「市川監督にありがとう伝えたい」 横浜・西前小の児童、長編映画撮影へ

脚本の構成や映画監督の仕事を児童に教えた市川徹監督=7月11日、横浜市立西前小学校

 横浜や富山など各地で約90作の映画を撮り、8月に死去した市川徹監督(75)=横浜市出身=に映画作りを学んだ横浜市立西前小学校(同市西区)の5年生29人がこの秋、地元で長編映画を撮影する。“地域映画の巨匠”と称された市川監督と共に仕事をした俳優らが引き継ぎ、児童らは「作品を完成させ、市川監督にありがとうと伝えたい」と話している。

 「表現が難しいのは、自由。自由に生きることこそ制約がある」

 7月中旬、市川監督は同校の授業で、5年2組が映画製作のテーマに選んだ「友情」「自然」「自由」について助言した。「三つを足したら素晴らしい映画になるんじゃないかな」

 「俳優と監督の両方はできるんですか」「見た人が自由を感じる映画にしたい」─。児童らは市川監督の話を聞き、映画製作への興味を膨らませていった。

 市川監督は笑みを浮かべ「北野武のように俳優と監督をする例もある」などと語りかけた。「みんなで決めましょう」「監督も脚本の作業に入って」と、クラス全体で映画を作る大切さも伝えた。

 しかしこの授業から約50日後、がんでこの世を去った。7月下旬に余命宣告を受け、8月4日の脚本指導には酸素ボンベを着けて臨んだ。今月上旬、担任の教諭が児童らに監督が亡くなったことを伝えると、児童から「絶対に映画を完成させたい」と力強い声が上がった。

 5年2組の映画作りは、市川監督と14年間仕事をした女優・映画監督の竹内晶子さん(63)が継いだ。市川監督と関わった映画監督の小山祥平さん(25)=東京都=と撮影監督太田黒哲さん(42)=横浜市西区=も加わり、児童たちは脚本、カメラ、録音など各班で準備を進める。

 同校児童らの映画作りは約2年前、6年生から「映画を作りたい」と声が上がったことをきっかけに始まった。学校近くに事務所があり、地元の藤棚商店街で作品を撮った市川監督に指導をお願いすると快諾。児童らは商店街で撮影を重ね、昨年3月、約40分の作品を地域の映画館「シネマノヴェチェント」(同市西区)で上映した。

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