、少なくとも、VRの『攻殻機動隊』は1回めからずっと進化しつづけているので。次はこうなるんじゃないか、さらにはこうなっていくんじゃないか、というのを見せる仕掛けは必ず取り入れています。とくに今回取り入れる技術に関しては、本編では必ず一部使いたいと思っていて。『攻殻機動隊』については今まですでに「どれが本物で、どれが本物でないのか」といった原作であるテーマを形にしているんですよね。いよいよそこから、「どれが人で、どれが映像なのか」という仕掛けを散りばめていきたいなと。

ーー実際に観ないとわからない仕掛けもたくさんありそうですね。

奥:まず、この演目に関して言うと、わかるorわからないということ以上に、「何が本物であって何が虚構なのか」という問いかけをお客様に投げかけているんですね。「人って何なんだ」みたいなね。草薙素子その人が人である理由、全身義体化していても人なのか、といったような。そういうことをわかっていただけるような構造に作るのを目指していますね。

杉本:虚と実のトランジションの部分がうまく設定されているのがポイントかなと思っています。単に即物的にリアルっぽいものを差し出すということではなくて。虚と実を組み合わせて、その間を行ったり来たりするのかという、そこの部分を舞台上でも楽しんでいただければと。

ーー『攻殻機動隊』は英題では『GHOST IN THE SHELL』ですが、それに近い、そんな感じがします。それと同時に「能」という古い演劇と最先端技術の組み合わせについてはいかがでしょう。

奥:原作者の士郎正宗先生が描いているのは能や神楽に近しい世界だなと感じるんです。アニメのほうでは実際に能楽師の名称が出てきますしね。そこでやはり草薙素子のセリフにもある「囁くのよ、私のゴーストが」に代表されるように、能も死者や霊魂を召喚する儀式として出ているんですね。じゃあ、それっていったい何なのか。草薙素子は、見た目は一般的な義体であって、彼女そのものは脳だけ。これをコミックで読んだときはなんとも言えない不思議な気持ちになりました。原作は決して長くない、3冊しかないといえどいろいろな楽しみ方があるし、繰り返し読むたびに哲学的な自分のあり方さえ考えられる作品なんですよね。能というのも、何百年もなぜ日本人が語り継いできたのか。読めば読むほど日本人以外には理解できないであろう感性が詰め込まれている。そしてそれもまた、ただ単に観終わった感動して泣けますみたいなものではなく、自我がどこにあるのかわからなくなるような、なんとも言えない感覚なんです。そういう意味では物語の作り方が非常に近いなと。

櫻田:いろいろ奥監督とお話させていただいて、技術的な面でいうと、本質的なところで似ているところがありつつも、『攻殻機動隊』のほうでは視覚的に訴えかけてくる部分が、能のなかではある種感性に訴えかけてくるものがあって。この2つでいうと『攻殻機動隊』の部分で表現しきれないところを能の部分で補っている、共生しあってよりわかりやすく伝わるようになっているなと思いました。

杉本:『攻殻機動隊』と能の共通点でいうと、人工物を通じた感情表現がどちらもあるのかなと。能も生身の人間がそのまま演じるだけではなくて、お面をかぶるという形の、人工物とくっついた状態で役者さんは演じますよね。『攻殻機動隊』もサイボーグである身体、義体という人工物と一体化している人々が、そのなかで喜怒哀楽、感情表現というものがしっかりされていて、ストーリーとしての厚みが出てきているので。そういう意味でも、やはりこの2つの要素、非常に近いんじゃないのかなと思います。

ーー演目上でも、どれが虚かどれが実かがわからないところがキモといえるのだと思います。ところで、『攻殻機動隊』をもし能以外で表現するなら何になるでしょう?

奥:『攻殻機動隊 ARISE』は一度2.5次元舞台化されていますね。でもやっぱり、能のほうが親和性高かったな、と思いましたよね。とくに原作の2巻は能の世界観にぴったりだから。でも、もしかしたら歌舞伎とか企画が進んでいるかもしれませんよね。ただ、やはり能ほどではないかなと思います。となると文楽ですかね。まさに人形使いが出ますしね。リアルの(笑)。

ーー今回使っているリアルアバターと、空中結像とが合体したらどうなるのかという期待もあります。

奥:空中結像は、おかげさまでいい形でできつつあって。本当に何もスクリーンがないところ、今まではスクリーンの奥だけだったんですけど、手前側に結像させられるようになっていて。アバターが本当に近くにいるということができるようになって、非常に面白い。センサーとして触ることができるようにもなっていますし。

