「おじさん」社員が実は最強!? 40代以降「会社員」に “標準装備”の誇るべきスキルが身を救う

とっくに終焉した正社員神話崩壊にあって「おじさん会社員最強」を唱える新井氏の真意とは

Chat GPTの登場で一気に噴出した「AIに仕事を奪われる論」。主に大企業による中高年以降のリストラは止まらず、リスキリングも推奨され、「働かないおじさん」問題も叫ばれる。一方で、中小企業に目を向ければ「人手不足」の文字が躍る。とりわけ「おじさん会社員」の周辺は混沌と不安が渦巻いている…。

そんな中で、「それでも、『普通の会社員』はいちばん強い」(日経BP 日本経済新聞出版)のタイトルで新刊を出したのが、多数の著書がある人事コンサルタントの新井健一氏だ。その真意は一体どこにあるのか。

「おじさん会社員」が最強の根拠

──「正社員神話」がとっくに崩壊したいま、にわかには信じがたいタイトルです。

新井氏 先行きが不透明な時代、自分の会社の行く末がどうなるかもわからない社員も少なくないでしょう。でも、タイトルの通り、会社員として、普通に学び、身につけてきたことは、本当にすごい武器なんです。人としてのふるまい、マナー、顧客とのコミュニケーション力、資料作成など、「普通の会社員」が新人時代から積み重ねてきた社会人としての基本スキルは、AI時代だからこそ、価値が高まっているんです。

──ふつう過ぎて、「強み」だとはとうてい思えません。

新井氏 いま著名な大学を出て、立派なキャリアを積んだ若者が就職せずに起業するケースが増えているといいます。突出したスキルがあるから、会社に頼らなくてもやっていける、ということです。

ところが、やっぱり、行き詰まるんです。商品やサービスを顧客に売り込む必要があるわけですが、「普通の会社員」のようなコミュニケーションが取れないために、思ったように事業を軌道に乗せられない。

もちろん、ホリエンモンやひろゆきほど突出していれば、とんがっていてもやっていけますが、ほんの一握りです。

結局、日本では社会人としての精神性や基礎を、会社が叩き込んでくれる。欧米のように個が主体ではなく、日本の会社員は過保護ともいえるくらいにみっちりと社会人としてのふるまい方やベーススキルを会社に教育・指導してもらえます。逆に言うと、そこをスキップして欠落したままでビジネスと対峙するのは、そこそこの能力があったとしても、成功するのは至難の業なのが現実なんです。

──あまり意識していませんでしたが、確かに会社員経験のない人とのやり取りでは違和感があることが多いかもしれません。

新井氏 その違和感がまさに、 “普通の会社員”と “そうでない人”との差なんです。AIに仕事を奪われるという議論が盛んですが、AIの優秀さはまさに圧倒的な知識量であって、人や会社としての行き届いた対応力ではありません。だから、能力があると思って、就職せずに起業しても、スキルのタイプにはよりますが、そういうタイプこそ、あっという間にAIにとって代わられるリスクが高いともいえます。

──この時代に「普通の会社員が強い」というのはそういうことなんですね。

新井氏 いまの40代以降の人たちが受けてきた会社員としての指導や教育は、今後もう受けられなくなる可能性が高いと思っています。会社にはもはや体力も資金もないですから。だから、若い人はお金を払ってでもそうしたことを指導する機関や施設で学ぶ必要が出てくるかもしれません。その意味では、起業を考えている若者も、3年くらいはしっかりと新人教育をみっちりとしてくれる会社で”修行”することを強くオススメします。

会社員を覆う不安の「正体」

会社の”遺産がおじさん社員を救うと新井氏は話す

──とはいっても、この時代、いちばん不安を感じ、モヤモヤしているのが「普通の会社員」だとは思います。

新井氏 その通りです。ズバリ、モヤモヤの正体をお教えしましょう。いよいよ、会社員が人生100年時代を完走するためのサバイバルがスタートした、それが答えです。会社は定年まで社員の面倒を見る体力がない、社員はそんな会社に頼っていては路頭に迷う。さぁどうする。それがいままさに問われているんです。

──うすうす感じていますが、やはりそうなんですね…。

新井氏 ただ、決して悲観することはないんです。何度も言っているように「普通の会社員」は最強なんですから。だから、このサバイバルレースに勝ち残るには、自信を持ち、信念に従って行動することが重要になります。

定年が70歳を超えることも確実な時代では、仕事に嫌々取り組み続けることは極めて困難といっていいでしょう。自分が得意であったり、やりがいを感じたりする仕事を見極め、そこへシフトしていくことが、このサバイバルレースに勝つためには不可欠です。

「そんなものはない」という人もたくさんいるでしょう。でもそれはウソです。少なくとも10年以上会社員を続けていたのなら、何かしら人に負けない領域はあるはずです。自信をもって、そこに磨きをかけ、自分の居場所を確保する。それがこのレースに勝つためのシンプルかつ必須の戦略です。

──「出る杭は打たれる」が染みついている普通の会社員にはハードルが高い気もします。

新井氏 そこでおすすめなのが副業です。自分が興味あることや得意なことで、本業とは別の収入を得てみてください。いまは副業NGの会社はほとんどないでしょう。そうやって、もう一本の柱を少しずつ太くして、会社にすがりつかなくてもいい状況をつくってしまうんです。そのうえで、本業でも自信をもって、自分の強みをアピールし、居場所を切り拓くんです。

定年が55歳だった時代からいまや10年も延びています。今後もまだ延びるでしょう。腹を括るにはもう待ったなしなんです。

AI時代にお先真っ暗なおじさん社員の特長

──やるしかないんですね。

新井氏 リスキリングを推奨する動きもあり、会社に忠誠を尽くしていた会社員は、より不安を感じているかもしれません。でも、いま言ったように、会社員としてのベースの上に、自分の得意や興味をのせれば、それで十分、価値あるスキルになるんです。食いっぱぐれることはありません。

逆にAI時代、淘汰されるNG会社員についてもお話しておきます。それは「威張る人」です。パワハラやセクハラを周囲の忠告にも聞く耳を持たずにやり続けていたような輩は、この流れに乗れないでしょう。 「なにがAIだ。そんなものに人間が負けるわけがない!」。そうやって時代の潮流に目を背け続け、気が付けば居場所がなくなっているでしょう。

環境の変化に適応できなければ、生物は進化しません。「普通の会社員」は、理不尽にも耐えながら、激しい環境変化に適応してきた結晶ともいえます。だから、自信をもって、AIと共存できる人材として、会社に依存せず、自分の足でこの先行き不透明な時代の長距離走を走り切ってほしいと思います。

新井健一(あらい・けんいち)
経営コンサルタント、アジア・ひと・しくみ研究所代表取締役 1972年神奈川県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、大手重機械メーカー人事部、アーサーアンダーセン(現KPMG)、ビジネススクールの責任者・専任講師を経て独立。人事分野において、経営戦略から経営管理、人事制度から社員の能力開発/行動変容に至るまでを一貫してデザインすることのできる専門家。著書に『働かない技術』『いらない課長、すごい課長』(日経BP 日本経済新聞出版)『事業部長になるための「経営の基礎」』(生産性出版)など。

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