今はなきラブホ、秘宝館の決定版写真集「忘れ去られた日本の裏文化遺産をほじくりだす」  

日本のサブカルチャーを彩る秘宝館、ラブホテルを激写した写真集「秘宝館」「ラブホテル」(ともに青幻舎)がこのほど発売された。現代美術、デザイン、都市生活をテーマに長年取材を続ける都築響一氏が、主に1990年代から2000年代に撮影。「忘れ去られた日本の裏文化遺産をほじくりだす」を主題に、個性的な作品群がまとめられた。

「秘宝館」は空前の観光ブームの中、1970年代から各観光地に誕生したオトナの娯楽施設に注目。昭和が生んだ性のアミューズメントパーク、アート空間のような秘宝館のその後を追った。2023年に取材した写真、原稿も掲載された。

「ラブホテル」は昭和、平成に花開いたものの急速に姿を消しつつあった2000年代に、遊び心溢れるインテリアが特徴的な全73室を収録。今年取材した最新ラブホデザインも追加された。

都築氏は「秘宝館」について「子どもがオトナになるくらいの、ほんの少し前に、日本人がこんなにヘンな場所をつくって、それが裏観光名所として賑わっていた時代があったこと。それを恥ずかしく思うか、楽しく思うかで、僕らの国を見る眼差しはずいぶん変わってくるはずだ」とコメント。「ラブホテル」には「レトロとは『過ぎ去った時代のいいところだけを見てとる』技術でもある。戻れない時代に憧れるのはそれだけで楽しいけれど、このささやかな記録のコレクションから、当時のカップルがどんな驚きと興奮でこんな部屋を楽しんだか、そのドキドキワクワク感に思いを馳せ、それがいまから数十年後に『レトロ・デザイン』として愛でられるような新しいスタイルの創造につながっていくとしたら、僕としては最高にうれしい」と談話を寄せた。

「秘宝館」と「ラブホテル」に収められた1枚をチョイスし、それぞれの思い入れと撮影背景に言及した。

秘宝館からは、ダッチワイフ風で裸の人形が手術台に拘束され、宇宙船を思わせる機器に囲まれて、未来的な姿の人形に視線を向けられる1枚。三重県鳥羽市にかつて存在した元祖国際秘宝館・SF未来館を舞台に、おそらく1995年に撮影されたという。都築氏は「撮影を始めたころ、僕には秘宝館をただおもしろがる気持ちよりも、『もうすぐなくなることがわかっている、こんな文化のありようを一か所でも多く記録しておきたい』という焦燥感に掻き立てられて、日本の場末から場末へと走り回っていた記憶がある」と述べた。

「秘宝館」(著・都築響一、アートディレクション・COCHAE、青幻舎)より

ラブホテルからは、曇りガラスの浴室がヒゲとサングラスがトレードマークだった山本晋也監督をモチーフした造形で、ピンク映画の撮影現場を連想させる照明器具が並ぶ1枚。山手線駒込駅近くにかつて存在したホテルアルパパートⅡ103号室で2000年頃に撮影された。都築氏は「撮影当時ですらすでに絶滅危惧種だった、回転ベッドや鏡張りの部屋やガラス張りで入浴姿を覗ける浴室のあるラブホテルを探して、大型カメラと、鏡張りの壁に自分が映らないための巨大な黒幕を背負って右往左往した日々が懐かしい」と述べた。

「ラブホテル」(著・都築響一、アートディレクション・COCHAE、青幻舎)より

◆都築響一(つづき・きょういち) 1956年東京生まれ。1976年から1986年まで「POPEYE」「BRUTUS」誌で現代美術・デザイン・都市生活などの記事を担当する。1989年から1992年にかけて、1980年代の世界現代美術の動向を包括的に網羅した全102巻の現代美術全集『アートランダム』を刊行。以来、現代美術・建築・写真・デザインなどの分野で執筆活動、書籍編集を続けている。1993年、東京人のリアルな暮らしを捉えた『TOKYO STYLE』を刊行。1997年、『ROADSIDE JAPAN 珍日本紀行』で第23回木村伊兵衛写真賞を受賞。現在も日本および世界のロードサイドを巡る取材を続けている。

(よろず~ニュース編集部)

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