ーー『攻殻機動隊』の原作で描かれている技術が、もうすでに実現しているものもいくつかありますよね。

奥:一つずつ、世界が現実のものになっているのを実感できますよね。それに、この舞台でいちはやく取り入れていく、相当チャレンジですし、自分で自分の首を相当締めているわけですけど。とはいえ、誰かが一歩踏み出し人柱になることって大事なんですよ。最初にやるときってたいへんじゃないですか。第一弾というものは。でも、だからこそやっていきたいという思いもあるし。暖かい目で見守ってほしいですね(笑)。そういえば、先ほど話にあった『攻殻機動隊 ARISE』。あれも実は3D映像を舞台でやる初めての作品で。お客さんに3Dメガネをかけていただいて観る光学迷彩を取り入れたんですよ。それが今やもっと進化して、VRゴーグルなしでVR体験ができる、そこを目指す段階にまで至っています。そういう意味では『攻殻機動隊』といえば新技術、というイメージなのかも。

ーーたしかに、VRのゴーグルって重いし、長時間観るにはストレスがかかりますよね。

奥:そうなんですよね。近い将来、VRなしのVRを楽しめる場所、それが劇場になっていくんじゃないかと、そんなビジョンがあります。舞台という場所は、お芝居を楽しむということももちろんあるでしょうけど、VR体験をしてもらうのにぴったりな要素が備わっている。

ーーちなみに、現状の手応えはいかがでしょう。

杉本:我々はちょっとまだ、要素部分だけ把握しているという段階なので。全体像に関しては奥監督にぜひお任せしたいと思います(笑)。

櫻田:すべての技術を1つの作品の中に統合するという段階が、今後うまくいけば、いい形、いい作品としてできていくんじゃないかという所感はあります。

奥:みなさんまだまだ全体像が見えてくる段階は先になるかと思います。ただ、今は一つずつ技術を追い求めているところ。そもそもは新しいという以上に、新しさを含めてお客様にどれだけ楽しんでいただけるかというのがあります。能というものも、普段だとそれこそなかなかエンターテインメントになりづらいイメージがあったんですけど、今は能についても、『攻殻機動隊』であっても、最初に触れる第一歩になれる作品を目指しています。今回どれだけたどり着けるかはわかりませんけど、ぜひ応援のほどよろしくお願いいたします。

ーーそういえば、『攻殻機動隊』は海外でも上演されますね。

奥:そうなんです。以前持っていったのは「葵の上」でしたけれど、たいへんみなさん興味深く楽しんでいらっしゃいましたね。もしかしたら、日本の方のほうが能に対するハードルが高いのかもしれません(笑)。

ーーそうですよね。難しいイメージは少なからずあると思います。それが今回の『攻殻機動隊』で気分的に入りやすくなりそうです。

奥:能も『攻殻機動隊』も、“わかっている”人がちょっと自慢できるような、そんな作品。伝統芸能っていい意味で、知るとさらにハマるような、そんな気分にさせてくれるんですよね。自分の中に宿ってくれるというか(笑)。

ーーそれでは、最後にメッセージを。

杉本:奥監督の舞台は、絶対に期待を裏切りませんから、ぜひお越しいただければ。

櫻田:能も『攻殻機動隊』も、どちらかに少しでも興味のある人であればつながるものがあると思うので。おそらく期待に沿うものができると信じてがんばっていますので、ぜひご検討いただきたいです。

奥:「あのときあれを見逃した」ことを後悔するような。そんな作品になると思います。ぜひ劇場で観てください!

ーーありがとうございました。公演を楽しみにしています。

「攻殻機動隊」とは
近未来の電脳化社会を舞台に架空の公安組織の活躍を描いたマンガで、1989年から展開されている人気シリー ズ。押井守監督が手がけた劇場版アニメ「GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊」「イノセンス」のほか、「攻 殻機動隊STAND ALONE COMPLEX(S.A.C.)」シリーズ、「攻殻機動隊ARISE」シリーズ、現在NETFLIXで配信中の 最新作「攻殻機動隊SAC_2045」などが制作されてきた。スカーレット・ヨハンソン主演で実写化したハリウッド映画版も話題になった。(公式サイト:https://www.ghostintheshell-sac2045.jp/

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概要
日程・会場:2023年10月13日~10月15日 東京建物 Brillia HALL(豊島区立芸術文化劇場)
原作:士郎正宗(「攻殻機動隊」講談社 KC デラックス刊)
演出:奥秀太郎
脚本:藤咲淳一
VR 技術:稲見昌彦(東京大学教授) 映像技術:福地健太郎(明治大学教授) 映像技術:杉本麻樹(慶應大学教授)
空中結像(AIRR) 技術:山本裕紹 陶山史朗(宇都宮大学教授)
出演
坂口貴信
谷本健吾
川口晃平
井上裕之真
関根祥丸
観世三郎太(観世流能楽師)
製作 TBS
問合:VR 0570-002-029 (10:00~18:00)

公式サイト:https://ghostintheshellvrnoh.com/

©士郎正宗・講談社/TBS・EVISION

取材:高浩美
構成協力:佐藤たかし
舞台撮影(初演):斎藤純二

© 株式会社テイメント