【子ども】知っておきたい“里親制度の実態と課題”とは?いま求められる「養育里親」のこと

親からの虐待、経済的理由、親の病気など、様々な事情で親と離れて暮らすこどもは、全国で4万2千人存在します。

親と離れて暮らすこどものほとんどは、乳児院や児童養護施設で保護され、そこで生活を送ることになります。

施設で育つこどもたちは、『家庭』での暮らしを知りません。

『自分だけを見てくれる大人』の存在を知りません。

そんなこどもたちに『家庭で愛される経験』『自分だけを見てくれる環境』を与え、視野を広げてあげることができる“こどものための制度”が『里親制度』です。

里親に関する情報発信と里親へのサポートを行うNPO法人日本こども支援協会の大西敦子さんのお話をもとに、里親制度の実態と課題についてお伝えします。

今広く求められている『養育里親』とは?

10月4日は厚生労働省が定めた『里親の日®』。そして10月は『里親月間』です。

とはいえ、このことはまだ世間に十分に周知されていません。初めて知ったという方も少なくないでしょう。

里親には『養育里親』(専門里親、ファミリーホームを含む)、『養子縁組を希望する里親』、『親族里親』などの種類があります。

その中で、今広く求められている『養育里親』は、原則として0歳~18歳までの要保護児童を一定期間養育する里親です。

※原則18歳までですが、こどもの状況によっては20歳まで、大学進学等を理由に22歳まで養育するケースもあります。養育期間はまちまちで、数週間や1年以内などの短期間の場合もあります。

里親になるためには?

里親になるための条件は、以下となっています。

●要保護児童の養育についての理解および熱意と、児童に対する豊かな愛情を有していること

●経済的に困窮していないこと

●都道府県知事が行う養育里親研修を修了していること

●里親本人またはその同居人が欠格事由に該当していないこと

保育士や福祉士等の資格は必要ありません。実子がいても里親になることができます。

また、独身でも里親としての登録をすることは可能です。

ただ、里親として登録をしても、里親の委託が受けられるかどうかは別問題になります。里親登録をしているのに里子の委託相談がない『未委託里親』は、6割を超えているのが現状です。

里親になる上で一番大事なのは、「社会的養護下にあるこどもを受け入れるための養育環境、そして養育能力が登録している里親にあるか?」ということです。

こどもを委託するかどうかを判断するのは、児童相談所になります。

例えば、独身者で子育て経験がない場合、『乳幼児等、一歩間違えれば生命の危機に陥るこどもを委託させられない』『独身だと就労しているため、日中こどもを養育する事ができない』などが考えられるため、児童相談所が委託を依頼する可能性は極めて低くなります。

里親になるのはどんな人が多い?

大西敦子さんは、NPO法人日本こども支援協会の立ち上げから、里親制度の普及と、里親になった方たちのサポートに関わってきました。

里親になるのはどんな方が多いのでしょうか?

大西さん「年齢層では40代から60代の方が多いです。厚生労働省のデータでは、全体の6割が50代以上となっています。

子育て経験がある里親さん、子育て経験のない里親さんの割合は半々ぐらいです。

不妊治療を経てこどもを授からず、実子を持つことは諦めたけど、『子育てに関わりたい』ということで里親になられたご夫婦もおられます。

共通しているのは、多くの方が『こどもたちのために何かしたい』『こどもたちの未来に貢献したい』という思いを強く持っていることです」

里親はこどもたちの未来にどう関わる?

里親はこどもたちの未来にどう関わっていくことができるのでしょうか?

