背景には【新NISA】や海外投資家?東証の取引時間延長はどのような影響があるのか

東京証券取引所の取引時間が、70年ぶりに延長することが決まりました。延長時間は30分間で、現在の取引時間は9時~15時(11時30分~12時30は昼休み)、合計5時間の取引時間ですが、適応後は終了時間が30分延長され15時30分と、合計5時間30分の取引時間となります。


取引時間延長の背景

時間延長は東京証券取引所を運営する日本取引所グループ(JPX)が、2021年10月に発表をしていましたが、来年の2024年11月5日(火)から正式に開始すると公表しました。これまで取引時間の延長は何度も検討されてきましたが、なかなか実施に至らず、今回ようやく漕ぎ着けられたように思います。

特に運用会社などに負担が増えてしまう懸念があり、取引終了後に行われる投資信託の基準価格算出など影響が出てきそうです。また中小証券会社の経営コスト増加など、市場を支える随所にそれぞれの思いがあるように感じています。

時間延長の議論が活発化したのは、2020年10月に発生した大規模なシステムダウンがきっかけでした。終日取引が停止となりましたが、取引時間が長ければ当日中に復旧できる可能性が高いとの見解を示した事から、時間延長へ本格的に動き出しました。実際、時間延長と合わせて実施される次期売買システム稼働により、これまで3時間かかっていたシステムの再起動を、半分の1時間半に短縮する予定です。

最終的には2024年から開始される【新NISA】を控え、株式投資に注目が集まる雰囲気を各所で前向きに捉えた動きにも感じられます。

取引時間について、世界に目を向けると米国のNY取引所、NASDAQともに9時30分~16時、昼休みは無く6時間30分の取引時間です。ロンドン取引所は8時~16時30分、ドイツ取引所は9時~17時30分で、いずれも休み時間は無く、8時間30分もの取引時間です。シンガポール取引所は6時間30分、香港取引所は5時間40分、上海取引所は4時間の取引時間で、いずれも昼休みありとなっています。欧米やアジアなど海外取引所と比べて取引時間が短いことから、時間延長をして投資家の利便性を高める狙いがあります。

取引時間延長後に焦点となるのは?

取引時間延長後の焦点となるのが、企業側の決算時や開示情報の発表です。

現在、ほとんどの企業は取引終了後の午後3時以降に開示を行っていますが、今後は開示が午後3時30分以降に一気に行われる可能性があります。日本の上場企業は3月期決算が2,500社ほどあり、多い日には1日に800社以上の決算発表があります。たかが30分、されど30分、当日中に目を通すのは、かなり至難の業となりそうです。

東証は、公表すべき情報がある場合は、取引時間中であっても速やかに開示することを求める、としています。開示まで時間があると、インサイダー取引などのリスクが高まるためです。

取引時間中の開示が広がれば、決算発表時期の開示の集中も回避出来るとの見方もあるようです。しかし、兼業投資家の方などは取引時間中の開示などをリアルタイムで見ることが出来ず、公平性の面から今後どのようにしていくのか、課題があるように感じます。

また、30分時間を延長したところで、売買代金の増加や、海外投資家からの取引が大幅に増加するのかについては不明です。実際、後場は決算期や大引けを除いて、売買代金は増加していない印象があります。ほぼ毎日相場を見ていますが、後場の売買が盛り上がりにかける日が多いのも事実です。

私が証券会社に入社した当時は、人間が注文を紙に書いて発注していました。1社に注文が集中して大商いになれば、注文が捌ききれなくなり、売買は一時停止となります。前場で注文が溜まりすぎてしまうと、昼休みにその注文を処理していました。

そのため、バブル前の活況時は昼休みを延長して、大商いとなっている銘柄の伝票処理を人間が手作業で行っていました。事実上、取引時間は短縮していたことになりますが、誰も文句は言えません。注文を人間が捌いている以上、大量の注文がどうにもならない事は周知の事実だからです。

今は成行注文を入れたら即時約定するような時代ですが、30数年前は前場に入れた注文が後場に約定するか否か、といった状況でした。この様なアナログの時代から株式相場に携わっている私からすれば、今回の時間延長について賛否両論はあるにせよ、売買機会が増える事については前向きに捉えるべきではないかと、個人的には思わざるを得ません。

時間延長だけでなく、今後は夜間取引なども検討されるのではないかとも感じています。実際SBI証券は、2023年8月から夜間PTSの取引時間を「16時30分~23時59分」まで延長しています。

なお、東証も先物市場は2023年7月から午後4時30分〜午後11時30分までだった取引時間を、翌日の午前3時まで延長しています。今後、現物市場の参入の可能性も考えられます。

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