Re:ef(リーフ) ~ 北木島の石を使ったアクセサリーでつなぐふるさとの思い

笠岡諸島にある北木島(きたぎしま)は、良質な花崗岩(かこうがん)が採れる石の産地です。

そんな北木島の石でアクセサリーをつくっているのが、笠岡市街地にあるセレクトショップ「MAMAN」のオーナーであり、アクセサリープランナーでもある井本恵梨(いもと えり)さん

井本さんにとって北木島は、父の故郷であり祖母が長く暮らしていた場所で、子ども時代には年に4回ほど訪れていた、思い出の島です。

北木島の石を使ったアクセサリーのブランド名は「Re:ef(リーフ)」(かけらという意味)と名付けました。

かけらをひとつにするようにアクセサリーで思いをつなげる、井本さんの活動を紹介しましょう。

北木島の石を使ったアクセサリー「Re:ef」

北木島の石を使ったアクセサリー「Re:ef」について紹介します。

「Re:ef」とは

セレクトショップMAMANの店内には、韓国のレディース服を中心に、雑貨、アクセサリー、天然石などが並びます。

店の中央にあるのが、オリジナルアクセサリーブランド「Re:ef」のコーナーです。

「石を使ったアクセサリー」と聞くと、ゴツゴツとした男性的なイメージを持つかもしれませんが、「Re:ef」は女性らしいデザインのものが多いのが特徴。

かわいらしいデザインから、華やかなもの、スタイリッシュなものまで、個性豊かなピアス、イヤリング、ブレスレット、ネックレスなどが並びます。

どれも井本さんが一点一点、手掛けている作品です。

北木石について

北木島は瀬戸内海に浮かぶ笠岡諸島のひとつ。

大小31の島のなかで、もっとも大きな島が北木島です。

2019年7月には「知ってる!? 悠久の時が流れる石の島~海を越え、日本の礎を築いた せとうち備讃諸島~」として日本遺産に認定されました。

北木島で採れる花崗岩「北木石」は輝くような白さが特徴で、品質が良いことから、大坂城の石垣、靖国神社の大鳥居など歴史的建造物や、墓石に使われてきました。

日本遺産に関連するアクセサリー

アクセサリーの材料となる北木石は、井本さんの知人で元石材業のかたから譲り受けた廃材を使用しています。

石を細かく砕いて、レジン液で固め、装飾を施したらアクセサリーの完成です。

「Re:ef」は、日本遺産に関連するアクセサリーとしても注目されています。

北木島と同様に石の産地として有名な小豆島で、瀬戸内国際芸術祭などのイベントに出店するほか、香川県の丸亀お城まつりにも出店しました。

丸亀お城まつり2023 写真提供:井本恵梨さん

国の日本遺産の魅力を一体となって発信する「日本遺産サミット」での出店や、井本さんは笠岡市主催の日本遺産「石の島 せとうち備讃諸島」推進シンポジウムへのパネリストとしての登壇経験もあります。

とくに県外のイベント出店時には、「アクセサリーになぜ日本遺産のシール?」と訪れた人に意外に思ってもらえるそう。

2023年には、笠岡ならではの魅力にあふれ、優れた素材・技術を生かした高い品質をもつものとして「かさおかブランド」にも認定されました。

「Re:ef」のアクセサリーはMAMANの店頭のほか、県内外のイベント出店時や、オンラインショップで購入可能。

県外では東京の「だいもんテラス」、小豆島の「西山石材」などでも取り扱っています。

小豆島で販売のアクセサリーは、北木島ではなく、小豆島の石を使っているそう。

「Re:ef」のInstagramのDM(ダイレクトメッセージ)でオーダーメイドのデザインを相談することも可能です。

お守り石としての北木石(花崗岩)

