イメージに惑わされるな!鉄道ファンにおなじみの「混雑率」から読み解くデータの見方

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みなさんは「混雑率」という指標を目にしたことはあるでしょうか。混雑率は朝ラッシュ時の混雑具合を確認する際によく用いられる指標ですが、多くの人にとってはなんとなく意味を理解できる程度かもしれません。ただ、鉄道ファンにおなじみのデータの一つであり、ビジネスパーソンにとっても知っておいて損はない指標なのです。この記事では一般的なイメージとは乖離しがちな各路線の混雑率と、データの重要性について触れたいと思います。

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混雑率は「容器」と「水」で例えるとよくわかる

そもそも混雑率とは輸送人員÷輸送力で算出される混雑度の指標を意味します。例を使って説明すると、鉄道会社が用意した容器(輸送力)に水(輸送人員)を入れ、水(輸送人員)の入り具合を数値化したものが混雑率というわけです。

■ポイント1:混雑率の計算式

混雑率=輸送人員÷輸送力

毎年、国土交通省は都市鉄道の主要路線の混雑率を発表しています。これは各路線の最混雑区間における最混雑時間帯1時間あたりの平均混雑率を算出・公表したものです。ようは最も混雑している区間における最も混雑している1時間(平日朝ラッシュ時)の混雑具合を観察する、ということです。

混雑率は100%を定員乗車としています。具体的には、座席につくか、つり革につかまるか、ドア付近の柱につかまる状態です。

150%は肩が触れ合う程度で、新聞は楽に読める状態、180%は体が触れ合う程度で、新聞は楽に読める状態を指します。

200%は体が触れ合い、相当な圧迫感がある。しかし、週刊誌なら何とか読める状態、250%は電車が揺れるたびに、体が斜めになって身動きできない。手も動かせない状態です。

■ポイント2:混雑率と電車内の状態の相関関係

100%:定員乗車

150%:肩が触れ合う。新聞は楽に読める

180%:体が触れ合う。新聞は楽に読める

200%:相当な圧迫感がある。週刊誌程度なら何とか読める

250%:身動きができず、手も動かさせない

鉄道会社は朝夕ラッシュ時の混雑緩和を長年の目標に掲げており、そのための指標が混雑率というわけです。コロナ禍の影響を差し引いても鉄道会社の取り組みにより、1990年代と比較すると確実に混雑率は減少しています。

■ポイント3:主要都市圏の混雑率は約30年間で100%近く低下

1990年

2022年

東京

202%

123%

-79%

大阪

168%

109%

-59%

名古屋

175%

118%

-57%

とはいえ、鉄道における朝ラッシュ時の混雑は人々の健康に大きな影響を与えています。2006年に国土交通省が発表した研究によると、自動車通勤と公共交通機関での通勤を比較した際、公共交通機関の方が自動車よりも疲労・身体的な不調兆候の指標が高いという結果が出ました。

混雑率1位の路線はめちゃくちゃ意外だった!

国土交通省が今年7月に発表した2022年度最混雑区間における混雑率によると、全国1位の混雑率は東京都が運営する日暮里・舎人ライナー赤土小学校前→西日暮里間の155%でした。

日暮里・舎人ライナーは日暮里駅を起点とし、東京都荒川区・足立区の鉄道空白地域を南北に結ぶ、「ゆりかもめ」と同じ新交通システムです。コロナ禍前の混雑率はさらに激しく、2019年度の混雑率は189%でした。

2位は西日本鉄道の貝塚線名島→貝塚間の154%でした。貝塚線は福岡市の貝塚駅と福岡県新宮町の西鉄新宮駅を結ぶ全長11キロの支線です。同線は他の西鉄線と接続しない代わりに、貝塚駅で福岡市営地下鉄箱崎線に接続します。

「混雑率1位」と聞くと山手線や中央線を思い浮かべる方も多いと思いますが、実際は全国区ではない路線が1位なのです。

これは輸送人員もさることながら、輸送力も関係します。日暮里・舎人ライナーの最混雑時間帯1時間あたりの輸送力は4771人です。山手線内回りの輸送力は32540人ですから、単純計算すると日暮里・舎人ライナーの輸送力は山手線内回りの約15%しかありません。一方、日暮里・舎人ライナーの最混雑時間帯1時間あたりの輸送人員は7389人でした。

