【インドネシア】高速鉄道が開業、東南ア初[運輸] 首都—バンドン、中国が建設主導

ハリム駅に停車中の高速鉄道の車両=9月29日、ジャカルタ特別州(NNA撮影)

インドネシアのジョコ・ウィドド大統領は2日、首都ジャカルタと西ジャワ州バンドンを結ぶバンドン高速鉄道の開業を正式に宣言した。日本と中国の受注競争の末、中国主導で2016年1月に着工してから約7年半。東南アジアで初の高速鉄道として商用運行がようやく始まる。「Whoosh(ウーシュ)」と命名された同高速鉄道の最高時速は350キロメートル。ジャカルタ東部のハリム駅からバンドン県のテガルルアル駅までを約45分で結ぶ。10月中旬までは無料で運行する。

ハリム駅から西ジャワ州カラワン県のカラワン駅、西バンドン県のパダララン駅を経由し、テガルルアル駅まで運行する。総延長は約142キロ。9月26日付の運輸相通達で、高速鉄道の運行許可を公布した。

当面はハリム駅発とテガルルアル駅発をそれぞれ4本、1日に計8本を運行する。一方、各便の出発時間は2日午後6時時点で発表されていない。運輸省によると、今後は段階的に本数を増やし、最終的には1日68本の運行を予定する。

2日の開業宣言式典に出席したルフット調整相(海事・投資担当)は、9月中旬からの試乗では、市民から好反応を得ることができたと述べ、10月中旬までは高速鉄道の運賃は無料で運行すると明らかにした。バンドン高速鉄道の事業主体であるインドネシア中国高速鉄道社(KCIC)の関係者によると、無料期間は2週間を予定しているが、具体的な期日はまだ明らかでないという。

無料期間終了後の料金は明らかになっていない。一方、ブディ運輸相は先に、運賃は25万~30万ルピア(約2,400~2,900円)になるとの見方を示している。

チケットは、専用ウェブサイト<https://ayonaik.kcic.co.id/>から予約できるとしているが、2日午後6時時点では予約の受け付けは開始されていない。また高速鉄道駅の窓口でも購入できるというが、現時点ではまだ利用できない。今後は旅行サイト運営トラベロカやチケットドットコムのプラットフォームなどからも予約できるようになる。

■開放的で静かな車内環境

9月29日にハリム駅から試乗した際は、カラワン駅には停車しなかったものの、パダララン駅での約5分間の停車を含め、約45分でテガルルアル駅に到着した。ハリム駅を出発して約10分、西ジャワ州ブカシ周辺地域まではチカンペック高速道路沿いを進むが、そこから南進し、最高時速に達する。

試乗時の車両は8両編成。座席のグレードは、VIP(18席)、ファーストクラス(28席)のほか、プレミアムエコノミークラスがある。プレミアムエコノミークラスは2列と3列シートで座席数は計555席。プレミアムエコノミーの座席では、2列シートに1カ所、3列シートに2カ所、充電用コンセントが設置されている。

車内の窓の幅は1メートル以上と大きく、開放的な雰囲気を感じられる。走行中は静寂性が保たれており、少し離れた場所の席の人とも普通の声量で会話ができる。走行中の揺れも気にならない。停車駅や駅構内でのアナウンスは、インドネシア語と英語となっている。

(1)高速鉄道のVIPクラスの座席(2)ビジネスクラスの座席(3)試乗会で乗車したプレミアムエコノミークラス(4)車内の電光掲示板には車両の走行速度が表示される=いずれも9月29日(NNA撮影)
ハリム駅の待合室=9月29日、ジャカルタ特別州(NNA撮影)

■ハリム駅はLRTと接続

高速鉄道のハリム駅は、首都圏の軽量軌道交通(LRT)のブカシラインのハリム駅とスカイブリッジと呼ばれる約200メートルの連絡通路でつながっている。一部には動く歩道が設置され、エアコンも備え付けられている。LRTのブカシラインとチブブールラインが分岐・合流するチャワン駅と次のハリム駅までの所要時間は約5分。

ジャカルタ特別州営バス「トランスジャカルタ」も、チャワン停留所から高速鉄道のハリム駅を結ぶルートを9月末から運行している。

パダララン駅からは在来線に乗り継げば、バンドン中心部のバンドン駅へ向かうことができる。

一方、終点のテガルルアル駅からは、陸運公社ダムリが、バンドン市外郭環状道路のスカルノ・ハッタ通りまで無料のシャトルバスを運行している。

高速鉄道ハリム駅から首都圏LRTのハリム駅へ向かうスカイブリッジ=9月29日、ジャカルタ特別州(NNA撮影)
テガルルアル駅の外観。ダムリが高速鉄道の到着時間に合わせてシャトルバスを運行する=9月29日、西ジャワ州(NNA撮影)

現在、国鉄のジャカルタからバンドン行きの長距離列車は中央ジャカルタのパサールスネン駅発が4万5,000ルピア(所要時間約4時間)で、ガンビル駅発が15万ルピアから(所要時間約2時間50分)で運行している。

高速鉄道に試乗したデラさん(女性、自営業)はNNAに対し、従来の路線に比べ高い価格がネックだと指摘。運賃が15万~25万ルピア程度でなければ、緊急時以外に利用することはないだろうと述べた。バガスさん(男性、国家公務員)は、「業務上では利用することもあるだろうが、家族と一緒に移動するとなると自家用車を選ぶ」と述べた。高速道路のほうが、移動が楽だという考えだ。

■「高くついたが貴重な経験」=大統領

ジョコ大統領は2日の開業宣言式典で、「ウーシュは効率的で環境負荷が少なく、他の交通機関と接続された、大量輸送機関の近代化を示すものとなる」と強調。また技術面や資金面など新たな試みを導入する際には、想定もしなかったことが起こりえると指摘。「高くついたが貴重な経験であり、将来の人材育成に生かす必要がある」と述べた。

建設に当たっては、事業費は当初約55億米ドル(8,300億円)と試算されていたが、最終的には70億米ドル以上となった。ジョコ大統領は、国費の投入や政府保証の付与などもやむを得なかったとの認識を示した。

建設事業は、インドネシアの国営企業コンソーシアム(企業連合)のピラル・シネルギー・BUMN・インドネシア(PSBI)が60%、中国の北京雅万高速鉄路が40%を出資するKCICが担当した。

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