種類により、さまざまな運気が宿るとされる天然石同様、北木石(花崗岩)にも願いを託せます。

花崗岩は、エネルギーのバランスを整え、ベストな状態を維持するためのお守り石

人間関係のパワーバランスを一定に保ち、コミュニケーション能力を高めるサポートをしてくれるといわれています。

頭の中をすっきりとさせて、再出発したいときにもぴったりのパワーストーンです。

井本さんは、天然石のショップに勤めていた経験から、天然石と北木石の持つ力を掛け合わせてアクセサリーを制作しています。

たとえば、お守り石としての北木石と、天然石の健康、恋愛などそれぞれの願い事をプラスすることで、人それぞれの願いに寄り添うアクセサリーとなるのです。

井本さんと北木島と「Re:ef」

井本さんの父は北木島出身。

祖母は長く北木島で暮らしていました。

祖母は本土で過ごすようになってから「島に帰りたい」が口癖だったといいます。

井本さんは2017年夏まで、販売員などの仕事をしていましたが、2017年9月に独立し「MAMAN」をオープンしました。

15年前、天然石のショップに勤めていたころから、天然石でブレスレットをつくることが楽しかったそう。

「いつか自分の店をオープンできたら」と思っており、長年の夢が叶った形です。

「北木石でつくってみたら?」という知人の言葉をきっかけに、2019年12月頃から「Char∗M(チャーム)」というブランド名で、地域の特産品を材料にアクセサリーを制作していた女性とふたりで、北木石を使ったアクセサリーづくりを始めました。

2021年12月からは「Re:ef」として井本さんひとりで活動を開始。

Reefは「かけら」という意味です。

かけらをひとつの形にして、思いをつなげていくというイメージで名付けました。

ブランドテーマは「ReとWILL」。

Reは「リサイクル」、WILLは「気持ちをこれからつなげていく」という意味です。

北木石の廃材のかけらを使い、アクセサリーとして形にすることで、人と人との思いをつなげる「Re:ef」。

井本さんがつなげていきたい思いとは、具体的にどんな思いなのでしょう。

MAMANでインタビューをおこないました。

「MAMAN」オーナー・アクセサリープランナー 井本恵梨さんにインタビュー

北木島の石を使ったアクセサリーでつなげていきたい思いとは、具体的にどんなものなのか、井本恵梨さんに話を聞きました。

「Re:ef」がつなげる思い

──井本さんが「Re:ef」がつなげていきたい思いとは、どんな思いですか?

井本(敬称略)──

まずは、おばあちゃんの「島に帰りたい」という思いから始まりました。

私にとって北木島は、父の実家で、おばあちゃんの家がある場所。

おばあちゃんはずっと島で暮らしていましたが、体調を考え島を離れ本土で暮らすようになり、その後、施設へ入りました。

コロナ禍で会えなくなり、容体があまり良くないことが増えてきた2021年冬、NHK岡山のテレビ番組「@(あっと)okayama」の「石に恋して 〜北木島からのおくりもの〜」という企画で、私はアクセサリー制作について取材を受けたんです。

その番組の企画のなかで、おばあちゃんにアクセサリーをプレゼントするきっかけをいただきました。

施設で過ごすおばあちゃんは元気だったけど「島に帰りたい」とよく言っていて。

なので、ふるさとシンボルである北木石を使ったアクセサリーを渡して、島のことを思い出してもらえたらと思いました。

結局、コロナ禍だったため、直接はおばあちゃんに会えず、動画で思いを伝えた形だったんですが。

そのあと、おばあちゃんは体調崩し、3か月後に亡くなりました。

島に帰れないまま。

おばあちゃんが大好きな海の見えるところに、お墓を建てました。

北木島で育った父も、ふるさとへのそういう思いがあるだろうと思います。

番組の放送はもう2年以上前(初回放送日: 2021年4月9日)ですが、今でもその番組を見て、アクセサリーを買い求めてくださるかたがいらっしゃいます。

「なんで、石でアクセサリーを?」と聞かれることが多く、北木島の話と、おばあちゃんの話をすることが多いです。

アクセサリーを買ってくれたかた、知ってくれたかたが、「自分のふるさとを思い出した」、「私もおばあちゃんが島に住んでいて…」と話してくださることもあります。

そのおばあちゃんに、「プレゼントで贈ります」というかたも。

こんなふうに、ふるさと見て思い出すものをつなげていくことを、アクセサリーを通してやっていきたいんです。

──井本さんがアクセサリーをつくることで大切にしていることは?

井本──

最初は、北木島の石を知っている人でも墓石のイメージが強いと思って、若者に向けて明るく北木石を発信できればという気持ちでした。

でも、今は自分の気持ちもだいぶ変わってきました。

手にしてくださるかたと話すことで、つなげてくれる思いを想像できるようになったからです。

私は、イベント出店や出品が決まると、実際に行って、そこに合うイメージで制作するんです。

訪れるかたの年齢層を聞いて、その場に飾っているアートなど見て、アクセサリーがその場の雰囲気とかけ離れないように

たとえば、愛知県の「高浜市やきものの里 かわら美術館」に出品させていただいたときは、かわらの街なので伝統的なイメージを持ちました。

一緒に出品された作家さんは、土や水など自然のものを使って造形されることもあり、そのときのアクセサリーは、かわいらしさよりも、アーティスティックなものに仕上げました。