貝塚線もしかりです。貝塚線の輸送力は1488人しかなく、どの列車も2両編成での運行です。

「混雑率が高いのだから、両数を増やすべき」と思いがちですが、現実は簡単ではありません。両数を増やすには、どうしてもホームの延長が必要です。ホームの延長には多大な費用が発生するだけでなく、物理的に難しい場合もあります。輸送力を劇的に改善するのは、そんなに簡単な話ではありません。

いずれにせよ、混雑率と路線の知名度の間に相関関係はありません。混雑率を避けるには路線の知名度を頼りにせず、きちんと混雑率などのデータを確認する必要があります。

混雑率から見る関東大手私鉄・関西大手私鉄の「類似路線」はどこ?

次は視点を変えて、混雑率から関東大手私鉄・関西大手私鉄の似た者同士の路線を探してみましょう。

まずは最混雑区間から見ていきます。一般的に最混雑区間の帰結駅は終着駅やターミナル駅、県庁所在地の駅である場合が多いです。しかし、例外もあります。それが京成本線と南海本線です。

京成本線の最混雑区間は大神宮下→京成船橋間、南海高野線は百舌鳥八幡→三国ヶ丘間となります。京成船橋駅、三国ヶ丘駅ともに中間駅であり、三国ヶ丘駅にいたっては急行すら通過します。一方、両駅にはある共通点があります。それはJR線と乗り換えられること。京成船橋駅はJR総武本線、三国ヶ丘駅はJR阪和線に乗り換えができます。

京成本線はカーブが多く、津田沼・船橋から都心へ出る際はJR総武本線の方が速達性に優れています。船橋から京成本線の終着駅である上野までの所要時間を比較しても、JRは乗り換えが必要にもかかわらず、京成とそれほど変わりません。

一方、南海高野線沿線から大阪環状線沿線へアクセスする際、駅によっては新今宮経由よりも三国ヶ丘経由の方が運賃が安い場合があります。

次に関東大手私鉄、関西大手私鉄、それぞれの私鉄エリアで最も混雑率が高い路線はどこでしょうか。関東大手私鉄ですと、京王線下高井戸→明大前間129%がトップです。ちなみに、京王線と平行に走る小田急小田原線の混雑率は世田谷代田→下北沢間128%と、京王とわずか1%差です。

輸送人員を見ると京王線が46647人に対し、小田原線は62589人です。輸送人員と混雑率を確認すればわかるとおり、鉄道会社が用意する輸送力では小田原線に軍配が上がる、ということです。ひとつには小田原線代々木上原~登戸間の複々線区間が挙げられます。一方、京王線は複々線区間は存在しません。

関西大手私鉄では阪急神戸本線神崎川→十三間134%がトップとなり、関西大手私鉄はもとより大阪圏で最も混雑率が高い路線になりました。やはり、大阪と神戸を結ぶ主要路線であると同時に、利用者数の多い支線からの流入が多いことが挙げられます。

ところで、本線系の混雑率を比較すると、最高・最低ともに関西大手私鉄の方が関東大手私鉄よりも高いのです。一方、輸送人員は関東大手私鉄の方が格段に多いです。平成において、関東大手私鉄では積極的に複々線区間の整備に努めました。その努力が混雑率の改善につながっています。

JRは関西よりも関東の方が混雑率は高い

一方、JRは総じて関東の方が関西よりも混雑率は高いです。例えば、環状運行する山手線と大阪環状線を比較します。山手線は新大久保→新宿間126%が最混雑率です。一方、大阪環状線は鶴橋→玉造間115%が最混雑率となり、差は歴然です。余談ですが、大阪環状線の最混雑区間は全て東側(京橋・鶴橋方面)であり、同線が東側と西側で性格が異なることがよくわかります。

JR東日本は関東大手私鉄と異なり、複々線区間の延伸は行っていません。その代わり、上野東京ラインなどの直通運転の運行を積極的に行っています。

このように、国土交通省が発表する混雑率のデータから、いろいろなことが推測できます。ただし、先述したとおり、国土交通省が発表する混雑率はあくまでも1時間あたりの平均値です。一時的には発表以上の混雑率を記録する列車が存在する可能性があることをお忘れなく。

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