大西さん「日本において児童養護施設の入所理由で一番多いのは『親の虐待(45,2%)』。次いで『親の就労・経済的理由(9,2%)』です。

愛情や適切な養育環境を与えられず育つ子は、意欲や自己肯定感が低下します。周囲とうまくコミュニケーションを取ることができず、人間関係において孤立しやすくなります。

また、成長し、自分が家庭を持つときに、どう子育てしていいのか分からず、孤立してしまい、子育てが難しい状況に陥ることにも繋がります。

里親は、こどもに安心して暮らせる環境と愛情を与えることで、こどもの意欲や自己肯定感の向上、精神的・経済的な自立をサポートすることができます。虐待の連鎖を止める手がかりにもなり得ます。

こどもの視野を広げることができというのも、里親としての大きな役割であり、やりがいと言えるでしょう。

里親家庭には、児童養護施設にはない、その家庭にしかない独自の物がたくさんあります。

ゴルフが好きな方の家には、ゴルフに関するグッズや本がたくさん置いてあるでしょう。小説が好きな方の家には、たくさんの小説が置いてあるかと思います。

その家庭独自の習慣やルールもきっとたくさんありますよね。

里親家庭で暮らすことで、こどもは今まで知らなかったことを知り、いろんな価値観があることを学べます」

里親制度の課題と、それを支える仕組みについて

里親制度には大きな課題もあると言います。

現状、どんな課題があるのでしょうか?

大西さん「登録里親数は徐々に増えていますが、委託後1年未満で25%、4人に1人の里親がギブアップしているという報告もあります。

育てられない親の代わりにこどもを育てるという大切な役割を担う里親。ギブアップしてしまう里親が減らないのは、里親が抱える悩みや苦悩を吐き出すことができない環境や構造に大きな原因があります。

里親の子育てには、社会からの理解と手助けが圧倒的に不足しているのです。

そうした現状を打破するために、NPO法人日本こども支援協会はさまざまな活動を行なっています。」

NPO法人日本こども支援協会の、里親を支える主な活動を以下にご紹介します。

オンライン里親会『ONE LOVE』

すべての里親が繋がり支え合えるコミュニティを運営しています。同じ悩みを持った里親仲間と辛い気持ちを共有したり、先輩里親に悩みを打ち明けることでアドバイスをもらうこともできます。オンライン里親研修や養育講座も開催しています。

里親に必要な情報を届ける『里親ガイドブック』

全国の里親、またこれから里親になる方に、必要な情報を適切に伝えるためのサイトを運営しています。地域や地方によって情報の格差が起きないよう、全国で悩む里親を応援し、里親の離脱を防ぎます。

いざというときのための『里親保険』

こどもが怪我をした、トラブルで物を破損してしまった…そんないざという時のために保険は不可欠です。行政が負担すべき里親の保険ですが、地域によっては里親が負担しているケースもあります。その保険料を里親の代わりに全額負担しています。

大西さん「里親は、社会全体で子育てをしていく要となる大切な存在です。その里親たちを社会全体で支えていくという意識を持たなければ、ギブアップしていく里親は減らないままでしょう。

当協会では、10月4日の里親の日®、そして10月の里親月間に向けて、毎年『ONE LOVE全国一斉里親制度啓発キャンペーン』を行っています。社会的養護が必要なこどもの人数と同じ4万2千枚のハートのチラシを作り、配布しています。

FacebookやInstagramなどのSNSを通して、里親や施設の職員、4万2千人のこどもたちに応援メッセージを送ることもできますので、ぜひ参加してみてください」

里親にはなれないけれど、「里親たちを応援したい」「親と暮らせないこどもたちを支援したい」という方は、『寄付里親』という形で、NPO法人日本こども支援協会の活動を支えることができます。ぜひホームページをご覧になってみてください。

【取材協力】大西 敦子(おおにし あつこ)

NPO法人日本こども支援協会の前理事。現在は「中の人」として主にサイト運営や里親たちのサポートを行う。選択理論心理士。

大西敦子(NPO法人日本こども支援協会)

【参考】
・NPO法人日本こども支援協会

・ONE LOVE全国一斉里親制度啓発キャンペーン

・ONE LOVEオンライン里親会

・児童養護施設入所児童等調査の概要(平成30年2月1日現在)ー厚生労働省子ども家庭局 厚生労働省社会援護局障害保健福祉部 令和2年1月

(ハピママ*/ 黄本 恵子)

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