「高浜市やきものの里 かわら美術館」の出品用に制作したアクセサリー

こうして、それぞれの場所に合わせて制作したほうが、そこにいるかたの心に響くと思うんです。

──ワークショップもされていますね

井本──

アクセサリーづくりのワークショップについても、開催場所によって、その都度内容を変えています。

丸亀お城まつり2023 写真提供:井本恵梨さん

たとえば笠岡市の「竹喬(ちっきょう)美術館」では日本画の絵の具とコラボレーションしてほしいというご要望をいただき、時間を長めにしました。

北木石を広めることは一緒ですが、ワークショップの時間も、つくるものも、毎回バラバラで、対象についても小さい子から大人までそれぞれ。

つくったあと、アクセサリーを身につけてほしいと思っているからなんです。

手軽につくりすぎると、のちのち身につけなくなることもよくあるので。

お守りとして持ってもらえるような、深いワークショップがいいなと思ってやっています。

深まる北木島との絆

──北木島に訪れることはありますか?

井本──

子どものころは夏休み、お正月など年に4回くらい行っていました。

おばあちゃんが北木島を離れてからは行く機会がなかなかなかったのですが、今はちょこちょこ行っています。

アクセサリーつくるようになってからですね。

テレビ番組の取材のとき、久々に、おばあちゃんが暮らしていたい家に入って。

誰かが出入りしていないと寂しいなと思いました。

おばあちゃんがいなくなって、さらにそう感じるようになって、多くて月一回くらいは行きたくなるようになりました。

何も用事がなくても、海を見に行きたくなるんです。

なんでアクセサリーづくりを始めたのか、思いをつなげるために始めたことを、思い出すために行っているんだと思います。

実は、「石の島ガイド」の研修を受けて、北木島のガイドができるようになりました。

研修の一環で一度、ガイドをすることになっているんですが、2023年7月にMAMANのお客様25人と一緒に行ってきました。

2023年7月に北木島を案内したときのようす 写真提供:井本恵梨さん

──井本さんの北木島のおすすめスポットは?

井本──

私のおすすめは、まず旧映画館・光劇場に行くことです。

北木島の歴史がわかるショートムービーを見られるのですが、私はそれを見て泣きました。

撮影当時の島のみなさんが出演していて、しゃべり方がおばあちゃんとそっくりで。

この人たちも元気でおるから、引き継いでいかんといけんな」と改めて思うんですよね。

みんなにも見てもらいたいと、2023年7月のガイドのときにもコースに入れて、好評でした。

2023年7月 北木島を案内したときのようす 写真提供:井本恵梨さん

最初に見てから島を巡ってもらうと、感じ方が変わると思います。

そのあとのおすすめコースは、光劇場から歩いて、東京に行き損ねたといわれる残念石を見て、コロナ禍で叶いませんでしたが中西圭三(なかにし けいぞう)さんが来る予定だった湖上のステージ北木のベニス、そしてを見てほしいです。

北木のベニス

歩きだと時間がかなりかかってしまいますが、できればおばあちゃんが暮らしていた地域の海「外浅海」がとてもきれいなのでおすすめです。

──今後、やってみたいことはありますか?

井本──

全国あちこち、お店の一角などでワークショップやポップアップをやってみたいです。

自分が行って、ワークショップを開催したり、アクセサリーを手にとって見てもらったり。

美術館や公民館、エステサロン、車屋、どんな場所でも機会があれば伺いたいです。

そして、アクセサリーをきっかけに、北木島を知ってもらって、来てもらえたらすごくうれしいですね。

北木島でなくても、「故郷に帰ってみよう」とか、「なかなか会えていないあの人に久々に会いに行こう」とか、思い出してもらえたら。

「あなたを思い出して、このアクセサリー、買ったんだよ」と伝えると、プレゼントをもらった人からも喜んでもらえると思うんです。

おわりに

井本さんと私が出会ったのは、ちょうど井本さんが北木石でアクセサリーづくりを始めたころ。

もうすぐ4年が経ちます。

印象的だったのが、アクセサリーをつくるようになってから、島を訪れる回数が増えているという話です。

井本さん自身も、アクセサリーづくりを通して、北木島とつながりを深めていることにうれしくなりました。

アクセサリーの購入者との北木島ツアーなども実現するかもしれませんね。

これからの展開が楽しみです。

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